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「ホラクラシー(Holacracy)」という言葉が注目を集めている。これは、「上司や部下といった関係性を排除したフラットな組織構造」を意味し、階層的な構造である「ヒエラルキー」の対極にある概念だ。日本では面白法人カヤックが事例として知られる。ホラクラシーのメリットには「素早い意思決定が可能」などと紹介されているが、本当にそうなのか。デメリットはないのか。ホラクラシーとはどのような概念で、ヒエラルキー型組織、ティール組織とどう違うのか。どのように生まれたのか。その特徴とよくある誤解を整理して紹介したい。
ホラクラシーの由来
ホラクラシーとは、従来のヒエラルキー(階層的に秩序づけられたピラミッド型の組織体系)とは違う、新たな組織形態として紹介されている新しい概念である。
用語としては、明確な定説や定義が存在しているわけではなく、たとえばそれが、アメーバ経営とどう違うのか、単なる役割給のことではないのか、という素朴な疑問に答えるのも、実は容易ではない。事例として紹介される各社にしても、その取り組みの方針や問題意識はさまざまである。その組織の規模や歴史に応じて、試行錯誤がなされているといった状況だ。
まずはその由来を確認しよう。ホラクラシーは、2007年にソフトウェア会社Ternary Softwareの創業者、ブライアン・ロバートソン 氏が提唱した概念だといわれている。
その語源はアーサー・ケストラー氏の著書『機械の中の幽霊(The Ghost in the Machine)」で提唱されたホラーキー(holarchy)から来ているそうだ。
ホラーキーとは、ギリシャ語の holos(Whole / 全体)に由来する造語である。あらゆる生物や人間、それらの社会現象は、上位のレベルから見れば「部分」であり、同時に下位のレベルに対しては「全体」であるという両面性をもっている。全体を司る一部でありながらも独立した一部であるという、双方の機能を保持している、ということを意味する言葉だ。
もともと、IT系スタートアップの世界においては、「アジャイル開発」や「リーンスタートアップ」という言葉でホラクラシー的なものの実践の萌芽が見られていた。ホラクラシーとは、インターネットというものが本質として持っている反・中央集権性を、企業組織論に持ち込んだ一形態、と見て差し支えないだろう。
ホラクラシーの特徴とは
ホラクラシーとは一体なんなのだろうか? 先ほど見たように定義は曖昧だが、その特徴は以下の3点である。
1. 肩書や職種、上下関係による組織化ではなく、役割による組織化をする
2. 固定化された縦割りピラミッド型組織ではなく、流動的なハブ・アンド・スポーク型組織を志向する
3. 組織のコアメンバーは、「業務のマネジメント」ではなく「業務の環境づくり」を重視する
これらによって、「イノベーティブで、意思決定が早い組織になる」「メンバーが自発的に業務に取り組むようになり、サボりが生まれない」「人間関係に起因するストレスが軽減される」といったようなメリットが発生するといわれている。
ホラクラシーの提唱者であるロバートソン氏は現在、「HolacracyOne」という団体のメンバーで、ホラクラシー型組織の推進に携わっているそうだ。その
公式サイトによると、ホラクラシーには1000を超える導入事例があるとのことだ。
日本国内においては、ホラクラシー思想を積極的に発表しているダイヤモンドメディア社が有名だが、そうそうたるグローバルカンパニーがその実態を視察に訪れているという。彼らは従来型のヒエラルキー組織の弊害を解決するヒントにしたがっているのだ。
現在、ホラクラシーは萌芽期を終えつつあるが、普及には至っておらず、その前夜といったところにあるといえるだろう。
ヒエラルキー型組織とは
ここでホラクラシー型組織とヒエラルキー型組織との違いを整理したい。
両者の第一の違いは統治原理だ。ヒエラルキー型組織においては、指揮命令系統が上意下達の方向で存在し、人は所属する階層に応じて意思決定していい範囲である「権限」が定められている。
一方、ホラクラシー型組織においては、推奨される行動を示す考え方やポリシー、ルールが優先される。「最高意思決定者の考えが、その下位に属する人々の手で実現される」のではなく、「あらかじめ理想のあり方を共有した人々が、個別にそれを実現していく」のがホラクラシー型組織の姿なのだ。
ヒエラルキー型組織との違い
この結果として、組織のあり方に大きな違いが生じる。主なものとして、以下の3点を紹介したい。
1.マネジメントの対象
ヒエラルキー型組織においてはマネジメントや評価の対象は「人」だ。その人がいかなる業績を上げるべきか、それはいかにして達成されたか、がイシューとなる。
一方、ホラクラシーにおいては、人ではなく「ロール(役割)」がマネジメントの対象となる。組織的な目標に対してどんな仕事がなされるべきか、つまりどんな役割が必要なのかが、第一義であって、「誰が」はその次に来る。
では、もし創業者やCEOが「ロールを定める役割」を担ってしまったら、どうなるだろうか? 実質的に、ヒエラルキー型と変わらなくなってしまう。そこで、各ロールの目的やミッション・権限を決めるのはマネージャーや上司ではなく、ガバナンスミーティングであり、民主的なプロセスによるべきだとされている。
2.情報の対称・非対称
ヒエラルキー型の組織においては、上位者に情報を集中させて、必要に応じた内容が、上位者の都合のもと、下位者に開示するという流れが生まれる。
ホラクラシーではそのような情報の非対称性は生産性を下げる要因になってしまうため、できる限り情報はオープンな状態で誰でもアクセスしやすいようにする。注意しなければならないのは、「アクセスできる」は「待っていれば自分に必要な情報が与えられる」ではない、ということだ。高い自主性を有していれば効率よく動けるが、そうでない人にとっては不満を感じやすい環境だといえるだろう。
3.力を発揮しやすい環境
ヒエラルキー型組織が成果を生み出しやすいのは、規格大量生産式のルーティン・ワーク型業務である。再現性の高い成功方式が確立され、いかに同じことを繰り返すか、という場合において、強力な威力を発揮する。
ホラクラシー型組織はその逆で、「実現すべき価値観は明確だが、個別の案件についてはプロジェクト・ワークが多い」という場合に生産性を発揮する。
ホラクラシー型組織の誤解
ヒエラルキー型組織は性悪説的マネジメントであり、ホラクラシー型組織は性善説的マネジメントなのだ、という解説をされることも多い。
このイメージに基いてホラクラシーを否定する人々の着眼点は、「そんなことをすれば、トップダウン型で組織の意思統一をすることができなくなる」「従業員の自主性に任せてしまったら、サボりや不正が蔓延する」「計画的な利益の創出や投資が行えなくなる」というものだ。
これはホラクラシーを誤解している。ホラクラシーとは、エコシステムの構築そのものを目指していて、「非効率やサボりのデメリットが、各メンバーに直接反映されることにより、自浄作用を生み出す仕組み」を目指している。そこには性善説も、性悪説も基本的には関係ない。あるとすれば、カルチャーフィットするかどうかだけである。ホラクラシーに取り組む各社は共通して、フィットしない人が自然と排出される仕組みや、フィットする人をうまく発見、獲得できるような仕組みを目指している。
そもそも先に挙げた3つの懸念は、ヒエラルキー型組織においても解決できていない。
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