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人工知能(AI)研究が目指すゴールは「人間の知能を再現すること」ですが、そもそも何をもって「コンピューターが人間と同じような知能を備えたかどうか」を判断すれば良いのでしょうか。これは、AI研究がスタートした当初からの大きな課題でした。さまざまな議論が行われてきた中で、コンピューターの知能について検討する方法の1つとして提唱されたのが、「チューリングテスト」です。
知能の有無を判断する「チューリングテスト」とは?
人工知能(AI)の研究では、コンピューターで人間の知能を再現することを目指すわけですが、その問題を考える前に、そもそも「知能」の定義とはどのようなものを指すのでしょうか。知能の定義は、
研究者の間でも見解がまとまっておらず、それほど、知能という言葉が抽象的なものを指しているのだと言えます。それだけに、知能の有無を判断することも非常に難しいのです。
こうした問題を踏まえ、英国の数学者であるアラン・チューリング(1912~1954年)は、コンピューターに知能が備わっているかどうかを問題にするのではなく、“知能を備えた人間のように振る舞うことができるか”を判断する「チューリングテスト」を提案しました。
チューリングテストを行うには、2人の人間と1つのAIを用意します。そして「試験官となる人間」が相手の顔や姿が見えない状態で「AI」と「人間」を相手に会話を行ない、試験官によって「AIが人間だ」と判断されれば合格です。
端的に言えば、「AIが、人間に人間だと間違えられたらクリア」というテストです。実際のテストでは複数人の試験官によってテストされ、AIと比較される人間も変わります。人間とまったく遜色のない理想的なAIであれば2分の1の確率で人間だと判断されるわけですが、テストでは30%以上が合格ラインとされることが多いです。
チューリングテストでは、会話によって言語能力のみならず相手の持っている知識や常識、経験や応用力などの資質が測れます。試験官によってはマニュアル通りの回答を見抜くこともできますし、質問によってはその場で相手の学習能力を測ることもできます。映像や音楽などを組み合わせ、より複雑な問いを作ることもできるでしょう。私達が行う「面接」と同じです。
こうした側面から「チューリングテスト」は表面的な部分に過ぎないものの、人工知能のさまざまな能力を同時に測る方法として優れていると考えられました。
チューリングテストの具体的なテスト事例
人間があらかじめ作ったマニュアルやパターン通りに動くプログラムは、チューリングテストをクリアすることはできるでしょうか。
実は、プログラムのマニュアルが巧妙に作られていれば、本質的な知能が備わっていなかったとしてもチューリングテストをクリアすることは可能です。それを最初に示したのが1966年にマサチューセッツ工科大学(MIT)が開発したチャットボット「ELIZA(イライザ)」でした。
ELIZAは、セラピストという設定で、患者役の人間がチャットに入力した内容に応答する形で会話します。たとえば、患者が「不安です」と言えば、イライザは「いつからですか?」と応え、それに対して「10月からです」と返すと、イライザは「詳しく説明して下さい」と応答します。
このやり取りだけを見ると、まさに会話しているように見えますが、その裏側の仕組みは単純で、会話の相手が打ち込んだ文章の構造とキーワードを抽出し、あらかじめ用意された返答パターンを組み合わせて返答しているだけなのです。イライザは、直前に入力された言葉の内容以外は見ていないため、会話の文脈を完全に無視します。
1972年には「PARRY(パリー)」と呼ばれるAIが作られます。パリーはセラピストではなく、統合失調症の患者という設定です。会話が成立しにくい疾患を持った人間とはいえ、「特定の性質を持った人間」を想定することで、より「人間らしく」振る舞うことに成功しました。
実際に多くの精神科医を騙せるほどの完成度で、パリーをきっかけにしてさまざまな特性をもった会話形のAIが作られるようになります。
【次ページ】AIと人間を見極めるのが難しい理由
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