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- 2019/11/29 掲載
実は「ロボットがやれること」ばかり、農業はロボット導入のフロンティア
森山和道の「ロボット」基礎講座
やれることばかりの農業分野
しばしば「サービスロボットでは、どの分野が面白いと思うか?」と聞かれることがある。筆者はいつも「物流と農業と調理」と答えてきた。物流分野については言うまでもないだろう。もともと物流分野は十分に構造化が進んでいて、自動化機器が多数入っている。当然、ロボットも入れやすい。実際にアマゾンは言うまでもなく、先だっても日用品卸最大手のPALTACや、ファーストリテイリング(ユニクロ)によるロボットを活用した自動化倉庫への取り組みが発表されたばかりだ。これまではコンセプトだったが、もはやコンセプトでもなんでもない。倉庫でのロボット活用はどんどん進むし、ロボットを含む自動化機器を使っている企業とそうでない企業との差はどんどん開いていく。倉庫だけではなく、工場内の物流においても、従来のAGV(無人搬送車)を超えたロボット活用が進み始めている。
調理に関しては意外に思われることもあるが、レシピや工程管理という考え方がある調理の世界は、実はロボット化に向いている。食品工場での効率や衛生面での恩恵はもちろん、店舗でやる場合には見た目の面白さもある。人手不足が後押しとなり、流通も含めて商品の形態自体まで変化しつつあり、未来を想像できる活用分野だと思っている。
そして農業だ。農業がなぜ面白いかというと、物流分野とは対照的で、全体としてまだあまり構造化が進んでおらず、逆に、やれることがいっぱいあるからだ。農作業は多岐にわたる。よってロボットの用途も、防除や草刈り、収穫、搬送など、それぞれのステップにおいて異なる技術が必要となる。またコメ、野菜、果樹はそれぞれ異なるし、露地栽培とハウス栽培など栽培環境の違いもある。ともかく、それぞれの場所でやれることが多いのだ。
2019年には、事業者たちによる具体的な動きも現れはじめた。ドローンについては農薬散布や生育管理などに積極的に活用され始めていることはご存じの方が多いだろうが、それ以外の農業ロボットの動きについてちょっとのぞいてみよう。
植物工場でのロボット活用
まず分かりやすいところは植物工場での活用だ。10月に行われた「第9回 農業Week/国際 農業資材EXPO」でSUSは実際に植物工場に納入されている多段式栽培棚と栽培トレーの上げ下ろしを自動で行える電動昇降カート、そしてDoog社の人追従できる移動台車「サウザー」の活用を提案していた。デモでは人が行っている作業も含まれていたが、生産工場でよく行われているように「からくり」を使った工夫を用いられれば、さらなる省人化が可能になるだろう。
光や温度湿度、CO2濃度などの環境を、ほぼ人工的に管理している植物工場であれば、ロボットが活用しやすいのは自明だ。工場でワークを扱うのと同じように、ロボットが作物を扱うことになる。もちろん作物ならではの特性として、不定形であり、把持点も特定の部位でなければならないといった側面もあるので、認識技術もハンドも、それなりに考える必要はある。本格的に使われるようになるのは、まだ少し時間がかかると見たほうがいいだろうが、収穫された作物の搬送であれば現状技術でもコストメリットさえ出るのであれば使える。ロボットだけでなく、植物工場ならば生産現場のノウハウが横展開できる。
植物工場までいかなくても、大規模施設園芸(ハウス栽培)が主流のトマトのための収穫ロボットの多くは、ハウス内にもともと敷設されているパイプを移動用のレールとして使うことを大前提としている。何かしら足がかりにできるものがあれば、それを使って自動化を進めていくことができる。
ロボット化のための環境づくりはロボットなしでも人を楽にする
では、環境が整いにくい状況ではどうすればいいか。面白いのはこの領域だ。トマトでいえば、ロボットが認識・収穫しやすい房なりの品種を対象にしていることが多い。まだロボットはコストがかさむので、費用対効果を考えた品種を選定することも重要だ。そのための品種改良を行うのもありだ。AI活用の色づき・着果モニタリングシステムなども研究開発されている。そのセンサーを搭載したロボットが施設内を移動する日はそう遠くない。ロボットが動くのであれば作業データもいちいち人が記録しなくてよくなる。ロボットは作業だけでなく、自ら移動するセンサーでもある。着果モニタリングによって、収量予測だけでなく収穫に必要な農作業者数を割り出すこともできるようになるだろう。労務管理だけではない。蓄積されたデータを使えば、さらに予測モデルを良くし、栽培現場においても改善サイクルを回すこともできる。
これまでも農業では栽培法自体も開発されてきた。たとえば、果樹を、人あるいは機械が作業しやすいように育てる技術も開発されている。収穫ロボット開発に向けた栽培システムを国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)では「機械化樹形」と呼んでいる。たとえば、リンゴや梨をVの字状にして育てるのだ。こうすることで自動走行車両による防除や草刈りが可能になり、収穫ロボット導入のためにも使える。9品目について導入を進めているという。なお収穫ロボットによる収穫目標は9割。人と同程度の速度を目指している。
それだけではない。この樹形で育てることで、ロボットを入れなくても人手での作業が非常に楽になるのだ。これまでの栽培法に比べると、労働時間を3割削減できるという。再度強調するが、ロボットを入れなくても、だ。樹形を変えるとなると収量への影響その他も気になるが、今のところ耐病性そのほかの問題も起きてないという。
このような栽培法は必ずしもロボットだけを想定したものではないが、もちろんロボットも移動しやすくなるし、収穫自動化においては必須となる認識やロボットアームによるアプローチも容易になる。ロボットの領域の言葉を使えば、環境が構造化されつつあるわけだ。ロボットなど自動機械導入にはどうしてもコストがかかる。だが、機械を入れるかどうかを問わず、「取りあえず楽になる」栽培法が検討されるのは人手不足問題がある以上、必然的な流れだし、筋がいい。各作物で同様の考え方で新たな栽培法が検討されていくと、自動化のための準備も自然と進むことになる。
「ロボット化を検討して先進的な現場への導入を進めた結果、自動化を進めていない従来の現場でも活用できる有効な知見が得られて改善が進んだ」といった話は、生産現場や物流現場での自動化においても予想以上の副次効果として、しばしば聞く話である。
【次ページ】ロボット台車が情報を集めるセンサーに
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