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- 2016/08/05 掲載
インダストリー4.0に対するマイクロソフト流アプローチは「えっ」と驚かせてから
IoTの取り組みが最も進んでいる日本企業がビジョンを描けない矛盾
武本氏:これはあくまで私個人の見解ですが、背景にはアメリカによるITの脅威があると思っています。たとえば、アメリカはモノ作り産業の空洞化が進んでいますが、それを3Dプリンタで補おうしています。3D CADで設計したデータから3Dプリンタで製品を作って市場に出し、IoTの仕組みで市場からデータを集めて設計にフィードバックして……というデジタル世界のループを作ろうとしているのです。これまでとは違う角度からモノ作りを進化させられるかもしれない。こうした変革を起こすアメリカに対する脅威が、ドイツの「インダストリー4.0」の取り組みの根底にあるのではないかと想像しています。
──日本でインダストリー4.0が注目された背景には、ドイツと同様、日本の製造業に危機感があったからでしょうか。
武本氏:そこは、ちょっと別の見方をしています。このあいだ、ハノーバーメッセの日独経済フォーラムの講演で、IoTに関する日独企業の意識調査の結果が報告されました。
その調査の中で「IoTの導入は進んでいるか」という質問に対して、Yesの回答率が最も高かったのが日本企業でした。つまり、日本企業はIoTの取り組みが進んでいると考えているのです。
ところが、「IoTをさらに進めるための課題は何か」という質問に対して、日本企業で最も多かった回答は「IoTを使ったビジョン、ビジネスモデルが描けない」だったのです。
これは矛盾しています。最も進んでいるのに、ビジョンを描けていないわけですから。それが意味しているのは、これからデジタル化の進展により産業の競争原理が変わる、いわゆるゲームチェンジが起ころうとしているのに、そこに対する日本企業の危機意識が低いということだと思います。今までのやり方の延長線上でIoTをとらえているから、「我々はもうやっています」となりますが、ゲームチェンジの可能性に対しては感度が低いのです。
──製造業とITは、そもそも考え方の土台やスピード感が違っていますので、手を取ってやっていけるのかという素朴な疑問もあります。
武本氏:確かに品質の考え方やスピード感は違いますが、世の中の変化に敏感な経営者は、スピードこそ戦略であるという考え方をされています。だからといって、新しいことへの取り組みがすぐに進むわけではありません。そこで、クラウドやIoTの技術で「何ができそうか」をゼロベースで考えるため、時にお客さまの経営層以下の方々に我々の本社に来ていただき、弊社とのディスカッションを通じて仮説を構想します。そして、その仮説に対して「どこまでできるか、今のテクノロジーでやってみろ」と指示を出していただくのです。大きな発展構想を描いた上で3ヶ月や半年など、期間を決めてPOC(概念実証)をやると、初めて見えてくることが非常に多く、未知の領域へのチャレンジが進むケースが多いようです。
ABB、ロールス・ロイスとマイクロソフトとの提携について
武本氏:両方ですね。ただし、業界の中でリーダーのポジションにいるプレーヤーの場合は、まずはビジョンありきです。「世の中はこうなっていくから、こういう問題が起きる。それに対して、何をすべきなのか」を考えます。
たとえば、弊社と電気自動車(EV)の急速充電サービスの展開で提携したスイスのABB社は、EUの自動車CO2排出規制の強化に呼応してEVが急速に普及すると考えています。EVの普及において課題になるのが充電の手間と航続距離の短さです。これを克服するために、充電ステーションのネットワークを作り、充電を必要とするクルマが適切な場所とタイミングで速やかに充電サービスを受けられるようにする必要があります。
そのためには、すべてのクルマの充電状態や走行場所をクラウドでモニターし、道路状況を加味してこの先の走行予定と充電の需要をリアルタイムに予測して、充電ステーションに適切に供給電力を確保し、効率的に充電をスケジューリングするための高度な情報連携基盤が重要です。
そして、2023年には、充電サービスの市場は3,500億円ぐらいの規模になると予想されており、増大する需要に対応してシェアを獲得するには、情報基盤の安定性や拡張性がカギになるため、ABBと弊社が両社の強みを活かす戦略的な提携をしています。これなどは、ビジョンから入って、トップ同士の話し合いでビジネスを進める典型的な例です。
──ロールス・ロイスと航空機用エンジンのデータ収集・分析で提携されたのも、その例でしょうか。
武本氏:はい。ロールス・ロイス社の航空機エンジンから1時間に1テラバイトの稼動データがMicrosoft Azureに上がってきます。これに、飛行経路や気象データなどを掛け合わせて分析することで、より効率的で計画通りの飛行を約束できます。また、その膨大なデータを使って設計を改良し、エンジンをさらに効率化できます。これによって、より速く、より多くの人を運べるようになれば、乗客にとってもメリットがありますし、航空会社は売り上げが増えるという、いいループができます。そこを目指すということです。
【次ページ】特定の製品ではなく、エコシステム全体をデザインする発想が必要
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