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アップルは、9月7日に開催した新製品発表会(WWDC)で、新たに3つのApple Watchを発表した。中でも9月23日に発売を開始するApple Watch Ultraは、登山やマリンスポーツといった特殊な用途を想定した高価格帯の商品として、新市場の開拓と新たな顧客層の獲得が期待される。このApple Watchシリーズのビジネスモデルを分析すると、あらゆる企業が学ぶべきアップルの思考や戦略が見えてくる。今回は、Apple Watchのビジネスがどのような背景で生まれたのか、また廉価版のSEや特殊用途向けのUltra誕生までを分析し、ビジネスに重要な売れる新製品を生み出す思考やポイントを紹介する。
大型化する“スマホの弱点”から生まれた「Apple Watch」
Apple Watchが初めて発表されたのは2014年9月。これは、iPhone初となる大型機種の「iPhone6 Plus」が発表されたタイミングだ。
iPhoneが誕生してから現在に至るまで、スマホの大型化の傾向は根強い。9月7日に開催されたアップルの
新製品発表会(WWDC)でも、でも、一度は過去のサイズに戻ったiPhone miniが打ち切りとなり、その代わりに通常サイズより大型の規格であるPlusの復活が発表された。
しかし大型化には、「ポケットから取り出す労力が増す」という弱点がある。筆者も以前、有名なベンチャーキャピタルに所属する投資担当者に、当時企画していた、カフェの空席を照会するアプリに関するビジネスプランをプレゼンテーションした時、「そのアプリで知り得る情報は、ユーザーが街でポケットからスマホを取り出すというコストに見合うのか?」という指摘をいただき、目からうろこだった。
つまりは、「空席のあるカフェはあるかな」という欲求と、「ポケットからスマホを取り出す」というコスト・労力が無意識のうちに頭の中で計算され、アプリ利用率に影響を与えてサービスとしての成否を分けるというわけだ。
大型化するスマホをポケットから取り出すというコストを抑えるべく、アップルはiPodで洗練してきた小型化のテクノロジーを総動員し、Apple Watchを開発した。これにより、ポケットからスマホを取り出さなくても手首にある時計の画面で、各種通知のチェックや運動量測定、選曲・音量調整といった操作、通話ができるようになった。
こうした背景で、アップルはスマートウォッチ市場を開拓し、いまや世界中のスマートウォッチ販売シェアの
トップを走り、王者となるまでになった。
新発売の「Apple Watch Ultra」、アップルの狙いは?
競合他社も相次いで参入し、スマートウォッチ市場が成熟してきた2020年。廉価版となるApple Watch SEが誕生し、従来よりも若い世代や、低所得者層でも手の届く製品となった。
Apple WatchとApple Watch SEは、耐久性や防水性の向上、各種センサーが新たに搭載されるなど年々進化していった。しかし、2022年9月に新たにUltraという特殊用途向けの高級なApple Watchが発表された。
Apple Watch Ultraは頑丈な素材を使用し、バッテリー駆動時間も通常の使用時で最大36時間と、従来のApple Watchよりも長い駆動時間を実現している。耐久性の面でも、登山やトライアスロン、マリンスポーツといった過酷な環境下でも使用できるよう設計されている。
このApple Watch Ultraの投入により、アクアラングやガーミンが席巻していたダイブコンピューター(通称ダイコン:ダイビング中に水深や浸水時間などを自動で計測して表示してくれるアイテム)市場と、カロスやガーミンが席巻していた登山家・トレイルランナー向けのGPSウォッチ市場にアップルも参入した形となる。
従来のApple Watchではダイブコンピューターのように水圧や水深を測ることができず、海面に急上昇する際の減圧症の危険を検知することができない。さらに、GPSウォッチが得意とする山間部や超高層ビル群の中で正確な現在位置を特定することができず(たとえばシカゴマラソンでは摩天楼の間を走るためGPSが不正確になる)、ベースキャンプへの帰還や、極めて正確なマラソンの記録を取るのは難しい。
こういった課題を解消するために、ダイブコンピューターやGPSウォッチという特殊用途向けのテクノロジーを兼ね備えたデバイスとして、Apple Watch Ultraが発表された。
【次ページ】Apple Watchシリーズでわかる、アップルの「思考と戦略」
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