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- 2017/01/25 掲載
総合商社が「ヘルスケア」に積極投資のワケ 日本の医療ビジネスは世界で勝てるか
4年で純利益100倍を目指す三井物産のヘルスケア・サービス事業
総合商社の雄、三井物産は2016年3月期決算で、従来のメインビジネスの資源分野が原油や鉄鉱石など資源価格の下落に直撃され、創業以来初の通期赤字決算を余儀なくされたが、業績の立て直しの重要な柱の一つとして非資源分野の「医療」を重視している。
同社の組織では、医療ビジネスは生活産業ディビジョン「ヘルスケア・サービス(HS)事業本部」の「ヘルスケア事業部」に属している。HS事業本部はヘルスケア事業部以外に、バイオ・医薬品関連の「ファーマ事業部」、情報提供など周辺サービスも含めた「サービス事業部」があり、3つの事業部で成り立っている。
2016年12月1日、HS事業本部は事業説明会を開き、中・長期の事業戦略を発表した。総合的な「ヘルスケアエコシステムの構築」の展開を図り、その将来の「目指す姿」への基本戦略は次の通りである。
「場×人×モノ×サービス×情報」
・アセットを積み、繋ぐことで質を高め、共存共栄する持続可能なヘルスケアエコシステムを構築
・量と質の両面からメディカルヘルスケア領域に貢献
既存事業や知見を活用できる領域への集中的な取り組み
・当社が強みを発揮でき、既存事業とのシナジーが期待できる事業を厳選し、推進する
(三井物産HS発表資料より)
そうやって「成長分野への投資→収益基盤の強化→リサイクルによる果実化(事業のエグジット)→新たな投資資金を得る」というサイクルを回していくことで、事業拡大のエンジンになる。
数値目標としては、2016年3月期は2億円に過ぎなかったHS事業本部全体の純利益は、2017年3月期は関連会社株式の売却(事業のエグジット)による利益も含めて120億円に拡大する見込みで、その3年後の2020年3月期、さらに200億円まで上積みすることを「あるべき姿」としている。
投資残高は2016年3月期は2,000億円だったが、2017年3月期は2,800億円まで拡大する見込みで、2020年3月期の「あるべき姿」は4,000億円と、4年で倍増の青写真を描いている。
純利益ベースの投資利回りを計算すると、2016年3月期はわずか0.1%しかなかったが、2017年3月期は4.28%になる見込みで、2020年3月期の「あるべき姿」では5.00%。そこまで高まれば、黒字決算だった2015年3月期の三井物産全社の総資産利回り(純利益ベース)2.51%を2倍上回り、ヘルスケア・サービスは「利益に貢献するビジネス」と呼ぶにふさわしい事業に成長する。
着々と進めてきたヘルスケア・医療分野への投資
そんな明るい展望がある「ヘルスケア」「医療」への三井物産の投資は、2016年から活発に動き始めている。海外では、マレーシアが本社で主に富裕層向けに高度医療を提供するアジア最大の病院グループ、IHHヘルスケアが中心。三井物産は2011年、これに資本参加した。シンガポールでは2016年、7月に中間層向け病院の最大手コロンビアアジアグループに、8月に透析クリニックを運営するダビータ・ケアに、それぞれ100億円以上出資した。
医療ニーズが高まっているアジアでは医療機関への直接投資が主体で、それに関して12月1日の事業説明会で三井物産の永冨公治執行役員は「アジアの医療需要は旺盛。病院経営には事業性がある」と強調した。ロシアでは医薬品メーカーのアールファームに2017年、150~200億円の投資を行う予定である。
国内では、保険調剤薬局や医療モールを運営する総合メディカル(東証1部上場)に出資。今後はM&Aも支援しながら調剤薬局、医療モールのネットワークを拡大させていく方針だ。
同社は病院や診療所の開業、経営のコンサルティング事業、医療機材などのリース事業のようなヘルスケアの周辺サービス事業も手がける。
それ以外では、保険調剤薬局の祥漢堂、出版だけでなく電話相談やモバイルサイトで医療情報を提供する保健同人社、発酵技術や微生物変換技術を活用した医薬品原薬や中間体の供給、創薬支援で医薬品メーカーをサポートする日本マイクロバイオファーマといった出資先があり、そこに新たに、患者数が国内316万6000人(厚生労働省「患者調査」2014年)で、発病予備軍も加えれば1000万人を優に超えるといわれている糖尿病のケア事業に強みを持っているパナソニックヘルスケアが加わることになる。
三井物産は海外の病院運営事業でも、業務のアウトソーシングなどで医療機関をサポートする医療支援事業でも、着実に事業を拡大している。そこに医薬情報サービスや医療機器事業などが加わり「総合化」していくことで今後、シナジー効果が出ると期待できる。
医療・福祉は2030年、国内市場37兆円、就業者数日本最大の産業に
ヘルスケア産業の将来性には政府も注目しており、「日本再興戦略」では「アベノミクスの三本の矢」の中の1本、成長戦略の重要な柱に位置づけられている。国内の市場規模は2013年の16兆円から2030年の37兆円へ2.3倍になり、海外の市場規模は2013年の163兆円から2030年の525兆円へ3.2倍になると見込まれている。2012年末の時点で「医療・福祉」の就業者数は706万人で、「卸売・小売業」の1093万人、「製造業」の1032万人に次ぎ産業別では第3位だった(総務省統計局「労働力調査」)。今でも規模は大きいが、政府は2030年には医療・福祉の就業者が製造業、卸売・小売業のそれを上回り、日本最大の産業に躍り出ると推計している。
これから日本の全人口も就業人口も減少していく中で、病院や福祉施設やヘルスケア関連企業で働く人は、今後も増え続けると見込まれている。
「ラーメンからロケットまで」何でもビジネスにしてきた総合商社にとって、ヘルスケア関連ビジネスは将来性に富んだ成長産業であり、「バスに乗り遅れるな」とこぞって参入し、それぞれに特色のある事業展開を行っている。
【次ページ】日本の医療「ビジネス」は世界に羽ばたくことができるか
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