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- 2018/04/02 掲載
なぜ元セガ 水口 哲也氏の新会社は「社員ゼロ」なのか
「社員ゼロ」セルフマネジメントを導入した理由
水口氏は、グラフィックコンテンツの黎明期より数々のインタラクティブ作品を世に送り出し、エンターテインメントやアートの領域で創作活動を続ける、“知る人ぞ知る”トップクリエイターだ。ゲームメーカーのセガ・エンタープライゼス(現セガゲームス)を経て、共同起業やフリーランスとして活動。現在は米国で自身の会社Enhance Incorporatedを立ち上げている。社員はゼロ。プロジェクトを共にするパートナーとは、それぞれがコミットする業務と報酬を明確にして対等な契約を結んでいるという。モデレータを務めた北澤 直氏は、日米で企業弁護士として金融・不動産関連の法律業務に携わったのち、証券会社の投資銀行員に。現在はフィンテック(FinTech)分野のベンチャー「お金のデザイン」で取締役兼任COO(最高執行責任者)も務める。両者ともに、自身の専門性を持ちながら事業や経営に携わる立場だ。北澤氏は水口氏と出会い、「自分の仕事に価値をつける」という考え方に刺激を受けたと語る。
冒頭、水口氏は自身の経歴を以下のように紹介した。
「日本で27年くらいゲーム業界のクリエイターとして、音楽のプロデュースやエンターテインメントに関わる仕事をしてきました。デジタルで新しいエンタメコンテンツを作る仕事ですね。今は米カリフォルニア州で登記してエンハンス(Enhance Incorporated)という会社をやっています。米国で起業したの理由はいくつかあるのですが、VR分野は20数年興味を持ち続け、ついに『今だ!』と思えるタイミングが到来したことです。ただし、日本で起業するには波がまだ来ていないと感じていたので米国で起業し、VR/AR/MRやゲーミングを通じて、ライフスタイルも含めてプロデュースしていこうと考えました」(水口氏)
何度か起業を経験している水口氏が、今回の起業で目指したのは「マネジメントに費やすカロリーを抑え、本来のクリエイティブに注力することで仕事の価値を高める」ことだった。具体的には、複数のプロジェクトを抱え、一緒に働く人は30人程度いるものの、「社員」は1人もいない。水口氏はその理由を以下のように語る。
「自分が手掛けるプロジェクトは専門性が高い。だから、メンバーおのおのが『クリエイティブな状態でいること』が大事なのです。社員としてクリエイターをやっていると、『頑張らないクリエイター』が出てきます。たとえば10人中1人でもそういうクリエイターがいると、残りの9人が文句を言い始める。うまくいかないと実感しました」(水口氏)
優れたクリエイターが組織で働きたいと思える環境を提供する。その仕組みを考えたとき「会社」と「社員」という関係性は適切なのか。出した答えは「プロジェクトごとの個別契約」だった。
あなたの100%っていくらですか?
現在、水口氏のプロジェクトに参加しているクリエイターは、各個人が自身をマネジメントしている。法人化する人もいれば、個人事業主として活動する人もいる。プロジェクトに参加してもらうにあたり、水口氏が最初に聞くことは「あなたの100%っていくらですか?」だという。「最初はみんな“ウッ”となるんですよ。自分の100%ってどういうことだろう。幸せで居続けるために、家族を養うために、1カ月にいくら稼げばハッピーに暮らせるのかを考えるのです。これは大事なプロセスだと思います」(同氏)
契約するクリエイターは納税や確定申告、必要経費の管理もすべて自身で行う。水口氏は、「自分の責任で働き方や業務を決定できれば、マネージャー(管理者)は必要ありません。必要のないマネジメントやいらない仕事が減ることで、本来注力/育成すべきところに集中できます」と語る。
ただし、こうした働き方はある程度の経験がないと難しい。北澤氏の「経験が浅い人や若手も起用しているか?」の問いに、水口氏は以下のように回答した。
「一般企業のように、先輩が新人のメンターとなったりOJT(On-The-Job Training)で育てたりということはしていません。インターンのような立場の人はいますが、『専門性が確立していない人材には会社として何の保証もできない』と伝えてあります。ただし、それでも働きたいという若者もいます。そういう人材は強くてタフですね」(水口氏)
【次ページ】マネジメントなしでもプロジェクトがうまくいくための3つの要素
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