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2020年に向けた社会的イノベーションの創出に注目が集まる。国の第5期科学技術基本計画(2016〜2020年度)の中で推進される「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)における主要研究テーマの一つが、医療サービスの高度化だ。IoTによるプラットフォームの整備やロボット、人工知能(AI)はどのように医療、介護分野でのイノベーションを生み出すか、現在までの取り組みや目指す方向性に迫る。
超スマート社会は11のサービスによって構成される
2020年に向け、国は第5期科学技術基本計画を掲げ、ICTやIoTを社会的イノベーションの創出につなげる方針を打ち出している。これは、ネットワークやIoTを、ものづくりだけでなく様々な分野に広げ、経済成長や健康長寿社会の形成、さらには超スマート社会の実現につなげていくものだ。
このほど都内で開催されたエレクトロニクス製造サプライチェーンの国際展示会「SEMICON Japan」では、「超スマート社会における医療サービス」と題したセッションに、国立保健医療科学院 健康危機管理研究部 部長の金谷 泰宏氏が登壇した。
超スマート社会とは、一言でいえば「必要なときに、必要なモノやサービスを受けることができる」社会のことだ。IoTやロボット、AIといったテクノロジーが組み合わされることで、地域、性別を問わず多くの国民や様々な国から日本に訪れる旅行者がQOLの向上という恩恵を享受することが期待される。
現在、同基本計画に沿って、産学官連携のもと、超スマート社会サービスプラットフォームの構築が進められている。金谷氏は、超スマート社会は、11のサービスによって構成されることを示した。
「サービスプラットフォームには『エネルギーバリューチェーン』や『高度道路交通システム』『地域包括ケアシステム』や『新たなものづくりシステム』など、11のシステムがあり、そのうち『エネルギー』『生産体制支援』『交通システム』の3つが中核をなすシステムだ」(金谷氏)
急ピッチで基盤技術の開発が進む「地域包括ケアシステム」
特に、注目すべきは基盤技術の開発だ。ビッグデータやサイバーセキュリティ、AI、ロボットなど共通となる基盤技術を確立し、情報の標準化や保護、活用を進めていく。
「基盤技術とサービスプラットフォームを組み合わせ、規制緩和と人材育成をあわせて進めることで、貿易収支の黒字化、少子高齢化社会でのGDP維持、健康な生活の維持による医療費増大の抑制やプライマリーバランスの維持を実現することを目標としている」(金谷氏)
上述した11のサービスプラットフォームの中で、厚労省は、「地域包括ケアシステム」に取り組む。これは、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援サービスを包括的に提供するものだ。
「地域包括ケアは、保険と医療、介護、交通システムを組み合わせ、安全な移動を提供する。こうした価値は、2020年のオリンピック・パラリンピックでも、障がい者の誘導などに資するもので、基盤技術の開発が急がれる」(金谷氏)
AIとIoTを組み合わせた医療改革のカギを握るのは
少子高齢化社会の到来により、医療費の増大や、循環器、整形外科的疾患の増大といった疾病内容の変化などが見込まれる。こうした背景の中、厚労省は医療改革に着手、これまではどの病院でも同じ医療サービスが受けられることが基本だったが、これからは、急性期の疾病を担当する病院を中心に、慢性期、リハビリ、在宅医療と、医療の分化に取り組んでいる。
「地域包括ケアシステム実現のためには、膨大な保険医療データを連携させ、データの共有することで地域医療の現状を変えていくことや、データのさらなる可視化、保険医療関係のデータ連携の仕組みなど、ステークホルダーの連携がカギを握ってくる」(金谷氏)
さらに、医療サービスだけでなく、介護、在宅看護などの分野でも医療情報の共有のニーズが高い。共通プラットフォームが整備されればさらなる医療改革に期待することができる。
では、具体的な研究内容の一部を紹介しよう。例えば、スマホアプリと、自宅の血圧計や体重計が連携しデータを収集。脈拍、体温といった情報と毎日の食事、カロリー摂取のデータをかけ合わせることで、AIが健康状態の分析、可視化を行う。
「データから健康状態が危険な水域に入ったと判断されたら、AIが病院受診を推奨する。これにより、放置すると悪化する高血圧、心筋梗塞、糖尿病などの健康リスクの予防につながり、さらに、投薬、受診歴、家族の病歴など、総合的な個人の健康状態管理につなげていくことができる」(金谷氏)
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