- 会員限定
- 2017/04/03 掲載
秋田県仙北市長が語る「国家戦略特区」活用術、自動運転やドローンをどう活かすのか
国家戦略特区に名乗りを上げた仙北市が掲げる目標
市町村合併により、同市の人口は2万7710人となったが、近年どの地方都市も抱える少子高齢化や人口減少の問題に頭を悩ませている。
国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、同市も2040年には生産者人口と老年人口の比率が逆転すると予想されている。そうなると高齢化率が50%を越える限界集落が増え、もしこのまま対策を取らなければ、自治体が本当に消滅してしまう恐れもある。
そこで同市では、とにかく若者が魅力を感じる街づくりを進め、いちはやく彼らにUターンしてもらえるような施策を打つことにしたという。
3月10日に開催された経営情報学会・中小企業のIT経営研究部会 秋田大会に登壇した門脇市長は「基幹産業の観光や農業に加え、近未来の技術を積極的に活用することで、新産業を創造し、産業構造を抜本的に改革することが重要だと考えました。そこでチャレンジできることは何でも実行していく方針をとっています。とはいえ、若い人が生き生きと活躍できるような場所や仕事がなければ、定住も移住も喚起されません」と指摘する。
そこで、いち早く仙北市は国家戦略特区に名乗りを上げた。規制改革などの施策を総合的かつ集中的に推進できる国家戦略特区は、現時点で第3次まで指定され、仙北市のほかに東京圏、関西圏、愛知県、沖縄県、広島県・今治市、仙台市、新潟市、養父市、福岡市・北九州市の10エリアが選ばれている。
国家戦略特区を通して何を実現しようとしているのか
門脇氏は「とはいえ、特区に指定されただけでは何も起きません。すべて自分たちで推進していく必要があります。地域活性化に結びつくような規制緩和のメニューを発案し、それを実施していく民間事業者も欠かせない。これが特に重要なポイントでしょう。仙北市は実験場のようなもので、事業が成功すれば、そのロールモデルを全国に展開できます」と強調する。
仙北市が、内閣から具体的に認定された特区事業には、「国有林野活用促進事業」「農業法人経営多角化等促進事業」「高齢者退職者就業事業」などがあり、さらに調整中・新規の規制緩和の提案として、「温泉活用・湯治型ヘルスケアの推進」「農家民宿などの団体が行う農林業体験サービスにおける旅行業法の適用除外」などがある。
「特に国有林野活用では、広大な林野にハンガリーの国宝と言われる豚・マンガリッツァを放牧し、良質な生ハムをつくろうという計画です。一方、温泉活用・湯治型ヘルスケアについては、湯治と医療の組み合わせで健康を増進させていく。そのなかでウェアラブル端末を活用したり、多くの先端技術を取り入れる方針です」(門脇氏)
ドローンで市内の小学校と中学校の「図書」を輸送
国有林野が多くあるということは、話題のドローンとも相性が良い。なぜなら都心では落下の危険があり、なかなかドローンを飛ばすことはできないが、森林上に飛せば、人に落ちる危険もないからだ。そこでドローン研究・開発のフィールドにしようという発想が生まれた。2015年には、田沢湖高原スキー場跡地の上空を、同市の指定ドローン飛行エリアに設定した。具体的なドローン活用の取り組みとして、たざわ湖スキー場で近未来技術実証特区検討会が2015年に開催され、ドローン研究で有名な千葉大学 兼 自律制御システム研究所の野波健蔵氏らが自動飛行を実施。ゲレンデ斜面に沿って、約1kmの距離を往復し、雨天のなかでの正確な飛行が実証された。
また2016年には、市内の小学校と中学校をドローンで結び、図書の輸送実験も行ったという。「仙北市の小・中学校の図書館では、検索システムが構築されており、すべてオンラインで接続されています。もし自分たちの学校の図書館に蔵書がなければ、他の学校にリクエストして取り寄せられるが、その本を運ぶのは忙しい先生の役目でした。そこで我々は、本の配送をドローンで行うという取り組みを進めています」(門脇氏)。
これを契機に同市の小学校では、ドローンを用いたロボットプログラミング講座が開催されたり、秋田ドローンコミュニティや県内の東光鉄工との連携なども活発化。また人材育成面では、ドローンの知識と操縦を学ぶ「近未来技術体験プログラム」を開催したり、映像・農業・測量分野におけるドローン技術を有名著名人から学べる「SENBOKUドローンスクール」もオープンさせたそうだ。
さらに日本初となるドローン競技国際大会「ドローンインパクトチャレンジ アジアカップ 2016秋田県仙北市」も開催。同市は、特区としての特定実験試験局制度を活用し、ドローン飛行のための免許申請から発給までを、原則的に即日で行えるようにした。
「ほかにも仙北市には、ドローン技術を活用できるシーンが数多くあると考えています。たとえば、火山の監視や、山岳遭難救助、災害時の支援物資輸送、インフラ点検・計測・測量、寒村地への薬剤輸送などです。このような取り組みの中から、次世代のドローン研究・開発者が育ち、市内の産業が創出されることを大いに期待しています」(門脇氏)
【次ページ】無人運転バスの公道実証実験で何が得られたのか
関連コンテンツ
PR
PR
PR