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  • 2022/08/30 掲載

元ヤクルト監督 真中氏の「人材育成術」、中堅社員に対してやってはいけない「NG行動」

連載:トップアスリートの仕事哲学

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どのような企業にも、ある程度社員教育のノウハウがあります。しかし、入社してくる社員の性格や能力はそれぞれ異なり、標準化された教育方法だけでは優秀人材を育てることは難しいでしょう。こうした中、育成方法の研究が進むプロスポーツの世界から学べることは多いはずです。今回は、現役時代はもちろん、2軍コーチ、2軍監督、1軍監督の経験の中で、若手からベテランまでさまざまな選手を見てきた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏に、人材育成のポイントをお聞きしました。
企画:林 裕人、聞き手・執筆:井上健語、聞き手:中澤智弥、写真:吉成大輔

企画:林 裕人、聞き手・執筆:井上健語、聞き手:中澤智弥、写真:吉成大輔

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東京ヤクルトスワローズ元監督・真中満(まなか・みつる)氏
1992年ドラフト3位でヤクルトスワローズに入団。1997年からレギュラーに定着し、99年に打率3割を達成。2001年には打率.312でリーグ優勝、日本1に貢献。2007年にはシーズン代打起用回数98回、代打安打31(ともに日本記録)で「代打の神様」と称された。2009年からヤクルト2軍打撃コーチ就任。2011年から2軍監督代行~2軍監督に就任し、2013年イースタンリーグ優勝。2015年ヤクルト1軍監督に就任、その年、大接戦のセリーグペナントを制し、初年度優勝を成し遂げた。また、この年のセ・リーグ最優秀監督賞を受賞した。2017年辞任。現在は野球解説者として活躍中。


山田哲人・村上宗隆選手は? 一流になる選手の共通点

 コーチや監督の経験を通じて、いろいろな選手を見てきました。そのせいでしょうか、よく「どんなタイプの選手が一流になれますか」と聞かれます。振り返ってみると、毎回、答えは変わっているのですが、今は「活躍する選手のタイプはない」というのが答えです。

 実際、選手にはいろいろなタイプがあり、タイプは違っても一流になっている選手はたくさんいます。たとえば、コーチや監督の言うことを素直に聞く選手もいれば、逆に一切聞かないで我流を押し通す選手もいます。そして、それぞれに一流になっている選手はいるのです。

 ただ、1つだけ共通点があるとしたら「負けず嫌い」だということでしょうか。もちろん、技術的にはいろいろありますが、メンタル面に限定するなら、人に負けたくないという気持ちが強い選手ほど活躍し、残っていると感じます。

 たとえば、ヤクルトなら山田哲人選手。外からはあまりそう見えないかもしれませんが、内に秘めた気持ちはとても強いものがあります。一方、ベンチで大きい声を出し、闘志を前面に出す村上宗隆選手などは、「負けず嫌い」が分かりやすく表に出ている選手だと思います。

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山田哲人選手と村上宗隆選手(2020東京五輪 野球 決勝で日本が金メダルを獲得した瞬間)
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

人材を「腐らせない」、適切な評価の在り方

 プロ野球では、闘志を内に秘めようが、前面に出そうが、活躍して結果を出せば評価されます。しかし、会社の場合は、なかなか難しいだろうと思います。営業で抜群の成績を残す人もいれば、あまり目立たないけれど周囲の意見や人間関係をまとめるのが上手な人もいます。結果が出ていなくても、会社の経営方針を理解して、長期目線でコツコツ社外の人脈を築いている人もいるかもしれません。ですから部下を持つ管理職の方には、表面的なところだけで評価しないでほしいと思います。

 プロ野球でも似たようなことはあります。たとえば、読売ジャイアンツの4番を任されている岡本和真選手は、闘志を前面に出すタイプではありません。打っても打たなくても、常に自分のペースを守るタイプです。こういう選手は、ちょっと調子が悪くなるとすぐに「元気がない」と、“闘志”や“(外から見た)やる気”の部分で叩かれがちです。

 さらに、普段から活躍している選手が調子を落とすと、目立って評価が下がる一方、普段あまり活躍していない選手がたまに大活躍すると、とても目立って評価が上がる、ということもあります。

 もちろん、読売ジャイアンツの原辰徳監督は岡本選手のことを理解していますから、ちょっと調子を落としたから評価を下げるといったことはありえませんが、一般の会社の場合はどうでしょうか。

 いつもはあまり活躍していない社員がたまに活躍すると「Aくんは最近がんばっている」と評価され、日頃から活躍している社員がちょっと成績を落とすと「Bさんは最近調子が悪いね」と評価を落としてしまう。しかし、トータルではBさんのほうが圧倒的に活躍しているのです。

 そのあたりをしっかり評価することは、社員のモチベーションを維持し、高める上で大切なことだと思います。

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選手のモチベーションを下げないよう、適切な評価を与えることが重要だと語る真中氏

新人教育の「良い例」「悪い例」

 プロ野球の世界には、毎年、各球団が新しく獲得する選手を決めるドラフト会議という制度を通じて、選び抜かれた若手選手が各球団に入団していきます。1つの球団には毎年6名くらい、多いときは10名くらい入団するのですが、全員、高校や大学で活躍した"鳴り物入り"の選手ばかりです。

 プロ野球の場合、4月からスタートするリーグ戦に備え、各球団は2月から特定の地域に宿営し全体練習を行います。その際、コーチによっては、2月のキャンプが始まると、入団したばかりの新人をつかまえて、あれこれ指導しようとします。

 教えるのが悪いとは言いませんが、個人的には、まずは選手の能力をしっかり把握するのが先だと考えています。もともと高い能力を持って入ってきた選手たちなのですから、その能力の強み・弱みを見極めることなしに、いきなりあれこれ教えるとかえって逆効果になるからです。

 私が1軍監督に就任していた時は、キャンプ中は入団1年目の選手はいっさいいじらないでほしいとコーチ陣に伝えていました。バッティングやピッチングのフォームは、それぞれに特有のものです。そこはいじらないで、まずはしっかり見てほしいと。

 優れたコーチは、選手の良いときと、悪いときの状態をしっかり観察し、把握することに秀でています。選手が調子を落として意見を求めたとき、初めて「良いときはこういう状態だった、今はこうなっている」と伝えれば良いのです。

 それに、選手が意見を求めたときにアドバイスしたほうが、間違いなく選手の身になると思います。毎日、そばにいて、あれこれ指導しても、選手はそんなに覚えていないものですよね。それは、ビジネスの世界においても同じかもしれません。

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