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米中間選挙では上院で共和党、下院で民主党が多数派となり、トランプ政権は今後2年間「ねじれ」の議会を舵取りしていくことになる。こうした難しい状況下で、トランプ政権のもと激化した「米中貿易戦争」による米国経済への具体的な影響も、徐々に顕在化してきた。製品の供給がタイトになったり、国内産への切り替えが進むことで、一部の業種では業績が上向いているが、今後のインフレを加速させるリスクもはらむ。プラス面の効果がいつ剥落するのか、市場では警戒感が高まっている。
関税がかかると企業はどう行動するのか?
トランプ政権は2018年3月、通商拡大法232条に基づき、中国産の鉄鋼製品に25%、アルミ製品に10%の追加関税を課す大統領令に署名。中国が報復措置として米国産豚肉など128品目に報復関税を課したことから、米中両国は事実上の貿易戦争に突入した。
7月に入ると、米国は中国製産業用ロボットや航空部品など340億ドル相当の輸入品に対する25%の追加関税を発動。続く8月にはプラスチックや半導体など160億ドル相当の輸入品に対して関税をかけ、9月には、これまでの規模を大きく上回る2000億ドル規模の関税措置に踏み切った。
ここまで大規模な関税措置は近年では例がなく、一部では大恐慌以来の事態であるとの指摘も出ている。貿易戦争による悪影響についてはさまざまな意見があり、中には世界経済が大失速するという悲観的な予想もある。特に日本の場合、自動車産業を中心に主要企業の多くが米国経済に依存しており、米国経済が失速すると米国以上にダメージを受ける可能性が高い。
あまり感情的になっても意味がないので、原理原則に基づき、貿易戦争によって米国経済がどう推移するのか冷静に分析する必要があるだろう。
経済学的な一般論として、ある国が特定国からの輸入品に対して高関税をかけた場合、製品を輸入している事業者は調達先の変更を検討することになる。関税を低く抑えられる第三国に同じ製品があれば、そこからの輸入に切り替えるはずだ。この場合、関税は安く済むので経済への影響はほとんどない。
だが第三国に同一の製品がない場合、事業者は自国産の製品に切り替える必要に迫られる。そもそも自国産の製品価格が高いので輸入をしていた可能性が高いので、この場合には、仕入れコストが大幅に上昇する結果となる。第三国で代替品が見つかっても、価格が高かった場合には、同じように仕入れコストの上昇をもたらすだろう。代替品を諦め、関税を支払って輸入を続けた場合もコスト増という部分では同じだ。
貿易戦争によって一時的に景気が良くなる可能性も
輸入している事業者はそのままでは業績が悪化してしまうので、どこかのタイミングでコスト上昇分を価格に転嫁する必要に迫られる。このようにして各業界で徐々に値上げが行われることになり、最終的には消費者が購入する製品やサービスの価格も上昇していく可能性が高い。
原材料価格の上昇が最終製品の価格に波及するまでには、米国の場合、1年程度の期間が必要とされる。つまり貿易戦争の勃発は、米国経済に将来の価格上昇圧力、つまりインフレ懸念をもたらすことになる。
物価に上昇圧力が加わるという点では同じだが、第三国からの輸入に切り替えるのか、自国産に切り替えるのかではマクロ経済的な影響は変わってくる。第三国からの輸入の場合には単純なコスト増加だが、自国産の場合には経済圏内でのお金の回り方が変わるからだ。
自国製品に切り替えるということは、自国の生産が増えるということであり、その分だけ国民所得は増加する。少なくとも短期的にはGDP(国内総生産)にはプラスの効果をもたらす可能性が高い。もしこうした動きが顕著だった場合、貿易戦争が勃発しているにもかかわらず、一時的には景気が良くなる可能性が出てくる。
だが中長期的に見た場合、高い関税の実施は、確実に経済を弱体化させていく。一時的な景気の浮揚効果が大きかった分、その後の落ち込みも大きくなるだろう。
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