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IoTによる「つながる製品(=スマートコネクテッドプロダクト)」の登場は、既存の産業構造全体を根底から覆す破壊力がある──ハーバードビジネススクールのマイケル・ポーター教授はこう力説する。ではIoT時代に、企業はどのような競争戦略でもって臨んでいけばよいのか。ポーター教授は『10の戦略的選択』を企業に迫るとともに、それに伴った企業組織の見直し方について語った。
データから知見を得て新たな機能・サービスを創造できる
IoT(Internet of Things)の普及で注目されているスマートコネクテッドプロダクト(スマート製品)。ネットワークに接続し、あらゆるデータをやり取りできることから、新たな事業創造の可能性を生み出すと期待されている。
同時に他業界の企業が、突然競合になる可能性も秘めている。たとえば自動車産業では、通信機能を備えた「コネクテッドカー」や自動運転の分野には多くのIT企業が参入している。
ポーター氏は、「スマートコネクテッドプロダクトは、ソフトウエアで制御する部分が多い。既存の製造業は今後、ITベンダーから学び、ビジネスのあらゆる部分で依存するようになるだろう。また、新たなバリューチェーン(価値連鎖)を産むスマートコネクテッドプロダクトは、既存の販売チャネルに対しても変容を迫る」と指摘する。
スマートコネクテッドプロダクトの価値は、「データから知見や洞察を得て、性能や新たな機能・サービスを創造できる」ことだ。スマートコネクテッドプロダクトの提供で、他社が真似できないサービスを提供する唯一無二の企業となるために企業は、「10の戦略的選択」しなければならないというのが、ポーター氏の主張だ。
多くの企業は“協業”の意味を問い直すことになる
1つ目の選択は、機能の追究である。スマートコネクテッドプロダクトはさまざまな機能・サービスの提供を可能にした。しかし、「そうしたサービスを顧客が望んでいるのかは検討する必要がある」とポーター氏は説く。
たとえば、給湯器を販売する米A.O.Smith(A.Oスミス)は、故障予兆を把握できる監視機能を搭載した「スマートコネクテッド給湯器」を一般家庭向けに販売した。しかし、同製品は顧客に不評だったという。その理由はコストだ。一般家庭ユーザーにとっては、「故障前にメンテナンスできるサービス」は(一定の)コストをかけても必要なものではなかった。多機能でも価格が上がれば顧客は離れる。「実現できる機能の中で何を追究するか、どの機能が、顧客にとって価値があるのかを十分に考える必要がある」(ポーター氏)。
また、自社の製造システムのあり方と製品の開発体制も、重要な選択になる。スマートコネクテッドプロダクトは1社だけで提供するものではなく、外部企業――時には他の分野で競合する企業――との連携が不可欠だ。では、その「連携範囲」はどのように決定するのか。「開放的なシステムにするのか、閉鎖的なシステムにするのか」「インフラを含む開発をすべて内製するのか、ベンダーやパートナーに外注すべきか」の見極めは、製品開発ライフサイクルの見直しに伴うコスト削減や市場競争力の強化、さらに顧客満足度向上などを鑑みて判断する必要がある。
もちろん市場で独占的なポジションにある企業は、閉鎖的なシステムを守り、自社のみで製品開発を続けても、ビジネスは成立するだろう。しかし、こうした企業は少数だ。ポーター氏は、「多くの企業は“協業”の意味を問い直すことになる」と語る。
外部企業にシステムを解放したり技術的に協力したりする場合には、どこまでを内製し、どこから外注するのかを見極めなければならない。一方、すべてを内製する場合には、競合に打ち勝てるだけの製品を製造する技術やスキルがあるか、その技術に対して継続的に投資できる資金と人材を確保できるかの見通しを立てなければならない。
テスラがイノベーティブな理由は「中抜き」にあり
こうした構造の変化は、既存の流通・サービスチャネルとの関係性にも影響を与える。スマートコネクテッドプロダクトは既存のチャネルに取って替わる可能性がある。その代表例は、米Tesla Motors(テスラ)だ。同社は自動車の不具合を検知した場合、リモートからの修理を要請するか、修理工場への輸送サービスを依頼するかを車載システム(ソフトウエア)を通じて顧客にたずねる機能を搭載した。つまり、顧客が自動車搭載ソフトでテスラと直接やり取りできるようにして、カーディーラーを『中抜き』にしたのである。
ただし、ポーター氏は「流通・サービスチャネルの中抜きは、(チャネルの)パートナーが顧客とどのような関係性を持っているかを考慮し、包括的に判断しないとビジネスを見誤る」と指摘する。中抜きによって限定的な流通コストを削減できたとしても、全体的な顧客満足度が低下しては本末転倒だ。同時に事業範囲を拡大すべきかについても、「拡大することが戦略的に正しいのかどうかは慎重に判断する必要がある」とクギを刺す。
「たとえば、既存の単体製品として販売し続けるのか、事業拡大したシステムの一部としての位置づけになるのかによって、企業の事業戦略は大きく異なる。また、自社製品を他社のシステムの一環として組み込むケースも考えられる。その場合には、『他社システムの一部になることでどれだけビジネス的なメリットを得られるのか』『製品が収集するデータのアクセス権や所有権はどちらが持つのか』といったことを、収益性とのバランスを見ながら判断しなければならない」(ポーター氏)
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