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  • 2017/03/06 掲載

日本将棋連盟という組織が陥った「デッドロック」の病理

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IT業界におけるシステム用語に、「デッドロック」という言葉がある。2つ以上の処理が互いの処理終了を待ち、結果としてどの処理も先に進めなくなってしまう現象である。どうも、いま日本将棋連盟にて起きている状況とは、まさしくこのデッドロックという言葉がしっくりくるのではないか。竜王戦直前に起こった三浦弘行九段の「えん罪事件」の発生からすでに半年の時間が経とうとしているが、その問題の解決の糸口すらつかめないような状況が継続している。企業社会における人間としては、この状況からいかなる教訓を得ることができるのか。
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日本将棋連盟という組織が陥っている「デッドロック」の状況

日本将棋連盟の臨時総会で理事3名が解任

 2月27日に行われた日本将棋連盟の臨時総会では、日本将棋連盟の理事5人に対する解任動議が発議された。将棋ソフトによる不正疑惑の疑いがかけられた三浦九段を出場停止にしたことで棋戦運営に支障をきたしたなどの理由で、3人の理事の解任が決定した。

 プロ棋士、田丸昇九段のブログによると、解任動議の趣旨とは、次の4つであったという。

(1)常務会は、連盟の正会員である棋士の立場を守らず、棋戦運営に支障をきたした
(2)連盟の信用を大きく損ね、将棋ファンを失望させた
(3)連盟に多大な金銭的損失を与えた
(4)棋士に対して説明責任を果たさず、誤った説明をした

 この解任動議の最後には「棋士は将棋の普及と発展に寄与する公益法人の会員であり、公益の目的に著しく反した責任の所在を明らかにしたい」と結ばれていたそうだ。

 果たして、今回の解任動議によって「公益の目的に著しく反した責任の所在」は明らかになったのだろうか。

解任動議で責任の所在は明らかになったのか

 この結果を受けて行われた記者会見の場において、とあるメディアから「何が肯定され、何が否定されたのか」という質問があった。それに対して、新たに就任した日本将棋連盟の佐藤康光会長からの回答は「わからない」というものであった。

 たしかによくわからない。4つの要件のほとんどは、文字通り受け取ると「公益の目的に著しく反した」というよりは、「連盟と棋士に迷惑をかけた」すなわち「内輪」の話だ。「公益」という言葉はストレートに対応していないのである。

 本来、この解任動議の趣旨とすべきだったのは「竜王戦騒動における、不適切な初動とその後の一連の意思決定および対応によって公益性を欠いた」ということではないか。

 もっと言えば「証拠不十分にもかかわらず、三浦九段が将棋ソフトで不正したという疑惑の目を向け、不当な出場停止処分を行い、えん罪事件という過ちを犯したことで公益性を欠いた」というのが趣旨であるべきだ。

 もしかしたら、谷川浩司前会長や島朗前理事が職を辞した理由が「体調不良」であったことの説明がつかなくなるといった配慮があったのかもしれない。真相はよくわからないが、色々と矛盾をかかえた決着点という印象は拭えない。

日本将棋連盟は「デッドロック」がかかった状態だ

 田丸九段のブログには、「そもそも今回の解任動議は、勝てる目算がなかった」との記述がある。

5人の理事解任を請求した28人の棋士の1人である私は、数人の「同志」と情報を交換し合って投票分析をしてきました。当初は「4―6」の比率で賛成票を得れば、たとえ負けても常務会に対して影響力を及ぼせると、私たちは思っていました。やがて「5―5」でいい勝負になっていると変わり、総会の直前には「100票を超える」というある棋士の票読みに驚いたものです。そして、それが本当に実現したのです。

(出典:田丸昇九段ブログ)

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 ITシステム用語に、デッドロックという言葉がある。2つ以上の処理が互いの処理終了を待ち、結果としてどの処理も先に進めなくなってしまう現象である。

 選挙結果を見るに、解任に賛成した棋士と反対した棋士の数は拮抗している。いま現在日本将棋連盟にて起きている状況とは、まさしくこのデッドロックという言葉を当てはめるとしっくりくる。

 経営を刷新するには、過去を総括する必要がある。過去を総括するためには、「政権交代」が必要である。

 「政権交代」を実現するためには、解任動議が必要である。解任動議を発議するためには、過去を直視した表現だと味が悪い…。あらゆることが堂々巡りし、肝心なことが置き去りにされていく。

 これまでの将棋連盟の何は良きもので、何がよろしくなかったのか。今後どうなりたいのか。それを実現するための道筋はいかにあるべきか。ビジョンを掲げてひとつひとつ明らかにしていかねばならないはずが、どうもうまくいっていないのだ。

 解任動議を発議した人々には、「その犠牲をもってしても成し遂げるべき正義」があるはずであるが、一体それはどのようなものだったのだろうか。現時点では、それが単なる「内輪もめと混乱の拡大」につながるのか、実効的な動きにつながっているのかはよくわからない。

 三浦九段の名誉回復、これからのスマホ規制のあり方、経営体制のあり方、解決すべき個々の問題は、明確に存在する。しかし、それをきちんと論議し、実行するスキーム自体が足元から崩れている状況で、肝心な話が一向に前に進んでいかない状況を、どう改善していくのか。

【次ページ】組織の「デッドロック」は対岸の火事ではない
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