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- 2017/03/22 掲載
孫正義社長が語る「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」ARM、ワンウェブ買収のねらい
シンギュラリティ実現を目指すソフトバンク・ビジョン・ファンド
「通信業界には不都合な真実がある」ソフトバンクグループの孫社長は、衝撃的な統計データの紹介から基調講演を始めた。2010年から2015年まで37%の出荷台数の成長があったスマートフォンは、2016年から2020年までの成長率はわずか4%に下がるという。
また、通信会社における顧客一人当たりの売り上げは過去10年で47%低下しており、さらに成長が鈍化しているにも関わらず、モバイルデータの通信量が爆発的に増加するため、通信会社は8倍の設備投資が必要になるというのだ。
この通信業界の難局を乗り越えるため、30年後の未来を見据えてソフトバンクがとった戦略が、大型投資ファンドの設立だ。
全世界のベンチャーキャピタルの投資額が650億ドルであるのに対し、ソフトバンクが2016年に設立した「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の規模は1000億ドルに上る。
数か月前に発表した半導体設計会社ARMを買収した320億ドルも、このソフトバンク・ビジョン・ファンドに含まれるという。
孫社長は、あるビジョンに基づき、一連の投資を行ってきたと述べた。そのビジョンとは「シンギュラリティ」だ。平均的な人間がIQ 100、天才と呼ばれる人間のIQが「200」であるのに対し、30年後のコンピュータのIQはなんと「1万」に達する。
一つのコンピュータチップが人間の知性を大きく凌駕し、「超知性」とも呼ぶべき未来が予測されている。
そして、この「超知性」が広義のロボットに導入されたとき、社会へ大きなインパクトがあると孫社長は述べた。モバイル機器から自動車まで、あらゆるものがスマートロボットとなり、その数は人間の人口を上回る。
スマートロボット、あるいはIoT機器が増えるに従い、当然、必要になるコンピュータチップの数も多くなる。現在、99%のスマートフォンにはARMのチップが搭載されている。80%のIoTチップはARMのものになる。
孫社長は基調講演の冒頭でスマートフォンの出荷台数が成長鈍化すると述べていたが、IoT機器を含めれば、通信業界にはまだまだ成長機会がある。「ソフトバンクが買収したARMのIoTチップだけでも、20年後には1兆個が出荷される」(孫社長)。
320億ドルで半導体設計大手ARMを買収した理由
「スマートなIoT機器が導入されると、社会への大きなインパクトが生まれる。自動車業界では自動運転車の登場、ヘルスケア業界では健康管理と病気の予防、消費者向けサービスでは情報分析によるユーザー体験の改善、製造業では需要予測の精緻化による収益向上といった例が挙げられる。これら全ての技術に関与するのがARMであり、それが同社を買収した理由だ」(孫社長)
孫社長はARMの技術の中でも、セキュリティと接続性に注目しており、毎週のようにエンジニアと議論を深めているという。
サイバー攻撃は毎年4.5倍に増加しているという調査があり、IoT機器のセキュリティ向上は喫緊の課題だ。
ARMのエンジニアが暇つぶしにセキュリティカメラへの侵入を試みたら、昼休みの間だけで120万台のカメラに侵入できてしまったというエピソードが紹介された。もしこれが悪意のあるハッカーであれば、その被害は甚大なものとなる。
「一般的な自動車では一台あたり500個のARMのチップが搭載されており、それらのセキュリティは十分ではない」と孫社長は断言する。
会場では自動車のセキュリティに関する動画が紹介された。助手席でパソコンを抱えたハッカーが、自動車のシステムに侵入し、ブレーキを無効にしたり、ハンドルを操作したりしている。
これはARM社のエンジニアが実験的に行ったものであり犯罪行為につながっていないが、今ここにある技術的な脅威を如実に示している。
自動車業界では、自動運転のみならず、車がインターネットに接続するコネクテッド・カーの開発を進めている。
しかし、ARMの映像が示すように、セキュリティ面で危険な状態にある。孫社長は、この状況を改善するため、高性能なチップだけでなく、全てのコンピュータチップのセキュリティレベルを引き上げるよう開発を進めていると語った。
コンピュータチップの開発はセキュリティ面だけではない。信頼性が高く、コスト面で効率が高く、世界標準に合致したコンピュータチップの開発を進めてきた。2016年2月に発表されたCordoN NB-IoT Solutionはその一例だ。
駐車場のメーターや家電製品など、あらゆるものが安全に接続され、クラウド上のデータやサービスと通信が可能になる。ARMを買収したことで、ソフトバンクは今後10年の製品開発に大きな影響を与えられるようになった。
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