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よく混同される「ティール組織」
最近注目されているティール組織は、ホラクラシー型組織と混同されやすい。というのも、ティール組織も上意下達式のマネジメントではない、組織全体の目的に対してメンバーが自発的に貢献する姿が推奨されているからだ。
日本において、2018年1月に邦訳が出版され、ベストセラー化し、注目を集めた『ティール組織』でティール組織は紹介された。
ティール組織は、「人間同士が形成する組織のあり方が、時代とともに進化してきた」という考え方に基づいている。
短期的展望に基づいて、リーダーが恐怖や力によって支配する最初の段階(RED)に始まり、リーダーが長期的視野に基づいて上意下達のヒエラルキー型マネジメントをする段階(AMBER)、機能分化が進み、競争原理のもとに合理的なヒエラルキー組織となった近代的な段階(ORANGE)、フラットで個人個人の多様性が尊重される今日的な段階(GREEN)、という具合である。
ティール(TEAL)の段階とは、一個の生命体のようにメンバー同士がより緊密に連携する状態だ。これがGREENの抱える非効率性を克服することにつながるという見方をしている。
書籍の『ティール組織』の中で、ホラクラシーはティール組織の実現例の一つとして紹介されている。
ティール組織との違い
ここで、ホラクラシー型組織とティール組織の違いに着目したい。
ホラクラシー型組織は組織を「生態系」とみなす。ティール組織は組織それ自体を「一個の生命体」とみなす。
ホラクラシー型組織は、中に生息する個体それぞれが、生態系のルールの範疇で自分の利益を追求することが、結果として生態系全体の活性化と生き残りにつながるという考え方である。ティール組織は、メンバーそれぞれが自分の所属する生命体の「進化の目的」を理解して、その実現に力を尽くす。
ティール組織の考え方に、若干、上意下達型のヒエラルキー的発想が残っているのに対して、ホラクラシーのほうがより徹底的な上意下達の否定、ラディカルな思想変革を志向している。
ホラクラシーの事例(国内、国外)
ホラクラシー導入企業としては、米国の企業ではZappos、Airbnb、Mediumの3社が有名だ。日本企業ではカヤック、ソニックガーデン、ダイヤモンドメディアの3社が、しばしば「ホラクラシー的な経営をしている」と言われる。ここで、各社各様の取り組みについて、少しご紹介したい。
まずは海外事例を見てみたい。靴などのアパレルECを展開するZapposでは、「費用を広告ではなくカスタマーサービスに投資し、顧客と長期的に良い環境を作っていこう」という哲学に基づき、カスタマーサービスにおける権限や裁量が従業員に与えられていて、自律的に顧客との関係構築に取り組めるような環境が整えられている。
一方で、宿泊に関わるマッチングサービスを提供するAirbnbでは「ヒエラルキー」と「ホラクラシー」の中間的なマネジメントスタイルを見出したとか、ソーシャルパブリッシングサービスのMediumにおいては、公式サイト上でホラクラシーの良さを表現しつつもホラクラシーから「卒業」したとするなど、こちらは試行錯誤、模索中といったところのようだ。
国内においてはカヤックの教育・研修プログラムがユニークだ。公式HPでは、年に2回の「ぜんいん社長合宿」「ぜんいんでキャリア面談」などが紹介されており、ホラクラシー的な考え方が反映されている施策の例だと言えるだろう。
ダイヤモンドメディアは、代表の武井氏自らがネット上でも積極的に情報を発信しており、さまざまな角度からホラクラシーについて語っているが、その根本にあるのは、「徹底的な情報の開示と共有」という信念だ。給与も業務時間も、仕事内容もすべてを互いに開示することによる自浄作用の働きがうまれる、という考え方を発信している。
ソニックガーデンはその採用育成のスタイルが独特だ。「トライアウト」「見習い」「バーチャルCTO」などユニークな制度で事業哲学である「納品のない受託開発」の実現を目指している。
ホラクラシー型組織のメリットとデメリット
ホラクラシー型組織は「意思決定のスピードが早くなる」「働くひとの満足度が上がる」というメリットの側面から語られることが多いが、単純化した説明は、かえって誤解を招く。ホラクラシー型組織は、「向いている人や組織にはメリットとして感じられる部分が、そうでない場合にはまったくデメリットとなる」という面があるからだ。
「たとえばこんな人にとっては・・・」という観点から、ホラクラシー型組織を見直したい。
・ビジョンの実現を最短距離で目指す「支配型」のスタートアップ創業者
その創業者のビジョンが明確で、ビジョン実現のための具体的、実務的な過程にも長けているとしたら、ホラクラシー型組織はメリットよりもデメリットの方が大きくなるだろう。なぜなら、ホラクラシー型組織では「あらかじめ理想のあり方を共有した人々が、個別にそれを実現していく」ため、組織を率いる権力を有したリーダーを設置しないからだ。
ホラクラシー型組織において、支配型のスタートアップ創業者は自分が意思決定した内容を部下に実行させるために、組織の人間にわざわざ「理想」を浸透させなければならない。これは支配型のスタートアップ創業者にとって、遠回り以外のなにものでもない。
もちろん、いかに天才的な経営者でも、1人でできることは限られている。だからこそ自主性を発揮しやすい環境づくりを目指すホラクラシーの考え方が脚光を浴びるわけだが、そこから生じる遠回りを経営者自身が受け入れられるかが大きな分かれ目になる。
「自分はこうしたい」というエゴが強い経営者が、中途半端にホラクラシー型組織を取り入れても、いびつな意思決定システムを生み出してしまうし、必ずそれを撤回する日が来る。それがもたらす混乱と比較すると、多少のデメリットはあってもヒエラルキー型を採用したほうが良いといえるだろう。
・「100人の壁」にぶつかった企業のマネジメントボードメンバー
安定的に拡大してきた事業がマーケットを一巡し、成長軌道が鈍化してきた企業にとっては、もしかしたら、ホラクラシー型組織がその壁を打破するかもしれない。
上意下達式でうまくいくのは、再現性の高い公式がぐるぐる回せる規模までが限界で、必ず企業は次の成長プランを描き直すことが求められる。もちろん、別の分野に多角化、進出して次のヒエラルキー型組織を作るとすれば、そのような「壁」についての問題から逃避できるだろう。上場直後の企業拡大フェーズなどにおいては、事業の横展開や新規立ち上げをするのは常套手段だ。
しかし事業の横展開や新規立ち上げは、言うは易いが、行うは難し、である。トップダウンですばやく成長してきた企業が次の事業に失敗するという話は枚挙にいとまがない。
そんなときはホラクラシー型マネジメントがメリットを発揮してくれる可能性が高い。事業創造とは現場におけるトライアル・アンド・エラーのすばやい繰り返しが必要不可欠であり、そうした場においてこそホラクラシーは力を発揮してくれる。
・安定と自己実現を両立したい会社員
ホラクラシー型組織といえば、自分がやりたいことを自由にできて、会社員としての安定も得られる、いいとこ取りの組織、というイメージがあるかもしれない。それは大きな誤解だ。そういう人にとってはホラクラシーはデメリットの方が大きいだろう。
ホラクラシー組織においては、その組織が描くビジョンや美意識、こうあるべきという姿が明確であることが必要で、逆に言えば、そうでなければ空中分解する。
組織全体の目指す姿を実現することと、それと同時に最前線の代表者の1人として責任をおってその役割をまっとうするのが、ホラクラシー型組織のメンバーに求められる姿だ。そこにおいて、自身のエゴや自己実現の幅は意外と狭い。それに強く共感できる人にとっては天国でも、そうでない人にとっては、随分居心地が悪い環境である。
ホラクラシー型組織のこれから
ホラクラシー型組織は「外国の考え方」であり、日本にはあまりなじまない、と考える人もいるかもしれない。しかし、そもそも日本企業の多くは昔からホラクラシー的であった。
下級武士がリードし実現させた明治維新からこのかた、日本型組織の特徴とは、極めて強烈な現場主義であり、幹部や上層部というものは、そもそもあてにされていない。雇用慣行においても、スキルや実績よりも「社風に合うかどうか」を重視してきた点は見逃せない。
そのなかで、リクルートの有名な企業文化「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」は日本型経営スタイルの極致であり、これはまさしくホラクラシー思想と大いに共鳴するキャッチフレーズだ。
しかし、今の日本でこのような現場主義を貫いて成功している企業は多くない。思い切って現場主導でやりきってしまえばいいのに、意外とそこまで振り切れない企業が多いのだ。実態としては現場主導であっても、形式上は上意下達の階級社会を必要としてきた。だからこそ「神輿は軽いほうが良い」「あの人も詰め腹を切らされて気の毒に」といった言葉がいまだなおリアリティをもって使われている。
ホラクラシー型組織を徹底するということは、組織に属する1人ひとりが責任をもって矢面に立つ、ということを意味する。個人の立場、自分自身の名においてものごとを成すということが苦手な日本人にとっては、意外と苦難の道であるかもしれない。しかしポテンシャルはある。従来のヒエラルキー型組織の限界は、すでに誰の目にも明らかだ。決してバラ色ではないにしても、ホラクラシー思想を受け止め、考え、今後のビジネスに活かすことをお勧めしたい。
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