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2017年11月30日

日本生まれの最先端技術がもたらす未来とは

量子アニーリングとは何か? 機械学習を飛躍させるD-Wave実装の原理

現在、量子コンピュータに関するさまざまなニュースを目にすることが増えてきた。2011年に突如現れた商用ハードウェアD-Waveを動かす原理が「量子アニーリング」だ。研究者の間では注目の技術だが、一般的にはまだまだ知名度は高くない。量子アニーリングは「組合せ最適化処理」を高速かつ高精度に実行すると期待されている計算技術だ。本稿では「量子アニーリングとは何か」を解説するとともに、量子アニーリングがもたらす将来の可能性について展望する。

執筆:早稲田大学高等研究所 准教授 田中宗

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量子コンピュータに利用される計算手法量子アニーリングとは何か

(出典:D-Wave Systems Media Resources)


「量子アニーリングによる組合せ最適化」が必要な理由

 実は、「量子アニーリング」の“生まれ”は日本である。

 1998年に東京工業大学の門脇正史氏と西森秀稔氏によって提案され、2011年に量子アニーリングを実行する商用ハードウェアD-Waveが発表された。現在ではいくつかの企業が利用し、量子アニーリングの活用シーンを探索している。筆者もD-Waveを用いた研究を既に実施している。

 「量子アニーリング」が実現する組合せ最適化処理とは、「膨大な選択肢からベストな選択肢を探索する」という処理だ。当たり前にように聞こえるが、さまざまな業種において必要不可欠な技術である。組合せ最適化処理の典型的な例として、「巡回セールスマン」問題や「ナップサック問題」と呼ばれるものがある。

 巡回セールスマン問題とは、多数の場所を訪問する際に、コスト(移動時間や交通費など)を最小化する経路を探索する問題である。一方、ナップサック問題は、詰め込める荷物の総容量が決められた際に、詰め込んだ荷物の総価値を最大化する荷物の詰め方を求める問題である。

 いずれの場合も、最も損失を最小化する、もしくは最も価値を最大化するという「ベストを探索する問題」である。また、現在さまざまな業種で導入されている機械学習にも、組合せ最適化処理を含む場合がある。

 では、なぜ組合せ最適化処理を高速化する必要があるのだろうか。組合せ最適化処理はデータ規模(巡回セールスマン問題の例で言えば、訪問する場所数)が多くなるにつれて、選択肢の数が爆発的に増加する。そのため、データ規模が大きくなっても、「組合せ最適化処理を高速に実行する技術」が求められていたのだ。

 IoT(Internet of Things)が社会実装へと向かいつつある昨今、より多くのセンサーデータを獲得することが可能になり、かつ、その膨大な情報を高速に処理することが必須となる。

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組合せ最適化処理を高速化するメリット

 このような背景から組合せ最適化処理を高速化するニーズが高まっていると感じる。これまでも、組合せ最適化処理を高速化するさまざまな計算技術は開発されてきた。その中で突如、量子アニーリングと呼ばれる新しい計算技術が近年、注目を集めるようになってきたというわけだ。

情報処理に物理学の概念を導入

 先述したように、量子アニーリングは組合せ最適化処理を高速かつ高精度に実行できると期待されている計算技術である。さまざまなところで使われている「シミュレーテッドアニーリング」と呼ばれる方法があるが、それに極めてよく類似した計算技術である。選択肢の「良さ」をコスト関数と呼ばれる「実数値関数」で表現し、これが最も低くなる選択肢がベストな選択肢というわけだ。

 このコスト関数を、物理学における概念である「エネルギー」と読み替える。つまり、エネルギーが最も低い状態(安定状態)を探索する問題に置き換えるという発想の転換で考えられた技術である。

 これにより、情報処理に物理学の概念を導入することが可能になる。シミュレーテッドアニーリングは、「熱揺らぎ」と呼ばれる、自然界に存在する揺らぎ効果を情報処理に擬似的に導入し、熱揺らぎを徐々に弱める。つまり温度を徐々に下げるという操作を模倣することにより、安定状態を得る計算技術である。

 量子アニーリングは、この熱揺らぎと呼ばれる揺らぎ効果の代わりに、量子揺らぎと呼ばれる揺らぎ効果を導入して、シミュレーテッドアニーリングと同様のことを行う、という仕組みである。1998年に門脇正史氏と西森秀稔氏によって理論的に提案された計算技術である。

 門脇氏と西森氏による理論的な提案から10年余り経過した2011年、カナダのバンクーバーに設立されたベンチャー企業D-Wave Systemsが、世界初の商用アニーリングマシンD-Waveを発表した。

 その後、ほぼ2年に1度のペースでハードウェアの更新が行われ、現在に至る。ハードウェアの更新ごとに、D-Waveの中に搭載された超伝導量子ビットの個数が2倍程度増加しており、現在では、2048個の超伝導量子ビットが集積されたハードウェアD-Wave 2000Qが最新の量子アニーリングマシンである。

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量子アニーリングの歴史(図中の写真はD-Wave Systems社webサイト Media Resourcesより)

NASAやGoogle、国内企業も…

 数年前に量子アニーリングが注目されたきっかけは、Google、NASA、宇宙研究大学連合(USRA)から構成される量子人工知能研究所やLockheed MartinがD-Waveを導入したと発表したからだ。

 2017年には、量子アニーリングマシンを利用した新しい取り組みに挑戦する企業が増えてきた。特に話題性が高かったニュースは、この3月にVolkswagenがD-Waveを用いた研究を開始すると発表したことだ。

 また、日本国内でもD-Waveを用いた研究開発を行う企業が現れてきた。リクルートコミュニケーションズが実証実験を開始したほか、フィックスターズや豊田通商によるD-WaveSystemsとの協業発表、デンソーなどによるD-Wave利用へ向けた取り組みについても報道がなされている。

 さらに、東北大学大学院 情報科学研究科 准教授の大関真之氏は、JST START事業の支援を受け、D-Waveを使用した研究を開始すると発表した。これは、日本の国立大学、研究機関として初めて量子アニーリングマシンを利用した研究開発プロジェクトである。

 現在、世界各地のエンジニアや研究者が、量子アニーリングが真に使える技術かを見定めるべく、研究開発に取り組んでいるという状況である。

「Qubits 2017」で見た日本のプレゼンス

 2017年9月には、量子アニーリングマシンD-Waveのユーザーが集まるカンファレンス 「Qubits 2017」が、米国メリーランド州で開催された。カンファレンスに参加したのは組合せ最適化処理や機械学習へD-Waveを適用する研究開発に携わっている研究者で、それぞれが研究成果や今後の展望を披露した。

 また、D-Wave Systemsが今後、D-Waveをどのように改善していくのか、現状のD-Waveが抱える課題なども共有された。日本からは、現在D-Waveを用いた研究を本格的に行っている企業からの参加だけでなく、これから利用する予定の企業、及び筆者を含む早稲田大学のメンバーも参加している。

【次ページ】研究環境と人材を確保した米国研究所

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