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  • 2017/02/03 掲載

「公道も逆走する」中国の脅威、日本の製造業がグーグルやアマゾンに対抗するには

ローランド・ベルガー氏インタビュー

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第4次産業革命といったとき、その中心となる国は日本、あるいはドイツをはじめとした欧米諸国を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、今やものづくりにおける中国の脅威はかなり現実のものとなりつつあるようだ。またITの分野で先行するグーグルやアマゾンも異業種からの脅威と言える。日本の製造業にとって、中国はどこが脅威なのか、また米国のIT列強とどう伍していけばよいのか。その他、プライバシーや国をまたいだデータ(越境データ)の取り扱いなど、幅広い論点について、ローランド・ベルガー名誉会長に、ベッコフオートメーションの川野俊充社長が聞いた。
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(左から)ベッコフオートメーション 代表取締役社長 川野俊充氏、ローランド・ベルガー名誉会長、ローランド・ベルガー 代表取締役社長 長島 聡 氏

新しい知識や感覚などから未来の製品を生み出すべき

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川野氏:国をまたいだノウハウ共有の観点で、大きなニュースとして注目されたのは2016年4月に締結された日独共同声明です。第4次産業革命に必須の、セキュリティ、標準化、規制緩和、教育、中小企業といった分野での課題解決に向けて連携していくことになりました。

 現在、日独では企業がどのようなIoTの取り組みを進めているか、視覚に訴える事例マップを整備しているのですが、この二つのデータベースをつなげることによって、企業間の連携を促すことを目指しています。また、国を超えた中小企業間での人材交流や訪問プログラムも計画されています。

ベルガー氏:この一連の取り組みについては大いに賛成です。製造業の重要性といった面でドイツと日本は非常に似ています。GDPの20数%を製造業が占めているのはドイツだけです。アメリカは11%です。アメリカの製造業は、これからデジタル技術を利用してさらに成長していくと予測することができるでしょう。しかし、デジタル社会において、アメリカはグーグル、フェイスブック、アップルといったコンシュマー向けのB2C市場が優先されると思います。

 中国はドイツやアメリカとは逆に、GDPの32%を製造業が占めているのですが、そのほとんどは外資系企業の生産拠点の数字です。中国政府は、新しい5か年計画(中国製造2025)のなかで、中国国内の西部と南部の状況を見定めていて、中国国内製造業の生産力をさらに増強する必要性を掲げています。

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 中国政府は同計画の中で「製造業を今後はサービス化する」と、言っているのですが、これは中国が強い技術力を持つ企業の育成に積極的に取り組んでいることからも本気であることが感じられます。この取り組みは、私たちドイツや日本に対する良い影響を与えることになるでしょう。

 私たちは、これまでの経験をもとに製品を作るのではなく、新しい知識や感覚などから未来の製品を生み出すように心がける必要があります。ロボットメーカーのクーカ社も言っているように、ソフトウェアの技術は製造業の外から来たテクノロジーです。彼らはすでにソフトウェア会社をいくつか買収していて、そのソフトウェアや人工知能などを上手く利用して製品開発を行っています。

中国の脅威、ロボット産業ではすでに世界トップレベルにいる

川野氏:ちなみに、クーカ社は我々ベッコフオートメーションのお客さまなので、その動向には非常に関心があります。彼らは我々が開発元となっているEtherCATを活用し、利用できるテクノロジーの幅を広げているのですが、オープンな技術を利用することで開発を効率よく迅速に行う手法は中国で受け入れられやすいですね。

 ベッコフオートメーションにとって中国がドイツに次いで二番目の大きな市場となっているのはこれも要因として大きいと感じていますが、何と言っても足元に巨大な市場を抱えているインパクトは無視できません。

ベルガー氏:ええ、そうです。中国は14億人もいる非常に大きな市場で、アメリカと同じくらい強力なB2C市場があります。このようなB2C市場は、日本やヨーロッパには存在し得ません。

 アメリカはデジタル技術への取り組みが早いというだけではなく、英語が母国語であるということが有利に働いています。そして、中国語を話す人が14億人いて、小売業のネットワークや店舗展開が進んでいないため、B2C市場の主役がオンラインビジネスとなる可能性が大きいと思います。

 すでに中国はロボット産業において、世界トップレベルに位置しています。彼らは安価なロボットを作っていて、これは世界に大きな影響を与える可能性があります。人を雇うよりもロボットを稼働させるほうが、コストが安く済むのであれば、中国からバングラデシュへ移った織物産業の生産が再び中国へ戻ってくるかもしれません。これまでの織物産業が、ドイツからトルコ、そして中国へと生産拠点を移してきたように、人件費が安いところへ流れるようなことにはならないかもしれません。

川野氏:ある日本のロボットメーカーから聞いた興味深い話があります。中国の顧客が、工場での作業を効率化するために、日本から大量のロボットを買い入れていたそうです。しかし、少し経つと自らロボットのメカを作れるようになったので、「ロボット本体は不必要になったが、まだ自分たちでは作れないモーターだけを売って欲しい」と言うようになったのだそうです。

 そしてロボットメーカーに対して、駆動装置やモーターだけを売るよう頼んだところ、日本のロボットメーカーは「ロボットが売れなくなるのは困るが、何も売れなくなるよりはマシ」と承諾したそうです。モーターだけでも相当な規模のビジネスなので合理的な経営判断なのですが、何年か後には「モーターも自分たちで作れるようになったので、これからは私たちのロボットの品質向上のためにコンサルティングに来て欲しい」と言われるようになってしまったそうです。

ベルガー氏:そう言えば、こうしたやり取りは1950年代~60年代に日本とヨーロッパ間でまったく同じことが起きていたのを思い出します。日本は真似できるものはすべて真似して、積極的に技術を学んでいました。

 このような技術移転は、イギリスから始まった産業革命がドイツに伝わったときと同じです。かつて「ドイツ製」は「イギリス製」の製品より劣るというイメージがあったのですが、これを覆すためにドイツ人は品質にこだわり、信頼される会社になろうと努めました。その結果、「ドイツ製」という言葉がネガティブからポジティブへ変化していきました。

 中国はとても興味深く、中国人はデジタル機器やB2C市場の扱いに慣れるのが非常に速いと思います。彼らにとって、伝統的な製造業の業務プロセスやサプライチェーンなどを、デジタル技術を利用して新しく作り直すのは難しくないのかもしれません。

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「中国人にとっては、伝統的な製造業の業務プロセスをデジタル技術を利用して新しく作り直すのは難しくないのかもしれません」

規制との戦い、中国では「誰も気にしない」

川野氏:私は先日、上海を訪れたのですが、とても驚きました。中国の電動バイクをご覧になったことがありますか? 普通のバイクに、エンジンの代わりにバッテリーやモーターを載せて、町中で皆がこれを運転しているのです。運転免許もなしに。

 時速80キロで道路を逆走しているのに、これを規制するルールや規則がなく、誰もそのことをまったく気にしていません。身近にある技術を使って、自由な発想で電動バイクを作っているのです。日本で新たな交通手段を導入しようと思えば、規則を整えるだけでとても時間がかかるので、ある意味恐怖も感じました。

ベルガー氏:初めて自動車が発明された時も、同じようなことが起こりました。我々がルールを気にしすぎていたら、自動車は発明されることはなかったかもしれません。

 もちろん中国も新しいルールや規則は学んでいます。中国の官僚は徐々に力をつけています。中国の官僚は2階層に分かれていて、政府と党があります。どちらも官僚主義でどんな地域にもいます。我々の政治システムが崩壊したら、彼らのやり方を見習うことになるかもしれません。

【次ページ】グーグルやアマゾンなどの米国勢にどう対抗すればよいのか

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