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- 2022/04/07 掲載
揺れる中国IT業界、売上急減速で飛び出た「ネット広告不要論」は本当か? 真実はどこに
急減速した中国ネット広告、原因は国の政策か
中国のネット広告大手が軒並み失速している。BAT(百度、アリババ、テンセント)3社の2021年第3四半期の広告収入前年比は、いずれも5%程度に下落した。2021年第1四半期には、BAT3社はそれぞれ前年比27.0%、40.1%、23.2%という驚異的な伸びを見せ、前年のコロナ禍による悪影響を払拭して力強い回復を見せた。しかし、第2四半期ではアリババと百度が失速、第3四半期には3社そろって失速という異常事態になっている。その理由について、テンセントは第3四半期の業績発表文書で「特に教育、保険、ゲームなどの業界の広告需要が弱かったが、生活必需品およびネットサービスなどの広告需要は堅調だった」と説明している。
たしかに2021年は、これらの業界に大きな変化が起きた年だった。最も大きいのは、国務院が進めた「双減政策」だ。詰め込み教育、過剰競争として問題になっていた子どもたちの負担を減らすため、学校が課す宿題の量を制限し、営利目的の補習塾(オンラインを含む)を禁止するという厳しいものだった。
狙いは子どもたちのゆとり時間を生み出し、芸術や体育、科学といった情操教育に時間を振り向けさせることだ。そこで、未成年のスマホゲーム利用も週末の20時から21時の間に制限された。
また、ゲームを発売するには文化部の審査を通る必要があるが、この審査が遅れ、発売・公開の予定が立たないゲームが相次いでいる。審査基準が大幅に変わったようで、その内容は明らかにされていないが、既存ゲームの自主修正内容を見ると「歴史上の人物の史実とは異なるキャラクター化」「女性キャラクターのコスチュームの露出度」あたりに焦点があるようだ。いずれも、未成年に与える悪影響に関するものだ。
教育業界、ゲーム業界では、大手は業績悪化、業態転換に悩まされ、中小以下は倒産の危機に直面をしている。
保険業界も、コロナ禍以降、収入の見通しが不透明になる中、保険商品よりも銀行預金に流れる現象が起きていて、各社とも業績が悪化している。さらに、長距離旅行の需要が一向に回復しない旅行業界など、特定の業界の広告需要が減少する現象が起きている。
テンセントの説明に欠けている視点
ネット広告の急減速に対するテンセントの説明は、教育、ゲーム、保険業界などの需要減という内容だが、この説明には多くの疑問が呈されている。1つは、ネット広告の広告主構成比では、教育、ゲーム、保険、旅行は決して大きくないということだ。中国で最も広告出稿が多いのが、幼児用品、子ども用品(保護者向け商品含む)で、その次が食品飲料となり、この2業界でネット広告出稿費の半分以上を占める。
「2021中国ネット広告データ報告」(中関村インタラクティブマーケティングラボ、IMZ)によると、2020年から広告出稿費シェアが大きく伸びたのはこの2業種で、その他の業種は軒並み減少している。
つまり、ネット広告はあらゆる業種で低調だったが、上位2業種が出稿量を増やしたため、全体としてはかろうじて成長を維持することができたという見方が正しい。
【次ページ】ネット広告売上の減少は一時的か長期的か
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