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新たな製品を開発するとき、何から考えるだろうか。一般的にはおおまかな製品領域を決めつつ、そこにニーズがあるかどうか、から始まるだろう。しかし、掃除機業界の絶対的な王者、ダイソンは異なる。2023年で日本市場に参入してから25年目を迎える同社は、空調家電や美容家電など多種多様なカテゴリーで革新的な製品を生み出し、競争が激化する中でもいまだ存在感を発揮し続けているが、そこには3つの秘訣が隠されている。今回はダイソンへの聞き取りを踏まえつつ、同社が実行しているプロダクト開発の思考法をひも解きたい。
ダイソンの掃除機はどう生まれた?
ダイソンの特徴と言えば、テクノロジーに精通したトップが率いていることのほか、業界を刷新するような機能や性能、物理的ボタンが極端に少ないインターフェースを提案し、デザイン性に優れたプロダクトを次々に展開していることだろう。たしかにそうではあるが、ダイソンで働く方と話してみると、開発に携わるエンジニア自らがビジネスにも深くかかわるという従来のメーカーとはまるで異なる姿勢が見えてきた。
まずマーケティングを起点に製品開発を行う企業では、マーケティング部門が「どのような製品をつくるのか」の企画を策定し、その企画を開発側へ連携して製品開発を行うことが多い。日本的な文系・理系の分け方で言うと、文系人材が企画を練り、理系人材がそれを実現する形だ。
しかしダイソンでは製品企画からスタートするのではなく、エンジニアが感じた課題感から始まる。それは、「エンジニアリングや技術で問題を解決する」ことがダイソンの基盤だからである。たとえば彼ら自身の日常生活から課題を感じ取るだけでなく、各国のマーケットに自ら訪問・調査する場合もある。その際にはユーザーや潜在顧客とのコミュニケーションを通じて課題を発見し、それを解決するための技術開発をスタートさせることもあるという。
ダイソンの祖業である掃除機も例外ではない。もともと創業者のジェームズ・ダイソン氏が「掃除機の紙パックが目詰まりし、吸引力が落ちる」という課題感を抱き始めたところから始まった。そこから5127回の試作を経て、遠心分離を利用した世界初となるサイクロン掃除機の発明。その後、何世代もの掃除機を世に送り出している。
現在では、ダイソンの社内にカーペットや畳、フローリングなど、世界各国の掃除環境を再現した空間を用意。そうした環境下で、快適な生活空間を実現するための課題解決に取り組んでいる。
しかし、その環境を持ってしても発見できないこともある。そうした問題を掘り起こすため、各国に直接出向いて現地に住む人から日常での困りごとを聞き、問題発見に努めているという。
掃除機の付属ツールが多いワケ
ダイソンはサイクロン技術やデジタルモーター技術といったコア技術を基に掃除機を提供しているが、先述のようにさらに細かい掃除の課題を見つけ、新たな技術開発に努めている。そのため、掃除機の付属ツールや追加購入できるツールの種類は競合メーカーに比べ、群を抜いて多い。
たとえば、ソファや布団を掃除するためのミニモーターヘッド、傷つきやすい表面を優しく掃除するためのソフトブラシツール、毛絡み防止のスクリューツール、棚の下などを奥まで掃除できるローリーチアダプター、ペットのグルーミング用ツールなど多岐にわたる(図1)。
さまざまな課題や問題を直接聞き出しているからこそ、関連するツールが増えていく。こうして開発した技術を、掃除機関連に限らず、生活に関わるさまざまな課題解決に応用しており、多様な製品の展開に生かしている。その行く末としてダイソンは、EV開発にも着手したのだ。
【次ページ】まとめ:ダイソンが実行する「3つの秘訣」
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