0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
EC市場規模は2016年に約15兆円を突破し、2010年の約7兆8000億円の約2倍に成長した。さらに、昨年、スタートトゥデイが採寸ボディースーツ「ZOZOSUIT」を配布するなど、ITがアパレルのEC化を促し始めている。そんな中、オンラインカスタムシャツブランド「Original Stitch(オリジナルスティッチ)」を展開するOriginal(オリジナル)は、「ソフトウェア」の観点からECアパレルビジネスに一石を投じた。同社 CEOのジン・コー氏にこれからのECアパレルビジネスについて話を聞いた。
執筆:中村 仁美、聞き手・構成:編集部 佐藤 友理
執筆:中村 仁美、聞き手・構成:編集部 佐藤 友理
Facebook、Netflix、Uber、Amazonの流れがアパレルにも
オリジナルは2015年に米国シリコンバレーでコー氏によって設立された。オンラインカスタムシャツブランド「オリジナルスティッチ」をグローバルで展開するファッションテック(FashionTech)ベンチャーである。
オリジナルスティッチは、10億通りのデザインからオンラインでその人だけのシャツを作ることができる、カスタムオンデマンド型のサービスである。店舗を持たず、シャツを日本国内の工場で製造してメイドインジャパンにこだわり、グローバルにサービスを提供している。
コー氏は「これからのビジネスは『パーソナライゼーション』が主流になる。それはFacebookやNetflix、Uber、Amazonの台頭を見ても明らか」と断言する。
米国ではFacebookがパーソナライズされたニュースを配信して新聞ビジネスの脅威となり、映像ストリーミング配信サービスのNetflixが登場したことで、映画館やCATVは死に絶えつつあるという。Amazonの普及はショッピングモールを廃墟に追い込みつつある。
つまり既存の産業は、このようなパーソナライゼーションされた産業やサービスに取って代わられつつある。だからアパレルやファッションの世界もその方向に進むことは疑いがない、とコー氏は考えている。
ユニクロは「アパレルの王者」ではない
アパレル分野ではもともと、パーソナライゼーションという文化があった。注文服(オーダーメイド/カスタムメイド)と呼ばれるものだ。しかし、この方法では顧客が店舗(仕立屋)に足を運ばなければならないなど手間がかかる上、価格も高くなる。そこで手軽にかつより安価に手にできる既製服(既製品)が登場した。
アパレルビジネスはこのように既製品とオーダーメイド(パーソナライズ品)という2つのセグメントで成り立っている。
「アパレルビジネス90%以上が既製品ビジネスである」とコー氏は語る。
その既製品ビジネスで売上を伸ばしているのがユニクロだ。同社は商品企画から生産、物流までの情報をITで一元管理されたサプライチェーンやオムニチャネル、RFIDなどの洗煉されたシステムを持っている。
「しかしそれは既製品にマッチしたシステムであり、中でもサプライチェーンの仕組みはパーソナライズ品のビジネスにはマッチしない」(コー氏)
というのも既製品とパーソナライズ品の大きな違いは、在庫管理の概念があるか否か。既製品には在庫管理の概念が必要だが、パーソナライズ品は1人ひとりの顧客に合わせてデザインやサイズを決め、服を作るので、在庫管理という概念は不要だ。
つまりユニクロは既製品セグメントのファッションテックの巨人の1社であることは間違いない。その一方で、パーソナライズ品セグメントでは巨人はまだ存在しない。
このようなファッションテックの動きは、アドテクノロジー(アドテク)の世界と似ているとコー氏は言う。
アドテクの世界では、GoogleやFacebookなど、複数の巨人が登場しているが、それぞれ得意とする分野が異なっている。既製品の巨人もユニクロだけではない。それと同様パーソナライズ品のファッションテックも、複数の巨人が登場することが予想されるという。
アパレル小売とECアパレルの「強み」と「弱点」
コー氏は「ユニクロなどのアパレル小売の場合、ビジネスを拡大するには新しい店舗の開設が不可欠になる。用地を確保し、店舗を敷設する。そして一番のボトルネックになるのが人材だ。人材を集めることに加えし、育成するにはそれなりに時間がかかるため、急成長しにくい」と語る。
一方、オリジナルスティッチのようなECアパレルの場合は、店舗のように実物を手に取れず、実際に着てみたらイメージと違ったり、サイズが合わなかったりということがままある。
このような「イメージと違った」という問題に対応するため、オリジナルスティッチは「シャツビルダー」という機能を提供している。
シャツビルダーは、オリジナルスティッチのサイト上で質問に答え、好みの色や形を選んでいくだけで、リアルタイムにデザインが反映され、自分に合ったサイズのシャツができるというもの。
「シャツビルダーはパソコンやスマホなどさまざまなデバイス、Chrome、Firefoxなどさまざまなブラウザに対応している」とコー氏。
さらに、オリジナルスティッチがリリースされて3年経つが、現在のシャツビルダーは4代目。半年に1回、メジャーバージョンアップを行ってきた。現在さらに次のバージョンを開発中だ。
リアルタイムなレンダリングによる画像生成もその1つだ。シャツビルダーでシャツのデザインを固めていくと、1つ新たに選択肢を選ぶたびにそれが画面上に反映されていく。
シャツビルダーでは、「オートサイジングテクノロジー」という技術を採用している。シャツビルダーに身長や体重、首周りや袖の長さを入力すると、同社がこれまで蓄積してきたデータをもとに、アルゴリズムを駆使して、最適なサイズを提案する仕組みとなっている。
シャツのデザインは最短5分。初心者でも10分もあればカスタムメイドのシャツがオーダーできるという。
【次ページ】ZOZOSUITは本当に優れているのか?
関連タグ