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企業のシステムは、ERPや人事管理システム、SCM、あるいはデータウェアハウス(DWH)などさまざまなアプリケーションとデータベースによって構成されている。それらが全体としての一貫性なく設計され複雑に関連し合った状況で、どのようにデータ共有環境を構築するのかが大きな問題になってきている。マスタ・データ管理(MDM)や、メタデータ管理、データカタログ、データ・レイクなど、個別のテクノロジーでは解決できない企業の課題に対して、新しいアプローチとしてガートナーが考案したコンセプトが「データ・ハブ戦略」だ。ガートナー ディスティングイッシュト バイス プレジデント, アナリスト、アンドリュー・ホワイト氏が解説する。
なぜデータ・ハブ戦略が必要なのか
AIやビッグデータなどが話題になる中で、データの整備に取り組む企業が増えてきた。それとともに、データ・ガバナンスについて、「どこから着手すればよいか」「ただ統合すればよいのか」「ツールを購入すれば解決するのか」といった悩みに直面する企業が増えてきた。
マスタ・データ管理(MDM)や、メタデータ管理、データカタログ、データ・レイクなど個別のテクノロジーでは解決できない企業の課題に対して、新しいアプローチとしてガートナーが考案したコンセプトが「データ・ハブ戦略」だ。
歴史を紐解くと、エンタプライズ・データウェアハウス(EDW)を一元化しようと、複数のアプリケーションとデータ・レイクを構築してきたが、それではデータ品質が満足いくものにはならなかったという。
そこへ、15年ほど前にMDMのコンセプトが出てきた。しかし、これは非常に時間がかかるものだった。
さらに、クラウドへの移行が進み、サービスとして提供されるアプリケーションが加わることで状況はさらに複雑に、そして問題は大きくなっていった。ここにAIによるデータ品質管理が加わって、一部のデータ品質は改善したかもしれないが、半面、セルフサービスによるアナリティクスが広がることで別の問題が持ち上がっている。
データ・ハブ戦略の定義とポイント
こうした問題を解決できるとするデータ・ハブ戦略について、本戦略を考案したガートナーのホワイト氏は以下のように定義する。
データ・ハブとは、データの作成者(アプリケーション、プロセス、チーム)とデータの利用者(他のアプリケーション、プロセス、チーム)をつなぐことによってデータ共有を可能にする論理的なアーキテクチャー。データ・ハブはデータの仲介役となり、エンドポイントはハブを通じて、データを提供したり取得したりする。同時に、データ・ハブはガバナンスのポイントであり、企業内のデータ・フローを高度に可視化する。
ポイントの1つは「論理的なアーキテクチャー」だ。また、もう1つのポイントとして、データ・ハブはデータの「仲介役」である。ハブ自身のサイズは小さく、独立して実装することもできるし、アプリケーションの中に、あるいはデータウェアハウスの中に実装することも可能だという。
「まず『統合』に目を向けるのではなく、最初にフォーカスを当てるのは『仲介』。ポリシーを仲介し、データをガバナンスすることが最も大事。APIやETLについてはその後に考えればよい」(ホワイト氏)
データ・ハブ戦略の事例
ここでホワイト氏は、日本の消費財メーカーがデータ・ハブ戦略によって課題を解決した事例を1つ紹介した。
この会社では、製造とブランド・マーケティングをアジア・太平洋地域で、物流、Eコマース、CRMを北米で行っていた。これらを担うシステムの一つ一つそれぞれを、他のシステムすべてと相互につないで統合した。
オペレーション的には成功を遂げたかに見えたが、時間が経つにつれてデータの整合性に問題が出始めた。それが少しずつトランザクションやスピードにも影響し、レポートも想定通りにいかず、1,000にも及ぶデータ品質の切り口によって破綻を来してしまったのだという。
そこで相談を受けたホワイト氏は細かに分析をして、まず1つ、小さな「グローバルなハブ」を設けた。すべてのビジネス部門が必要とする最小限のデータを特定し、グローバルなハブに入れる。そして、アジア・太平洋地域と北米に1つずつ「地域のハブ」を配し、製造向けと、販売に関するデータをここに入れた。これには、地域ごとにデータの信頼性を確立した上で、グローバルなハブと連携することにある。
「56種のアプリケーションに対して、3つのハブというのがこの企業における戦略だった。最小限のデータ・ガバナンスによって最大限のビジネス・インパクトをもたらす形をとったわけだ」(ホワイト氏)
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