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  • 2013/09/09 掲載

観光立国のブランディング戦略と、日本企業の活性化への道標

観光立国は企業におけるイノベーションドライバーになりえるか

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世界的にも日本の観光への評価は高いはずだが、現実では観光客の誘致に悩んでいる。これは一体どういうことなのだろうか? 先ごろJTBの主催で開催された「第1回JTB交流文化フォーラム」では、森ビルの小笠原正彦氏、筑波銀行の渡辺一洋氏、ユニバーサルデザイン総合研究所の赤池学氏、JTB総合研究所の日比野健氏と、モデレータとして首都大学東京の本保芳明氏が登壇し、「観光立国の実現に向けた企業の戦略・役割はどうあるべきか?」をテーマに議論が交された。

真の観光立国を実現するための2つの論点

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森ビル 取締役常務執行役員 小笠原正彦氏(写真左)と筑波銀行 執行役員 地域振興部ソリューション室、および地域振興グループ・地域復興支援プロジェクト『あゆみ』担当部長 渡辺一洋氏(写真右)
 パネルディスカッションの論点1は「日本のブランド戦略としての観光立国」というもの。モデレータを務めた首都大学東京の本保氏が、日本の観光に対する世界的な評価を数字で示した。2012年の調査(Future Brand CBI)によれば、日本の観光は専門家からは高く評価されており、観光順位もイタリアに続き2位、総合順位でもスイス、カナダに続き、3位となっている。さらに詳しくツーリズムのブランド内訳を見ると、魅力1位、食事3位、買い物5位、金額に見合う価値6位という順位で、決して悪い数字ではない。しかし、これほど魅力的なのに、観光客数は世界で30位程度に甘んじているという現実がある。

 本保氏は「一般的にブランドと観光客数には相関関係があるが、そういう意味で大変うまくやっているのが韓国だ」と指摘し、日本と韓国の相違について言及した。韓国は国をあげてブランドをうまく活用している。まず始めに国家ブランド価値が向上すれば、それに伴って輸出競争力が高まり、さらに観光にみられるようなインバウンド振興にもつながるという考え方だ。一方、日本は観光・文化・コンテンツ・プロダクトすべてがバラバラの組織(観光庁・文化庁・経済産業省)で進められている。その結果、2011年に韓国は年間の観光客が1000万人を超えたが、日本は800万人程度と水をあけられた。これは、日本がどのようにブランドを活用していけばよいかという示唆に富んだ結果といえるだろう。

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ユニバーサルデザイン総合研究所 所長 赤池学氏(写真左)とJTB総合研究所 代表取締役社長 日比野健氏(写真右)
 論点2は「企業におけるイノベーションドライバーとしての観光立国」というものだ。観光にはさまざまな付加価値や喚起力があって、企業にとって大事なインベーションの担い手になる可能性がある。それがわかれば、観光に対する興味も深まる。JTBではDMC戦略(D:Destination M:Management C=Company)により、総合旅行業を文化交流事業へ変革する取り組みを行なっているが、新たな企業同士の組み合わせから、新製品や新サービスが生まれるという期待感もある。外国人旅行者が増えれば、彼らを対象にした商品も登場するだろう。いままで日本は外国から学んでいたが、これからは教えるモデルになり、外国人の雇用も増えていく。このようなことが観光によって企業にもたらされるという考え方だ。

観光立国として日本のブランド力を高めるヒント

 このような論点を踏まえ、まずブランドづくりの観点から意見を述べたのは、森ビルの小笠原氏だ。同氏は、都市ビルというテーマで森ビルが考える街づくりについて触れた。森ビルでは「さまざまな機能を集約させる複合都市によって都市の磁力を生み出し、その集積エネルギーがさらに人を惹きつける」と考えている。一例として今年で建築10年を迎える六本木ヒルズについて紹介した。

 六本木ヒルズは文化都市をコンセプトに、オフィス・レジデンス・ホテル、美術館、商業店舗、テレビ局などの多様な施設が複合している。1つの街としてブランディングするタウンマネジメントという発想だ。小笠原氏は「国際色豊かなイベントや日本の伝統などを伝える文化交流に注力しながら、東京から世界に向けて発信している。その結果、外資系企業や外国人居住者、旅行者などのグローバルプレイヤーが半分以上も集まる街になった。世界から人を惹きつけることに、観光立国へのヒントが隠されている」と述べた。

 次に、2012年6月からスタートしたJTB総合研究所の日比野氏が、同所の理念や目指すところについて説明した。JTB総合研究所は、旅行やツーリズムの価値を超えた交流促進を考える新時代のシンクタンクとして、豊かな暮らしと地域の実現を目指して発足。

 「最近の旅行業界は景気の上向きを支えに明るい兆しも見えてきた。訪日旅行者も上昇傾向にあるが、日本観光の魅力は円安だけではない。たとえば、足利フラワーパークに藤を見に行くというように、かなり深いところで日本文化を知る内容に変化している」と日比野氏は語る。また旅行者もトルコ、ブラジル、メキシコ、イスラエルなど、これまで以上に多彩になってきた。「旅行の観点が変わったことで、民間企業がそれを支える仕組みをつくる必要がある」(日比野氏)と説いた。

【次ページ】「CSR」から「CSV」へ、民間企業の取り組み
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