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- 2016/08/01 掲載
ARMのビジネスモデル:半導体の設計図だけでなぜ3.3兆円の企業価値があるのか
7手先まで読まなくても分かる!
設計図を書くだけで3.3兆円の企業価値を持つARM
ソフトバンクがARMの買収に要した金額は3.3兆円で、日本企業の企業買収として過去最高となりました。世界中に影響力を持つイギリス唯一の技術系企業との呼び声もある半導体設計会社ARMは、どのようなビジネスモデルを持っているのでしょうか。半導体はあらゆる情報機器、電化製品の処理をつかさどる部品で、近年のエレクトロニクス発展に欠かせない要素です。この半導体を作る際には、大きく設計・開発・生産の3つの段階があります。設計段階では微小な電子装置が高電圧の制御を正しく効率的に行えるよう、回路の仕組みを定義します。次に、開発段階においては設計図に独自の仕様を加えながら、量産化しやすい生産工程を作成します。最後に、生産段階で大規模な工場が構築され、各種製品に搭載される半導体が作られる流れです。
半導体メーカーとして真っ先に思いつくのが最大手のインテルです。インテルは、この設計・開発・生産の全工程を統合しインテルだけで完結させることができます。対してARMは、設計の段階に特化しています。この設計は、極めて高度な研究開発力が求められるため、ARM以外ではIBMなど、わずか数社しか市場シェアを取れていないのが現状です。
ARMはライセンスとロイヤリティで儲けている
半導体は、厳しい競争が行われている分野です。この分野で生き残っている企業は、サムスンのような開発・生産を一貫して行う企業、クアルコムをはじめとした低コストの地域へ生産工程のみを委託するファブレス企業などそれぞれのポジションを確立しています。台湾のTSMCは、生産に特化したファウンドリ企業の代表例です。ファブレス企業は半導体技術の速い世代交代や巨額投資のリスクを抑えるため、生産ラインを外部委託しながらも、自社ブランドとして半導体の製造・販売を行っています。ARMの立場はファブレス企業とも異なり、半導体製造企業に対して設計図のみを提供する知的財産ビジネスを行っているのです。
ARMの収益源は、ライセンス(使用許諾)とロイヤリティ(知的財産権)が主要なものです。まず、ARMから半導体製造会社へ、その設計図の利用を許可する段階で、契約料としてライセンスを徴収します。さらに、半導体が工場で生産・出荷されるたびに、ロイヤリティがARMへもたらされます。
知的財産をもとにしたARMは資本効率が非常に高い業態です。粗利益は約95%、営業利益率でも42%程と、極めて高い指標を示しています。2~3年の研究開発期間の後、ARMが作成した設計図に基づいた半導体は、様々な用途に応用されるため、その知的財産権は25年以上有効であると言われます。その間、ARMは継続的にロイヤリティ収入を得られるのです。
家電、モバイルを支配するARMの圧倒的シェア
家電製品やスマートデバイスのように、これまで情報端末として利用されなかった機器に半導体が組み込まれる流れは、IoTと呼ばれ、世界的な潮流となっています。IoT時代において、ARMが得意とする省電力や高セキュリティの半導体設計は無くてはならないものです。「これから20年以内にARMは1兆個のチップを地球上にバラまくことになるだろう」と孫社長はARMの大きな成長機会を予見しています。
大手IT企業はすでに半導体が差別化要因になり得る事実に気付き、自社での設計・開発を始めています。アマゾンは半導体メーカーAnnapurna Labsを買収し、AWSのサーバー装置やKindle端末などのコスト削減を図っています。
アップルはiPhone向け半導体製品の自社製造を行うようになり、グーグルは半導体製造を行う台湾のHimax Displayの株式を取得しました。極めて微小な機器で高度な演算を行うIoTの分野でも、膨大なデータから知見を見出すビッグデータの分野でも、その要件を満たせる半導体の設計・開発は肝となっていきます。
このように競争が激化する半導体設計の中で、ARMの技術力は突出しており、競合のインテルやAMDですらARMの力を借りる、つまりライセンス契約を締結するほどです。ほとんどの半導体市場で高いシェアを有するARMですが、唯一、サーバー製品だけはインテルの独占を許しています。現在の株価に42.9%のプレミアムの付いたソフトバンクによる買収により、ARMは巨額の資金を調達できるので、強みを持つモバイルや組み込み機器へはもちろん、サーバー製品への投資も拡大させると見られています。
【次ページ】ソフトバンクのARM買収で何が変わるか?
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