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国連世界観光機関(以下、UNWTO)は、2030年に全世界の海外旅行者数の4分の1以上がアジアを訪れると発表。日本政府も2020年に4000万人の訪日外国人観光客を呼び込むため、国立公園の活用や「日本遺産」の設置など、さまざまな施策を実施している。ジェイティービー(以下、JTB) 代表取締役会長 田川博己氏は、これらの施策を評価しながら、まだまだ日本の観光産業ができることはあると指摘する。同氏が提案するインバウンド戦略とは。
2030年、アジアへの旅行客は5億人に
2016年、訪日外国人旅行客が2400万人を突破し、日本政府は2020年に向け次なる目標を設定した。その数は4000万人。単純計算では、あと3年で1600万人増加させなければならないことになる。
田川氏は「東京オリンピック・パラリンピックがあるとしても、相当のエネルギーが要る。中国だけに頼るのは危険」と指摘する。
一方、UNWTOが2013年に発表したところによると、2030年に全世界の海外旅行者数は18億人規模に達し、このうち5億人がアジアにやってくるという。ただし、こちらも「アジアにやってくるというだけで、日本にやってくるというわけではない。日本はこの戦いに勝っていかなければならない」と同氏は表情を引き締めた。
国立公園はインバウンドの武器になり得るのか
2020年に達成を目指す訪日外国人旅行客4000万人に向けて、2016年3月、日本政府は「明日の日本を支える観光ビジョン」と題したプランを発表した。日本が観光先進国となるために必要な3つの視点と10の改革案が掲げられている(図1)。
そこには観光資源の魅力向上、観光産業の革新、外国人旅行者の利便性向上に関わる改革案が示されている。
田川氏は、国から具体的な観光産業施策が出てきたのは画期的、と評価しながら、ほとんどが「2020年までに達成する」というゴールが示されるのみで、そこに至る道筋が明らかではない、と問題点も指摘した。
唯一の例外は、環境省の進める「国立公園満喫プロジェクト」だ。これは、阿寒国立公園、十和田八幡平国立公園など8か所の国立公園を対象に、世界の旅行者が長期滞在したいと憧れる旅行目的地にしようというもの。平成29年1月以降、8公園のビューポイント(重点取組地域)において、インバウンド増加に向けた本格的取り組みを実施すると、そのステップも明確だ。
注力すべきは「Wi-Fi」「両替所」「クレジットカード」
国がこのようにビジョンを示し始めた中で、観光業界はどうあるべきか。ここから田川氏はさまざまな提言を展開した。
1つは、情報発信のあり方である。同社では、訪日外国人旅行客が旅行先に関する情報をどこから得ているかを調査した。それによると、旅に出る前は旅行会社の果たす役割が大きいが、旅の途中となると、現地のポータルサイトやSNSの活用割合が増すという。今後を考えると、このようなインターネットを使った情報発信にもっと力を入れていくべきだという。同様に、ツーリストインフォメーションセンターのコンセプトも見直した方がいいと同氏は語る。
「欧州では、すでに旅行者のニーズに合わせ相談相手になるというコンサルティングサービスを提供している。しかし、日本では『詳しくはこれを見てください』とパンフレットを渡すだけ。『観光案内所』から脱却しなければ」(田川氏)
ハードウェアという観点でも、早急に改善すべきポイントを3つ挙げた。それは「Wi-Fi」「両替所」「クレジットカード」だ。
Wi-Fiは宿泊施設であればもはや必須、と田川氏は断言する。団体旅行となると、夕食を取る場所や次の日のスケジュールなど、旅行会社から伝達する事項がたくさんある。今どき紙で一部屋ずつ配布してまわるのは現実的ではない、というのだ。
両替所というのは空港での話だ。田川氏がよく訪ねるインドでは地方の空港でも必ず両替所があり、両替に不便を感じることはないそうだ。しかし、日本の地方空港で両替所を見かけることは多くない。
さらに、欧米の訪日外国人旅行客は、クレジットカードを現金と同様に使用する。しかし、日本の商業施設ではクレジットカードの利用を断る店がまだまだあり、これも訪日外国人の利便性を損なっていると、同氏は苦言を呈する。
【次ページ】田川氏、「日本人独特の考え方を改めるべき」と提言
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