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- 2020/02/18 掲載
自動運転の「AV4.0」イニシアチブとは? 米国は陸空の交通権益をどう守るのか
新しい車のほうが事故で生き残る確率は2倍高い
チャオ長官は運輸省長官に任命される以前、別の政権で労働省長官を務めたキャリアを持つ。2016年にフォックス長官の後継としてトランプ大統領に運輸省長官に指名され、17年に国会の承認を得た。責務としてはインフラ整備であり、自動運転導入を控えた米国の交通網整備ならびにそれに伴う法的規制を行うという重要任務を担っている。長官はまず交通機関発達の歴史として、17世紀から18世紀にかけての蒸気エンジンの開発により海洋交通が栄え、西洋社会の経済発展に貢献したこと、20世紀に入ると車社会の到来で国を網羅するハイウェイシステムが築かれ、物流や人の交流の面で大きな発展が遂げられたことに言及した。そして時代は空、宇宙へと交通を巡るテクノロジーは発展を続けてきた。
特に自動車については、安全性の部分でのテクノロジーが過去10年で大きく変化した。衝突防止システムなどにより、年間の交通事故死亡者数は減少。1972年と比較すると、昨年の交通事故死亡者数は32%減少したという。
一方で米国人が年間に運転する距離は156%増加している。また特筆すべきは新しい車ほど安全であり、18年以上経過した車と比較した場合、死亡につながるような事故で生き残る確率は新しい車が2倍以上となる。
過去数年でブラインドスポット・モニタリング、アダプティブ・クルーズコントロール、レーン逸脱警告、自動ブレーキシステムなどが新車にスタンダード装備されることが増え、道路の安全は加速していると言える。そして今日の交通を考える中で最もエキサイティングな発展は言うまでもなく「自動運転」の導入だ。
自動運転を推進するAV4.0とは何か?
チャオ長官は「自動運転(AV)は年間に数千人以上の命を救う技術であり、地上の交通を革命的に変化させるポテンシャルを持つ」と語る。さらに交通渋滞を緩和させることにより、人の生活の質を向上させ、生産性を改善し、環境への利点も大きくなる。また高齢者、障がいのある人々などのモビリティを改善し、誰もが気軽に目的地に向かう自由を与えるものでもある。米国では2017年に「Automated Driving System 2.0」というガイドラインを定め、自動運転の開発、安全性の指標とした。翌18年には自動運転にまつわる技術開発の速度に合わせ、これを「AV3.0」へと発展させた。将来のAV社会に備える地表全体のインフラ整備を推進していくためのガイドラインだ。
そして今回、CESの基調演説で、チャオ長官は「AV4.0」を宣言、目的は「米国の自動運転における世界のリーダーシップの位置と自動車メーカーのテクノロジーのさらなる発展をサポート」することにある。
AV4.0はホワイトハウスと米運輸省とのジョイント・イニシアチブであり、政府全体がより安全な自動運転システムの本格的導入を目指すというものだ。38の政府系機関、省庁が自動運転の実現に向けて参画し、必要な情報を共有する。
またAV4.0は州や自治体政府、イノベーター、すべてのステークホルダーに対し、ハイレベルのガイダンスを提供する。
これまでは規制面などでさまざまな政府系機関からの承認を得る必要があったが、共通ガイダンスにより、より迅速な開発と実装実験などが可能になる。目的はレベル4以上の自動運転の実現を巡る苛烈な国際競争の中で米国の優位性を保つためと考えられる。
【次ページ】AV4.0で核となる3つの原則
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