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  • 2017/04/12 掲載

「セルフメディケーション税制」で、対象医薬品は本当に売れているのか?

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昨年4月の薬価改定から1年が経過。大手製薬メーカーの業績は軒並み減収を余儀なくされている。そんな中、今年1月から国民医療費抑制を促す「セルフメディケーション税制」が新しく始まった。税額控除の対象になる薬は、本来は医師の処方せんが必要な医療用医薬品をドラッグストアなどで市販できるようにした「スイッチOTC」と呼ばれる医薬品が主流となる。では、これらは新税制導入で本当に売れているのか? 第一三共ヘルスケアや久光製薬、大正製薬などの医薬品メーカーに販売動向などを聞いた。
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特定の市販薬を購入すると税金が還付される
セルフメディケーション税制は定着するのか?
(© cassis – Fotolia)


薬価改定で国内では減収を余儀なくされた大手製薬メーカー

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 今から1年前の2016年4月、2年に1度の「薬価改定」が実施された。医師の投薬指示や処方せんが必要な「医療用医薬品」の薬価は実質7.8%のマイナス改定になり、1700億円の国費が削減される計算となる。医薬品産業の立場で言えば、国内生産額の87.9%(2015年/厚生労働省「薬事工業生産動態統計調査」)を占める主力の医療用医薬品の国内市場が実質で7.8%、縮小することを意味する。

 この改定は大手医薬品メーカーの業績に大きな影響を及ぼした。大手7社(武田、アステラス、第一三共、田辺三菱、大日本住友、エーザイ、塩野義)の4~12月期(第3四半期)決算で、前年同期比増収だったのは抗精神病薬の「ラツーダ」が好調だった大日本住友製薬と、資本参加した英国のヴィーブ社に抗HIV薬をライセンス供与したロイヤルティー収入を得た塩野義製薬の2社だけ。2017年3月期決算見通しでは、武田薬品工業、アステラス製薬、第一三共、田辺三菱製薬は減収となる見込みだ。

 特許切れなど個別の要因もあるが、総じて言えば薬価改定による国内市場での苦戦を、海外売上やロイヤルティー収入などでカバーできなかった状況が見て取れる。それでも通期最終減益見通しは第一三共とエーザイだけで、全体として利益のほうは伸びている。

 薬価改定の背景には「少子高齢化で伸び続けている国民医療費を抑制する」という政府の重要な方針があり、今後も下方改定はあっても上方改定はまず望めない。

 とはいえ医薬品の国内市場のお先は真っ暗かと言えば、実はそうでもない。国民医療費の抑制策として「セルフメディケーション税制」が今年1月から実施され、その対象の「一般用医薬品」(OTC/購入に医師の処方せんを必要としない市販薬)は、市場拡大が期待できるからである。

薬代が年末調整や確定申告で還付される

 「セルフメディケーション税制」とは租税特別措置法で導入された医療費控除の特例で、1年間に購入した対象薬(一般用医薬品/OTC)が年間1万2000円を超えた場合、超えた分が所得控除の対象になるというもの(控除額は8万8000円が限度)。

 利用するには企業の定期健康診断や自治体のがん検診を受けているなどの条件があり、従来の医療費控除制度と併用はできない。それでも従来の医療費控除の適用下限の自費負担額年間10万円(所得が200万円未満の場合はその5%)と比べれば適用のハードルはずっと低い。年間収入にもよるが、ドラッグストアなどで支払った薬代の一部について、年末調整や確定申告で所得税や住民税の還付が受けられる。

 たとえば風邪をひいた時、「売薬なんか買わず、医者にみてもらって薬代を節約しましょう」と言われた人は少なくないだろう。わかりやすく言えばセルフメディケーション税制とは、その「医者(診療所)に行って出してもらうか、処方せんをもらって調剤薬局で買う薬」ではなく「売薬」を買うように、税金の控除という金銭的なメリットで誘導する制度である。

 それにより「健康保険が7割を支出する薬代」が減り、国民医療費の増加に少しでも歯止めがかかると政府では期待している。

 ちなみに国民医療費は、2011年度の37.8兆円から2015年度は41.5兆円へ9.7%も増加したが、厚生労働省は2025年度には54兆円までふくらむと試算している。

 安倍内閣は「日本再興戦略」の重要なテーマの一つに「健康寿命の延伸」を盛り込み、セルフメディケーションを国策として推進している。その一環として2014年6月に一般用医薬品のネット販売を可能にし、同年11月に薬事法を改正して名称も「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)と改めた。

 2009年6月に新設された医薬品の「登録販売者」制度も、資格試験の合格者は全国累計で15万人を超えている。セルフメディケーション税制は、そんな「国民は、軽い病気なら医師にかからないで自分で薬を買って治してほしい」という一連の政策の総仕上げ、とも言える。

 OECDの2013年の調査によると、国民一人当たりの薬剤費に占める市販医薬品費の割合、つまり「セルフメディケーション比率」は、日本は14.7%でトップのポーランドの43.4%と比べて大きな差があり、OECD諸国の中でも低い部類に入る。せめて韓国(20.5%)並みの20%以上まで引き上げたいというのが政府の意向だという。

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国別の一人当たり薬剤費に占める市販医薬品費の割合

 日本と同程度の比率10%台の国には、フランス、スイス、アメリカ、ドイツなど、世界的な医薬品メーカーが本社を置く国がズラリと並んでいる。

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 「日本ともども、医療用医薬品の産業保護・育成のためにセルフメディケーションを抑えてきた」という見方もできそうだが、国民医療費の増加が止まらない日本では、そんなことはもう、言ってはいられなくなったのだ。

医療用医薬品と比べると一般用医薬品の安定度は高い

 一般的な産業イメージで言えば、グローバルな新薬開発の最前線をゆく医療用医薬品はたとえて言うと「ハイテク製品」で、一般用医薬品(OTC)はテレビCMを打って知名度こそ高いが「日用品」のように見られがち。

 そのため医療用医薬品は収益性が高く、一般用医薬品は販売コストがかさんで収益性が低いと誤解している人がいそうだが、実際は違う。薬価基準改定の影響を受ける上に、新薬開発投資の当たりはずれがある医療用医薬品より、一般用医薬品のほうが安定度が高い。

 事業の主体が一般用医薬品のいわゆるOTCメーカーの中には、目薬の参天製薬(41.1%)のように売上高営業利益率が大手医薬品メーカーを大きく上回る優良企業も存在する。

 厚生労働省の「薬事工業生産動態統計調査」のデータが、それを裏付ける。2006~2015年の10年間で、医療用医薬品の生産金額は結局3.3%増だったが、一般用医薬品の生産金額は小幅に変動しながら積み上がって34.2%増と、その伸び率は医療用医薬品の10倍を超えていた。

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医薬品の国内生産額の推移

 セルフメディケーション税制に加え、外国人旅行者によるインバウンド消費も無視できない要素で、一時期「爆買い」された「強力わかもと」「エビオス錠」「ムヒ」「龍角散」「アリナミン」などは、インバウンド人気が今も続いている。医薬品のインバウンド市場の規模はインテージの調べによると2015年度、572億円にも及んでいた。  医薬品販売の最前線、ドラッグストアの店頭でも、OTC医薬品(一般用医薬品)は安定的な販売実績を残している。経済産業省の「商業動態統計」ではドラッグストアの商品カテゴリー別の販売額を毎月調査しているが、2016年1月から2017年2月までのドラッグストア全体の商品販売額とOTC医薬品の販売額を比べてみると、OTC医薬品の安定ぶりがよくわかる。

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ドラッグストアのOTC医薬品の月別販売額の推移

 1月1日からセルフメディケーション税制の適用が始まった2017年1月のドラッグストアにおけるOTC販売額は706億円で、前年同月比プラス7.6%。これは前年4月以来の高い伸び率だった。2月(速報値)は662億円で前年同月比プラス0.1%。前年2月がプラス11.6%の高い伸びだった反動が出ていたが、それでもプラスで終えていた。

 通年のデータでは、OTC医薬品の販売額は2014年が7366億円、2015年が7911億円、2016年が8296億円と、年率4.8~7.3%のプラスの伸び。厚生労働省の「薬事工業生産動態統計調査」の医薬品の生産シェアでは、一般用医薬品は2006年の9.3%から2015年の11.8%へ、2.5ポイントも上昇している。経済産業省「商業動態統計」のドラッグストアでの販売シェアも2017年1月には15.0%まで高まっている。  一般用医薬品が近年、生産面でも販売面でもその存在感を増していることがわかるが、今年、セルフメディケーション税制が始まったことで、一般消費者の間でのステータスもさらに高まろうとしている。

【次ページ】新税制施行後の売れ行きは?メーカーに聞いた
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