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- 2015/12/03 掲載
武田薬品 CIO オリビエ・グアン氏が語る、グローバル「デジタルビジネス」戦略
2013年当時にタケダが抱えていたITの課題
タケダといえば、国内では誰もが知る最大手の製薬メーカーである。だが、グローバルで見た場合は別だ。1781年に創業して以来、世界のメガファーマー(巨大医薬品資本)と互角に戦っていくことができる真のグローバル企業に飛躍することは、タケダにとって最大の経営課題といって過言ではない。そんなタケダのドラスティックな変革を断行したのが、経済同友会代表幹事としても知られる長谷川閑史会長である。創業家の影響が色濃く残るタケダにあって、2014年6月にライバルである英製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)社からクリストフ・ウェバー氏を引き抜き、社長兼CEOに起用したことは各界に衝撃を与えた。
前職のネスレに25年間在籍したグアン氏は、2003年よりネスレグループのCIOを務めてきた人物だ。特に2005年のNestle GLOBEプログラムにおいて強力なリーダーシップを発揮してきたことで知られる。まさにその手腕が買われたわけだ。経営と一体となったIT戦略によって、タケダグループ全体のイノベーションを推進していく役割を担う。
具体的にどんな取り組みが始まっているのだろうか――。「Gartner Symposium / ITxpo 2015」のゲスト基調講演に登壇したグアン氏は、まず“出発点”として、2013年当時にタケダが抱えていたITの課題を振り返った。
タケダの主要なIT組織は、大きく日本、シカゴ(米国)、ボストン(米国)、欧州&新興国市場の4つのリージョンで活動しているのだが、それぞれが独立し、自律的に運営されていたという。
組織横断のITインフラがなければ、ローカルに構築されたシステム間の互換性もない。人的リソースに目を向けても、1,660名のフルタイム要員のうち社内従業員は550名にすぎなかった。
米国では70%をインソースで賄っているのに対し、日本では90%をアウトソースに頼っているなど、外部リソースの活用アプローチにも大きなばらつきがあった。
また、予算についても中央、各リージョン、ローカルごとに計上され、説明責任やシステム定義、ポリシーに一貫性を持たなかった。「断片的なアプローチが多く、グローバルのコラボレーションやシナジーは限定的でした」とグアン氏は語った。
2018年までにグループ全体をグローバルシステムに統合
「重要なのはタケダの事業戦略にITを連携させること。ビジネスを加速させることが、私のミッションです」と語るグアン氏が、まず着手したのがIT組織の変革である。これまでのリージョン別の一貫性のない活動から脱却。各ビジネスファンクションの運営委員会が作成したソリューション・ロードマップを、CIOが議長を務めるIS/IT運営委員会がサポートすることで、ガバナンスを確立することを目指した。
この新体制のもとで、複数のローカルシステムからリージョン/機能別システムへの移行、さらにグローバルシステムへの統合を進めていく。
グアン氏によると、実はこうしたグローバルシステムに関する課題を抱えているのはタケダに限ったものではなく、大手を含めた世界の製薬業界全体に共通しているようだ。前任のネスレをはじめとする先進的な消費財メーカーに比べると10~15年は遅れた状況にあり、製薬メーカー各社はいずれもグローバルシステムへの移行に着手したばかりである。「だからこそタケダのグローバル展開において、コストと効率の両面から競合他社に差をつけるチャンス」とグアン氏は強調した。
要するに、今後の成長基盤を確立していくうえで、その命運を握っているのはグローバルシステムの実装スピードにほかならない。グアン氏は、「2016年までに欧州のすべてのローカルシステムをグローバル標準のERPテンプレートに移行。さらに、2018年までにこのテンプレートを日本と米国に展開します」と、BPR(ビジネス・プロセス・リデザイン)プログラムのロードマップを示した。
【次ページ】医薬の枠を超えた「デジタル戦略」を加速させる
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