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  • 2017/08/31 掲載

バイオハッカーが世界を変える? DIYバイオ、バイオエコシステム最新事情(2/2)

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スタートアップを支える米国の「バイオエコシステム」

 3人目のスピーカーは、バイオテック領域に特化した世界最大級のアクセラレータIndieBioのCSO、ロン・シゲタ氏。IndieBioは米国SOS Ventures社が運営する4カ月間のアクセラレータープログラムだ。参加が認められたスタートアップには「25万ドルの資金とハイスペックなバイオラボを提供して開発研究をサポートしている」とシゲタ氏は述べる。

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バイオ領域に特化したスタートアップ・アクセラレータIndieBioのロン・シゲタ氏

 シゲタ氏はIndieBioのプログラムに参加した企業による開発事例として、DNAにデジタルデータを保存するCatalog Technologiesの技術、Konikuが研究を進めるニューロン(神経細胞)を使ったコンピューターチップなどを紹介。

 中でも注目すべきは、食の分野におけるイノベーションだ。シゲタ氏によれば、ゲノム編集などの技術を使って、食品の特定の機能だけを増強させることはすでに可能だという。また、動物の細胞を培養して作った人工肉を生産するMemphis Meats、酵母を使って人工的に卵白を製造するClara foodsなどの事例を挙げ、これらが従来の畜産より環境負荷を低減できる可能性についても触れた。

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スピーチで紹介された細胞培養による人工肉ミートボール

 このように独創的なアイディアを持つスタートアップが次々に誕生し、急速に成長している背景には、IndieBioをはじめとするスタートアップ・エコシステムの発展が欠かせない。シゲタ氏の講演では、そのことが改めて示唆された形となった。

 「バイオテクノロジーはITとは違って、アイディアをリアルなモノとして作り出すことができる技術」と話すシゲタ氏。研究開発にかかるコスト面での課題は認めつつも、「バイオには世界や社会のルールを一変させる可能性がある」と力を込めた。

人類の脅威にもなり得る技術の安全性をどう担保するか?

 セッションの最後には、伊藤穰一氏をモデレータにパネルディスカッションが行われた。パネリストは、上述のスピーカー3名に加え、バイオとアートを融合させる芸術ユニット BCLのゲオアグ・トレメル氏、連続起業家(シリアルアントレプレナー)のフィル・リービン氏が登壇した。

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壇上にはバイオテック・スタートアップやDIYバイオのキープレイヤーたちが顔を揃えた

 トレメル氏は、バイオアーティストとして活動する傍ら、東京初のバイオラボBioClubを設立するなど、日本のDIYバイオシーンを牽引する主要人物の一人だ。一方、Evernoteの創業者として知られるリービン氏は、今年5月にスタートアップ支援スタジオAll Turtlesを創業し、その動向に注目が集まっている。

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BioClub設立者のゲオアグ・トレメル氏(左)とAll Turtlesを創業したフィル・リービン氏(右)

 ディスカッションでは、スタートアップによる技術革新やDIYバイオなどの文脈を、大手製薬会社や学術的なアプローチにどうつなげていくのか、といったことが話題に上った。とくに焦点となったのは、バイオテクノロジーにつきまとう「安全性」と「規制」の問題だ。

 モデレーターの伊藤氏は、当初バイオハッカーたちによるDIYバイオの流れがFBI(米連邦捜査局)に警戒されていた事実に言及。さらに、いちはやく遺伝子組み換えに関する条例が整備されたことで健全なバイオコミュニティが育ったマサチューセッツ州ケンブリッジを例に挙げ、安全性を担保しつつイノベーションを阻害しない規制づくりの必要性についても指摘した。

 東京のDIYバイオシーンにおいては、社会の現状とかけ離れた厳しい法規制をどうクリアするのか、という疑問も示された。トレメル氏は「安全面については、先行するYCAMの事例などを参考にした」と、バイオラボ設立時の様子を振り返り、さらに「(日本では)このようなバイオハッカー・スペースに向き合うための明確なプロセスがまだ確立されていない」と付け加えた。

 また、リービン氏は「社会や生態系に与えるバイオテクノロジーの影響がより正確にシミュレーションできるようになれば、安全面への懸念は下がっていくはずだ。さらなる技術の進歩が、バイオロジーをさらに大きく飛躍させるだろう」と見解を述べた。

 現在、世界ではまだバイオテクノロジーに対する規制が強く、大企業や大学などが大規模な研究開発に取り組むことは容易ではない。一方、実験や解析にかかるコストの低下で、アイディアを持つ個人やスタートアップが新しい技術を開発するケースは増え続けている。

 かつてインターネットの世界でスタートアップによる技術革新が進んだように、バイオの分野でも今、同様のことが起きつつあるといえる。われわれにとって福音にも脅威にもなりうるバイオテクノロジーを、最良の形で社会に実装するための規制のあり方については、今後も多くの議論を重ねる必要があるだろう。

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