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最新のクルマたちには、数え切れないほどの先進装備が搭載されている。中でも環境性能に貢献する装備と安全性を高める装備には、ユーザーの関心度が高い。だが実は、どちらも単独の装備として独立しているモノはほとんどなく、各種センサーからの情報を共有して各装備のECU(電子制御ユニット)が同時に複数の装置を作動させて、協調制御により実現しているものが多い。安全性能面の装備で中核を成している機能がブレーキだ。「走る・曲がる・止まる」の基本性能のうち、止まるを司っていたブレーキは、今や「走る」、「曲がる」についても密接に関わっている。そこで今回はブレーキという装置がもつ能力と可能性について、改めて考えてみたい。
ブレーキはクルマの中で最も重要
昨今、色々な意味で自動車ユーザーの関心を集めている安全装備がある。通称自動ブレーキ、正確には衝突被害軽減ブレーキのことだ。「クルマの未来」を書き綴っていくにはやはり、この安全装備から語らねばならないだろう。
セーフティセンス、プリクラッシュセーフティシステム、エマージェンシーブレーキ、i-アクティブセンス、アイサイト…自動車メーカーによって色々な名称で呼ばれている安全装備の中で中核を成すのが、この衝突被害軽減ブレーキとも言っていい。ブレーキはクルマの装置の中で最も重要なモノであり、確実な制動性能を確保してこそ、クルマは路上に解き放たれているのである。
さて、この衝突被害軽減ブレーキだが実はけっこうな歴史があり、もちろん筆者はその登場初期からさまざまなメーカーの自動ブレーキ搭載車を試乗しテストコースなどで体験してきた。当初のものは、まず前方に障害物があることを検知して、ドライバーが回避行動のアクションを取らなければシートベルトを引っ張るなどの警報を促し、それでも回避行動を取らない場合は急制動を自動的に掛けるというものだった。
ドライバーが回避行動を取らずそのままの速度で衝突してしまうより、制動をかけて衝突時の衝撃を軽減するのが目的であり、衝突被害軽減ブレーキという名の通り、決して「ぶつからない」ことを確約している類いのものではなかった。
ところが海外メーカーの積極的な攻勢によって、自動ブレーキは「ぶつからないクルマ」へと急速な発展を見せていく。当初は速度域や制動距離にかなりの制限があったものの、開発を続けるエンジニアの努力によって、それらは徐々に限界が引き上げられていった。
ABSの登場からブレーキは進化を始めた
80年代後半、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)の登場によりブレーキは進化を始めた。ブレーキの液圧を制御してタイヤロックを防ぐことにより、急制動時の安定性や絶対的な制動距離の短縮が図られたのだ。そのABSも最初はホイールハブに取り付けられた回転センサーからの信号を拾い、走行中に信号が停止していることを感知するとブレーキの液圧を逃がすという、極めてアナログな回路(それでも当時としては先進的だった)により作動させていた。
当時導入され始めたSRSエアバッグと共に、クルマの安全性を高める先進の装備としてABSは高性能高級車に採用されていった。そこからブレーキは進歩を続けて、ABSの作動範囲をよりロック寸前まで引き上げたり、作動のフィーリングや制動時の安定性を高めていくのだ。
その一方で急制動などが行えないドライバーのために、ブレーキペダルを踏み込む勢いを検知して勝手に急制動まで制動力を高めるアシストまで行うようになり、サイドエアバッグやシートベルトテンショナーと共に安全性を高めていった。
そしてブレーキはクルマの姿勢制御にまで使われるようになる。ESC(横滑り防止装置)は四輪それぞれのブレーキを独立して制御することにより、ステアリングの代わりに姿勢を整えることへと応用したもので、これにより乗用車ではスピンやアンダーステアによりカーブからの逸脱を防ぐのに有効であるほか、トラックの横転事故も防ぐ能力をも得た。
見方を変えれば、これはEBS(電子制御ブレーキシステム)が搭載されることで成し遂げられた領域が大きい。
【次ページ】ドライバーの操作を超える「意思をもったブレーキ」
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