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デンソーと東北大学量子アニーリング研究開発センターはこの秋、米国テネシー州で開催された 量子コンピューター(量子アニーリングマシン)を展開するD-Wave Systems主催の世界最大級のカンファレンス「Qubits North America 2018」で、共同研究を発表した。カンファレンスでは、量子アニーリングマシンを活用した応用事例が数多く報告され、デンソーと東北大が発表した共同研究内容は喝采を浴びることになった。発表の当事者である筆者が解説する。
執筆:東北大学大学院 准教授 大関 真之 構成:編集部 山田竜司
執筆:東北大学大学院 准教授 大関 真之 構成:編集部 山田竜司
「量子」で混雑してもスムーズな移動を可能に
今回デンソーと東北大学が発表した研究成果は、「複数の無人搬送車(Automated Guided Vehicles:AGV)による、スムーズな移動システムの構築」だ。
このシステムでは、複数の無人搬送車に対し、時々刻々変化する状況に応じて最適な経路選択を指示をすることで、従来の方法によりもスムーズに移動をすることが可能になる。もちろん、安全性は維持する。工場内の製品搬送などの手段として活用できる。
現在、無人搬送車では、路面にテープなどで決められた経路に従って移動をする方式が主流だ。それぞれの無人搬送車は、処理をするタスクが事前に与えられており、そのタスクに応じて荷物を移動する。
できあがった製品を車に荷詰する準備をし、多くの荷物が人間の手を離れて搬送されるというプロセスだ。
しかし、工場では事前に予測できない多くの事象が発生する。たとえば、製造の遅れ、設備不良や労働者の体調不良、さらに、緊急対応が必要な依頼など、生産計画を変更せざるを得ないケースは多い。
この場合、事前にタスクを与えるシステムでは、不測の事態に対応できない。そのため、時々刻々と変化する状況を検出し、即時対応が要求される。
こういった「リアルタイムに運行を最適化すること」に
量子アニーリングマシン を使えないかというのが、デンソーのチャレンジだ。
なぜ従来の方法では不十分なのか
従来の無人搬送車を複数台制御する方法は、ルールによって搬送者を制御する「ルールベース」だった。実はこの手法でも目の前に人や障害物が存在する場合を含め、無人搬送車どうしの衝突を避けつつ、定められたタスクをこなすことは可能だった。
交差点や複数の無人搬送車が渋滞を引き起こした場合にも自動的に停止し、「安全第一」の“ポリシー”に従って、決められた順番で移動していく。
一方、これでは、ルールに従って動くだけなので、1箇所がとまってしまうと、全体が渋滞してしまう。「工場全体を最適化」するには違う手法が必要だった。
そこでデンソーと東北大学量子アニーリング研究開発センターは、この無人搬送車の制御に量子アニーリングという新しい技術を導入し、交差点での無人搬送車の発車・停止タイミングや優先順位に着目して、最適化制御技術を開発したのだ。
VIDEO
量子アニーリングがぶつからない“解”を出す仕組み
ここで、
量子アニーリング についておさらいをしておこう。
量子アニーリングとは、量子力学に基づく自然なダイナミクスを利用し、与えられた組合せ最適化問題を解く計算技術である。D-Wave Systemsが開発した量子アニーリングマシンは、理論どおりの動作はしないものの、与えられた「組合せ最適化問題」について、最適に近い回答(近似解)を出すことができる。
この性質を利用し、デンソーと東北大学の研究チームは複数の無人搬送車の経路の選択で、無数の組合せから、「ぶつからない安全な解」を抽出した。
そのあとに「できるだけ長く移動を行うものを選択する」という2段構えの計算手法を採用。量子アニーリングマシンを利用した工場内で、無人搬送車の高速な最適化手法の開発に成功した。
その手法はこうだ。
実際の工場で使用することを想定した地図上で、10台の無人搬送車が動くシミュレーターと併用し、開発した最適化手法の有効性を確認した。
次に、時々刻々変化する状況に合わせ、量子アニーリングマシンがぶつからない解を出力し、その中から最善のものを選択し、その後に無人搬送車に伝えた。その結果、従来の無人搬送車の動きに比べて、ぶつからないことはもちろん、スムーズに効率よく動作することを確認したのだ。
特に指標の一つとなるのが、無人搬送車の稼働率である。従来の無人搬送車は、今回のシミュレーションで用いた工場や無人搬送車の設定、タスクでは80%の稼働率だった。この数字は、量子アニーリングマシンを導入した場合には95%の稼働率にまで上昇した。
【次ページ】デンソーと東北大が喝采を浴びたワケ
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