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- 2022/10/21 掲載
ソフトバンクホークスがずっと「最強」のワケ、球団分析官に聞くデータ分析術と育成術
データ分析の土壌をつくった「SNS発信」
データ分析との出会いは大学2年生のころです。夏に肩を故障したため学生コーチに転身しました。ちょうどそのころ、東京六大学野球に(リーグ戦を行う神宮球場に)球道計測器(トラックマン)が導入されましたが、これがきっかけとなってデータ分析の世界が広がったのです。私自身も、当初は野球の世界で生きていけるとは思っていなかったので、この道以外でも何とか生きていけるような力が欲しいと日ごろから考えており、プログラミングを中心に勉強していました。たとえば、htmlから始まって、Python、Javascriptなど、とにかく多くのことを手当たり次第に学んでいった記憶があります。
本格的にデータ分析を始めたのは、先ほどのトラックマンのデータ活用からです。その後、できることが少しずつ広がってきたので、グラフを有効活用するといったデータの見せ方などを工夫しながら、分析結果をミーティング資料として使ってもらえるようになりました。たとえば「ピッチャーがどんな球種を」「どのコースで」「どのくらいの割合」で投げたのか。逆にバッターは「どんな球種」や「どんなコース」が得意なのか、といったことを分析していました。
データ分析の結果は、円グラフや表組みにするなど、「見せ方」によって最初の印象も大きく変わってくるため、視覚的な面も含めて工夫しました。それによって、チーム内での攻撃の仕方や野球に対する考え方も変わっていったと思います。たとえば「こういうシーン」なら「こんな作戦」を取ったほうが良いという共通認識がチーム内で芽生えたように感じました。
とはいえ、データ分析の結果を組織に落とし込む際にはハードルがあります。東大の場合は数字に強い人も多いのですが、上から押し付けるような形ではうまくいきません。そうではなくて、分析結果に興味を持ってもらえるよう、私はチーム内に向けてSNSでデータ分析に関する内容を発信し、能動的に分析結果を取り入れてもらえるように工夫しました。これによって、徐々にデータ分析を活用する土壌がつくれたと思います。
東大64連敗の阻止、キーエンス内定辞退、そしてホークスへ
東大を卒業する前に、就職先としてキーエンス社の内定をいただきました。高い技術力を持つ企業の中で自己研さんをしたいという思いと、好業績の企業の文化や企業体質を学んで、いつか将来的に起業する時に役立てたいと考えていたため、応募したのです。実はキーエンス社から内定をいただけたのは、もう1つ大きな理由があります。同社が主催するプログラミングの世界的なコンテストで上位に入賞したことです。それで本当は商品開発職のエンジニアになる予定だったのです。
ところが、データ分析に関するSNSの発信が、福岡ソフトバンクホークスの目にとまり、球団のデータ分析官としてのお誘いを受けました。やはり自分の好きな野球という舞台で、自分の力を必要としてもらえるのであれば、ぜひ挑戦してみたいと思い、意を決し、現在の分析官という仕事に就くことにしました。
あと、東大野球部の連敗をストップできたことも大きかったですね。当時の東大は2017年から64連敗だったのですが、2021年の春(当時4年生)でその連敗をストップできました。データの力を生かしながら勝てたことが印象に残っていましたし、プロ野球というより大きな舞台で力を発揮できたら素晴らしいなと感じました。
野球におけるデータ分析の「3つの役割」
ホークスでは、2022年1月から1年間の業務委託契約として、データ分析官の仕事をすることになりました。ホークスには、実はデータ分析官が全員で10名ほどいます。野球以外でも、スポーツ全般でデータ分析官のような職種が増えているようです。野球におけるデータ分析としては、(1)選手の能力を上げる育成、(2)選手を見定め獲得する編成、(3)選手起用や作戦などの戦術、という3つの役割があると思います。
たとえば3つ目の戦術についてですが、投手が打たれている球や、逆に抑えられている球などを分析し、投手の配球や戦術の意思決定の材料にしています。投手がどのように試合に臨むべきか、などについて試合前に話し合っています。
分析官はチームに帯同しながら、常に戦術の意思決定に役立つデータ分析を行っています。中でも、判断材料となる一球一球の配球の蓄積がデータの精度を決めるため、収集したデータをクレンジングして、奇麗に処理するところにも注意しています。
【次ページ】千賀・甲斐選手に続け! データ分析を使った選手育成術
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