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  • 2020/05/26 掲載

新型コロナによる不可逆な変化とロボット 導入理由は「感染防止」を加えた4Kに

森山和道の「ロボット」基礎講座

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新型コロナウイルス(2019-nCoV)による感染症(COVID-19)が続いている。今回の災害は世界中に不可逆な変化をもたらしたと考えている。つまり、元へは戻らない可能性がある。ロボットあるいはロボットビジネスは今後どうなるのか。これから必要とされるロボット技術とは何なのか。状況は今後も大きく変化する可能性が高いが、2020年5月現在での雑感を述べておきたい。
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Doog社の「サウザー」。噴霧器オプション搭載モデル

新型コロナウイルスによるパンデミック

 2020年初頭に始まった新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、5月半ばの今、全世界で感染者数約400万人、死亡者約28万人に達している(最新の数字は WHOのWHO公式情報特設ページなどを参照 )。発症し入院する新規感染者が増えれば医療現場は崩壊する。ウイルスは自己増殖するわけではない。人の体内で増えるのだ。まん延を防ぐためには人の接触を防ぐしかない。世界的に外出制限が実施され、世界経済は急激に落ち込んだ。感染者数が最多のアメリカでは新規の失業保険申請件数が急増。5月に発表された雇用統計では14.7%が失業したとされているが、実際の失業者数はすでに2割に達しているとも言われている。ただし経済活動が減少した結果、世界各国で大気汚染や河川・海の汚染が減り、CO2排出が減少した。

 日本国内の累計感染者数は5月13日現在で1万6000人程度。そしてやはり失業者が急増し始めている。製造業は稼働率を落とし、あちこちで部品の供給が滞り、サプライチェーンは見直しを余儀なくされた。4月7日に改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が内閣総理大臣から発出されると、「自粛」により街からは人が消えた。消費活動が抑制され、買いだめ需要のあるスーパーやコンビニを除く小売、飲食など多くのサービス業が一時停止状態に陥ってる。観光業やイベント関連は瀕死(ひんし)の状態にある。賑(にぎ)わいを作ることに注力して大成功していた産業ほど多くのダメージを受けた。いわば「頑張らないでくれ」と言われているわけで、現場はどうしようもない状況となっている。多くの学校は3月上旬から休校になり、小中高では家庭環境その他の事情による学習格差の拡大が懸念され、大学でもアルバイトで学費を稼いでいた学生たちが苦境に追い込まれている。農業の現場でも供給先がなくなると同時に人手が不足し多くの作物が廃棄されている。5月時点での日本経済全体の概況や諸外国の状況・政策などをつかむには、経済産業省 成長戦略部会による議論のための基礎資料を見るのが良い。



 唯一幸いだったことは通信インフラがすでに普及していたことだ。いわゆる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」、従来慣習のために長らく進まなかったテレワークが一部の企業では一気に進んだ。ちなみに上記の基礎資料にも「株価が低迷する中でも、GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)の時価総額は上昇しつつあり、2020年4月、東証1部上場企業全体の時価総額を上回った」とある。これまで効率化を進めた結果、冗長性のなさで破綻する企業がある一方、IT活用による業務の効率向上が至上命題となっており、印鑑の廃止もようやく本格化した。またさまざまな事業が停止に追い込まれた結果、BtoB物流が滞る一方で、BtoCはネットショッピングの増加によってニーズが爆発的に増えて、Amazonは生活雑貨の入庫を優先し、本の欠品が相次いだ。さらに感染症は物流倉庫内にも及んでいる。多くの人が、社会を支える「エッセンシャルワーカー」の重要さを改めて思い知った。

 再び海外に目を転じると、中国ではすでに経済が再始動し始めている。欧州ではドイツが全店舗の営業を再開しようとしている。スタートアップはどうか? 新型コロナ禍は期末・期初にかかっていたため、すでに走り始めていたプロジェクトは継続するものの、今後は多くの資金が絞られる可能性が高い。ランウェイの見直しは必須だ。すでに海外では名前の知られたスタートアップによるレイオフの話が度々報じられている。世界は感染症対策と経済対策を同時に進めなければならない困難に直面している。

いつまで続き、今後はどうなるのか

 言論界では「アフター・コロナ」「ウィズ・コロナ」「新しい生活様式」「ニューノーマル」なる言葉が飛び交っている。この問題は短期では終わらないことに多くの人が気づき始めている。感染が世界に広がり始めたころから、歴史を学んでいた人たちの間ではささやかれていたことだが、ここまで広がったウイルス感染はそんなに簡単には収まらないし、ワクチンが簡単にできて世界中に供給できるわけもない。仮に今の波がいったん収まるように見えても、人が都市で集中して暮らすことを望む以上、いったん収まったように見えても、秋冬になれば第2、第3の波となって再燃する可能性が高い。季節性インフルエンザのように根付くかもしれない。

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ミネソタ大学 感染症研究政策センターによる3つの想定シナリオ。「シナリオ1」は今後断続的にまん延すると考える。波の発生や緩和策実施の必要性の有無は地域によって異なる。「シナリオ2」は100年前のスペイン風邪に似たパターンで、2020年秋-2021年冬に今の第1波を遥かに上回る本格的な第2波が来るとするもの。「シナリオ3」は今がピークで今後はロックダウンの必要はないが、まだしばらく感染が続くと見る
(出典:米ミネソタ大学「COVID-19: The CIDRAP Viewpoint」
 ではいつまで続くのか? ハーバード大学の研究者は、2022年までは社会的距離を取ることが断続的に必要になるだろうと4月に「Science」に発表した論文で述べている。ミネソタ大学 感染症研究政策センターは4月末に出した報告書「COVID-19: The CIDRAP Viewpoint」で、今後について3つの想定シナリオを出している。楽観、最悪、いずれのシナリオでも2022年以降も続く前提となっている。我々は、最悪のシナリオに備える、少なくとも念頭に置いておく必要がある。

 コロナ収束、そして終息後はどうなるのか? 当然、「元の状態」に戻ることを望んでいる人が多い。だがコロナが短期で済まないことを考えると、「元の状態へ戻る」ことをひたすら希求するのではなく、新しい社会を生み出すこと、少なくともその覚悟をもって今後にのぞむべきだ。そうはいっても、コロナとまったく関係なく暮らしているような人たちも、それなりにいるのがまた社会の別の一面なのだが…。

紫外線+消毒薬で病院内を除菌、感染リスク低減へ

 さて、このような状況の中、ロボットはどうなのか。この問いに対しては、いくつか異なる視点がある。非常に厳しい業績予想が発表され、生産調整が行われている自動車産業の話は取りあえず横において話を進めてしまうが、一般ニュースでは、病院で稼働する殺菌消毒ロボットや配膳ロボット、またPCRを自動処理するロボットなどが日々、なにかしら紹介されている。

 すでに2月の段階でデンマークのサービスロボット企業 Blue Ocean Roboticsの子会社であるUVD Robots社が中国のSunay Healthcare Supply社と提携して、同社の自律移動ロボットが中国で2000以上の病院に採用されるとリリースされて、話題を呼んだ。2018年から製品化されていたこの「UVDロボット」は、日本ではカンタム・ウシカタが扱っている。また自律移動するわけではないが、国内ではテルモが扱っているXENEX Disinfection Services社の紫外線照射装置「LIGHTSTRIKE」も「ロボット」として報じられている。紫外線の弱点は光なので陰には届かないことだが、まず照射することで、その後の作業者の感染リスクを下げることは可能だし、ほかのツールと組み合わせることもできるだろう。



 ほかにもいくつか紹介しておこう。パナソニックは2013年から主に病院内の薬剤や検体の搬送用として開発していた自律搬送ロボット「HOSPI」の背面部に噴霧器による空間除菌機能をつけて「移動型除菌ソリューション」とした「HOSPI-mist」をリリースした。サイバーダインは清掃用ロボット「CL02」に噴霧器をつけて機能を拡張したロボットの羽田旅客ターミナルへの導入が決まったと発表した。ZMPは警備ロボット「PATORO」にオプションとして電動噴霧器による消毒液散布機能を搭載させると発表した。施設の手すりやエレベーターボタンなどを消毒して移動するとしている。Doogはシンガポールの子会社Doog Internationalから同社の協働運搬ロボット「サウザー」への消毒薬噴霧器搭載を発表した。国内でも大分県で、大分県ドローン協議会の会員企業であるciRoboticsとDoogの共同で、軽症者を受け入れる宿泊施設での食事配送・廃棄物回収業務等での活用実証実験が予定されている。



 また、前回こちらのコラムで紹介した自律移動搬送ロボット「PEANUT」シリーズを展開するKeenOnは、紫外線照射と除菌剤の散布の両方を一台に組み合わせたがロボット「N2」を発表している。やはり病院や隔離施設向けで、こちらは天井マーカーではなくSLAM(自己位置の同定と地図作成を同時に行うナビゲーション技術)で移動する方式だ。定価は500万円とされている。

 このような移動ロボットはほかにも多数、各社で開発されている。屋内では移動台車ロボットを、屋外向けには農薬散布ロボットを改造したものが多い。たとえば大分県ドローン協議会の会員企業であるEAMS JAPANは大分の商店街で「コスモクリーンローバー(CCR)」というロボットを使って消毒液をまく実証実験を4月に行った。

 サービスロボットの常で、実際の現場で本格的に使われているという感じではないが、コロナ関連のニュースの中では目新しい印象があるのだろう。役に立つかどうかは使い方次第の側面もある。今回の導入によって技術自体がブラッシュアップされていくものもあるだろうし、効果的な使い方も徐々に見いだされていくと思う。これまでネックだった価格については、実験の自動化装置にしても、UVを使った消毒ロボットにしても、今回の緊急導入の結果、やがて下落し始めるのではないだろうか。ユニークなところでは、シンガポールではBoston Dynamicsの4脚ロボット「Spot」がBishan-Ang Mo Kio公園内を歩き回って人々に「社会的距離の確保」を呼びかけている。遠隔操作だが、障害物は自動回避する。



【次ページ】物理的な距離を取りつつ精神的な距離を保つためにもロボット
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