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およそ10年前、世界はビッグデータに沸き、データによってあらゆる産業や生活領域で革命が起きるとされていた。実際、それは起きており、ビジネスの競争力を飛躍的に高めるなど多くの面で効果を発揮した。だが昨今、ビッグデータにはプライバシー面や分析の精度面などで問題があると指摘され、データの質が問われるようになってきた。そこで注目されているのが、少量のデータで高精度の解析を可能にするスモールデータの活用である。これらは、アマゾンを巨大EC企業に育て上げたジェフ・ベゾス前CEOも実行していたことだ。本稿では、ビッグデータの先に起きるデータ活用の変化を探る。
メタやグーグルなどで地位を築いた「ビッグデータ」の変遷
ビッグデータは、マッキンゼーが2011年に
発表した報告書「次世代イノベーションのフロンティアとしてのビッグデータ」をきっかけにビジネストレンドになったとされている。2012年2月には世界経済フォーラム(WEF)のダボス賢人会議が、「ビッグデータの大きなインパクト」と題した報告書を
公表。同年3月には当時のオバマ政権が2億ドル(約259億円)規模のビッグデータ促進
政策を打ち出した。
こうしたブームの中、米ニューヨーク・タイムズ紙は2012年2月に「今や、時代はビッグデータだ」とする記事を掲載した。そのため、「ビッグデータを持たないなら、あなたは単なる意見を持つ人に過ぎない」との冗談まで生まれたほどだ。
ビッグデータは一般に「巨大で複雑なデータの集合体」と理解され、その傾向をつかむことで、医療やマーケティングに活用できる新発見などにつながると期待された。特にECにおいてはWeb上の行動解析で、顧客の興味や嗜好のビッグデータを個人情報と突き合わすことで売上を飛躍的に伸ばすことができた。
そしてフェイスブック(現メタ)やグーグルのオンライン広告、自動化された株式売買、ネットフリックスなどの動画ストリーミング、TikTokなど短編動画ソーシャルメディア、アマゾンのECマーケティングなどで「裏方」として確固たる地位を確立していった。
一方、2010年代中盤を過ぎるとビッグデータは普遍化・陳腐化し、ただの「データ」と呼ばれるようになった。同時に、その核心的な役割のゆえに批判を集めることとなった。
ビッグデータ批判の「2つの例」
これまでにあった批判を2つ紹介する。まず起こった批判は、ビッグデータの信頼性に関するものだ。一部の
研究者から、過去の経験はどれだけ多く集めても、過去と同じ事象を予想するに過ぎないとの声が上がった。
事実、日常的にビッグデータを活用していたにもかかわらず、経済学者や企業のCEOたちは、2022年のインフレ高進やサプライチェーン問題を効率的に予測できなかった。さらに、どれだけデータが多くても見落としは発生するし、それでビッグデータの質も落ちる。ビッグデータは万能ではないのだ。
2つ目に、ビッグデータはマーケティングや道路混雑緩和、疾病早期発見に貢献できると同時に、問題の解決ではなく問題の拡大をもたらす「諸刃の剣」であると認識されたことだ。好例は、フェイスブックによるプライバシー侵害問題。個人の嗜好や感情、行動を理解するツールとしてビッグデータが活用される場合、必然的にプライバシー問題を引き起こす可能性が高い。
フェイスブックによる個人情報漏えい事件をきっかけに、広告業界をはじめ、あらゆる業界でサードパーティーからのビッグデータ収集・共有の実態が一般に広く理解されるようになった。さらに同時期には、ユーザーのネット閲覧履歴を用いた航空会社やEC業者が同じモノやサービスの価格を一部顧客にのみつり上げるなどで、クッキーによる追跡やサードパーティー間の顧客ビッグデータ共有が困難になった。
批判を受けるビッグデータだが、無論消えてなくなってしまうわけではない。利用のあり方に変化が生じ、より適正な使い方が模索されている。一言で表すなら、データの量よりも質(精度)が重要になってきたわけだ。
【次ページ】データ活用で注目すべき「スモールデータ」など3点
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