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日本でもタクシー配車やフードデリバリーのサービスを提供するDiDi(ディディ)の運営企業「滴滴出行(ディディチューシン)」が上海市で自動運転タクシー(ロボタクシー)の試験営業を始め、注目を集めている。中国ではすでに試験ではなく本格的にロボタクシーを導入している企業もあるため、同社はそれらの企業を“後追い”している形だが、メディアの反応がこれまでと明らかに違う。そこには、中国都市が抱える深刻な病を同社が解決してくれるのではないか、という期待がある。創業からわずか8年の滴滴出行は、なぜここまで熱い眼差しが注がれるのだろうか。
取材相次ぐ、ディディのロボタクシー試験営業
2020年6月から、滴滴出行(ディディチューシン:以下、ディディ)が上海市でロボタクシーの試験営業を開始した。上海市嘉定(かてい)区の10キロメートル四方のエリアを対象に、事前に登録したモニターに限定したサービスだが、自国メディアの反応が今までと違う。
中国では、広州市で文遠知行(ウィーライド:WeRide)が、長沙市と滄州市で百度(バイドゥ)がロボタクシーの試験営業の段階を終え、誰でも予約をすれば乗車ができる「全面開放」をしている。ディディはそれらを後追いしている形だが、メディアの体験乗車取材が相次いでいる。
多くのメディアがディディのロボタクシーに注目をする理由はいくつかある。1つは、内陸の地方都市ではなく、いきなり上海という大都市から試験営業を始めたことだ。試験営業エリアは、上海市の北西部にある自動車関連施設の多い場所で、日本で言えば幕張やりんくうタウンのような整備され通行量も多くない地域であるが、いずれ上海市中心部にエリアが拡大されていくことになる。このインパクトは大きい。
もう1つが、ディディが2030年までに100万台のロボタクシーを導入するという計画を発表していることだ。お試しではない、同社の本気度が感じられる。
「中国最大級のユニコーン企業」と称されるディディ
ディディは「中国最大級のユニコーン企業」と呼ばれることが多く、タクシー配車アプリを出発点に、中国の都市交通を様変わりさせてきた。しかし、2012年の創業以来、その多くの労力をライバルとの競争や、発生した問題の解決に費やさざるを得なかった。このような競争と問題解決に一区切りがつき、ようやくディディは自社の理念である「美しい移動」を実現する体制が整った。この点からも、ディディの本気度を感じている人は多く、今後、中国の
MaaS(マース:Mobility as a service) や自動運転の発展は、ディディを外して考えることはできなくなると言える。
世界のユニコーン企業ランキング
ランキング
企業名
国
分野
企業価値 (億元)
1
アントフィナンシャル (2020年7月に「アントグループ」に名称変更)
中国
フィンテック
10,000
2
バイトダンス
中国
メディア
5,000
3
滴滴出行(ディディ)
中国
シェアリング
3,600
4
Infor
米国
クラウド
3,500
5
JUUL Labs
米国
製造小売
3,400
6
Airbnb
米国
シェアリング
2,700
7
陸金所(Lufax)
中国
フィンテック
2,700
8
SpaceX
米国
宇宙
2,500
9
WeWork
米国
シェアリング
2,100
10
Stripe
米国
フィンテック
1,600
中国のシンクタンク「胡潤百富」が公表した世界のユニコーン企業ランキング。アントフィナンシャル(現・アントグループ)はスマホ決済サービス「アリペイ」の運営企業。バイトダンスはTik Tokの開発運営企業。ディディは第3位にランクイン。ユニコーン企業の定義、企業価値の算出方法などは調査機関によって異なるが、この3社が中国ユニコーンのビッグ3であることは確かだ
(出典:「2019胡潤グローバルユニコーン企業ランキング」(胡潤研究院)より作成)
ディディは企業としても人気がある。その理由の1つは、創業者の程維(チャン・ウェイ)が典型的な「80后青年」だからだ。80后(バーリンホウ)とは、80年代生まれの現在30代後半の世代を指す言葉で、ひとりっ子政策によりわがままに育ったことから“小皇帝”とも呼ばれる。大きな理想に向かって突き進んでいく突破力を持ちながら、詰めは甘く、調子に乗って失敗もしやすい。そういう愛すべき80后が経営する企業としても注目されている。
中国テック業界は、大きく3つの世代に分けることができる。阿里巴巴(アリババ)のジャック・マー氏、華為技術(ファーウェイ)の任正非(レン・ジャンフェイ)氏のような貧しい時代の中国に生まれた苦労人が創業した企業を第1世代とすれば、バイドゥのロビン・リー氏、美団(メイトワン)の王興(ワン・シン)氏のような国内の一流大学を卒業し、海外留学をした帰国組エリートによる企業が第2世代にあたる。ディディのような80后青年による企業を第3世代とすれば、ディディはその80后企業を代表する企業に成長した。
ディディの創業者、程維(チャン・ウェイ)氏とはどんな人物?
前述したように、ディディの創業者であるチャン・ウェイ氏は豊かな時代の中国に生まれ、わがまま放題に育ち、失敗もやらかす典型的な80后青年だ。理想は高いが、失敗も多い。しかし、窮地に立たされると、周りから必ず手を差し伸べる人が現れてくる。第1世代、第2世代のテック企業創業者のように強烈なカリスマ性で社員を引っ張るのではなく、周りに助けられながら成長をしてきた。
そもそもチャン・ウェイ氏は大学受験で失敗をしている。共通入試である高考(注1)の数学の試験で、小冊子になった試験問題の最後の1ページをめくり忘れて、3問を未回答のままに提出するという失態を犯している。その結果、決して一流校とは言えない北京化工大学に進むしかなかった。卒業後の就職では苦労をし、保険の外交や足裏マッサージ店で働いていたこともあったという。
注1:中国の全国大学統一入試。通称「高考(ガオカオ)」。
転機になったのは、2005年にアリババに入社したことだ。アリババは、学歴や出身大学のランクにはこだわらないことで知られている。チャン・ウェイ氏は法人営業部門に配属されて、上司に恵まれたこともあり、めきめきと頭角を現した。成績をあげた手法は、数多く回る、何度も訪問するというシンプルなものだったという。入社して6年目には、法人営業のエリア責任者となり、アリババの出世コースに乗った。
出張が多かったチャン・ウェイ氏は、どこの都市に行ってもタクシーが捕まらないことに困っていた。「当時普及し始めたスマートフォンで、タクシーを自分がいるところに呼べる仕組みがあればいいのに」と思い立ち、アリババ社内でタクシー配車アプリの企画を提案するが却下された。アリババの事業ドメインから外れているという理由だった。
【次ページ】創業当時から味わったタクシー業界参入の厳しさ
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