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膨大なデータを管理し、新たな価値を創出する「ビッグデータ」という考え方は、商業的価値の創出を第一フェーズとすると、第二フェーズ、すなわち「社会価値の創出」に移行しつつある。「ビッグデータ2.0」というキーワードを提唱する、国立情報学研究所 所長で東京大学 教授の喜連川 優 氏が、日本ならではの独自資源を活かした、新たなイノベーション創出の可能性について語った。
機械学習で検診コストを低減することは可能か?
21世紀に入り、情報量は爆発的に増えた。大量の情報の積極的活用と価値創出という考え方は、日本では2004年頃より「情報爆発時代の到来」というキーワードで喧伝されはじめ、その後、2012年頃から「ビッグデータ」という言葉が定着したのは周知の通りだ。Gartner Symposium/ITxpo 2015に登壇した喜連川氏はその変遷を次のように説明する。
「テクノロジーのイノベーションは通信から始まった。その後、起きたのがコンピューティング(情報処理)だ。プロセッサーの性能が指数関数的に高まり、大量の情報処理能力の次に起きたのは、膨大なデータのマネジメント(情報管理)だ。情報の処理から管理に課題がシフトした。これがビッグデータの時代といえる」
さらに喜連川氏はビッグデータにより、新しい価値=イノベーションを創出するためのアプローチには大きく2つあると語る。
「1つは、インクリメンタルなアプローチだ。これはデータを解析して、今より“1%”効率を上げてくという考え方だ。とくに、インダストリー領域では、1%の改善が大きな価値を生む。『インダストリー4.0』や『インダストリアル・インターネット』などの考え方がこれにあたる。2つ目は、破壊的な、ディスラプティブなアプローチだ。グーグルが提唱する『10 Times Improvement』(10倍の進化)が代表的なモデルだ」
喜連川氏は、社会的課題の解決にビッグデータがインパクトを与えた例として、低所得層を対象とする国際的な事業事業であるBoP(Base of the economic Pyramid)の一環として行われた、バングラデシュにおけるヘルスケアの社会実験の事例を紹介した。これは、医療、健康問題に社会的な課題があるバングラデシュにおいて、看護師にアタッシェケース型の生体データ測定キットを携行させ、健康診断(トリアージ)を行うという実験だ。
「『緊急』『発症』など、症状ごとにタグを付けて経過を見るという社会実験に、2012年度の1回目には600人が、2回目には8000人が、3回目には1万人が参加し、最終的に1万5000人以上の患者のデータが集まった。これを、機械学習を使って分析し、検診コストを低減するモデルを検討した。実は、検診の中で最もコストが高いのが血糖値を測定する検査だが、分析の結果、7.3%の検査誤差を許容すると、94.8%の検診コストが削減できることがわかった。この誤差は、先進国では許容できない数字だが、コスト削減効果を考えると、途上国では十分検討の価値があった」
ビッグデータ活用が、社会的な課題に対して価値を提供できた事例である。ちなみに、バングラデシュではヘルスケアビジネスに注目した起業家が7つのベンチャー企業を設立するなど、「社会価値の創出は、民間企業と連携することでマネタイズ可能」ということも示している。
ビッグデータによる社会価値の創出はマネタイズが可能
医療分野における課題解決の事例は他にもある。「看護師不足と医療支出における看護師人件費」の問題だ。医療現場における看護師不足は深刻な問題だ。喜連川氏は、看護師が日々の看護行動で、どういうことに困っているかを、ビッグデータを用いて分析した。
これは、被験者である看護師に3軸加速度センサーを装着してもらい、日常的にどの行動に時間を取られているか(ボトルネックになっているか)を調べるというものだ。
「75名の看護師を対象に、41種の看護行動を2年間、のべ1655日の看護行動と、912万3840サンプルを分析した結果、看護師はある行動に長時間費やしていることが分かった。それは、看護記録をPCに入力するという作業だった」
【次ページ】グーグルとは違う切り口で社会価値を創出するポテンシャル
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