『ものすごい言葉 次のリーダーのために』著者 多根清史氏インタビュー
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ガンダム、そして日本の指導者たち……
――前著『ガンダムと日本人』でも小沢一郎やシャアなどについて論じていらっしゃいました。ガンダムの世界におけるリーダーシップも多様なのでしょうか。
多根氏■ガンダムの世界での「名言」は、けっこう周りの目を意識したセルフプロデュース的なものが多いですね。「笑うなよ…兵が見ている」という感じで(笑)。人生の深い心情を吐露したというより、政治的な意図が感じられやすい。『ガンダムと日本人』で、ほとんどの人が知らないであろうバロム大佐を取り上げたのも、珍しく「現場の息遣い」が感じられたからです。
この作品が放送から35年以上を経た今もなお、ティーンズから30~40代にいたるまでの広い支持を得て、1分の1ガンダム像を建てられるほどの国民的なアニメに成長できたのは、多彩な人々の生き方を描いているから。単純な正義VS悪ではなく、すごいパイロットも人並みに悩むし、戦線の後方でメカニックを整備している1人ひとりにも人生がある。
そこにはまた、さまざまなリーダーシップの形もあります。人気キャラのシャア・アズナブルも「赤い彗星」として戦場をかけめぐっているのは、部下の尊敬を集める意味もあり、上司の見る目も計算に入れてのこと。ジオン軍の総帥であるギレン・ザビも「人類を導く」と大げさな演説をぶっていますが、そうやって戦意を高揚しなければ、国力の脆弱なジオンを率いることはできない。
どの立場にいるリーダーであれ、その人なりの苦労が伺えるのがガンダムの素晴らしさ。作品の厚みは、戦後日本の歩みを反映してのものではないか――というのが、拙著『ガンダムと日本人』の出発点ですね。本書『ものすごい言葉』とあわせて読んでいただければ、より理解が深まるのではないかと(笑)。
――現在の日本の指導者についてはどうご覧になっていますか? 首相や経営者のリーダーシップについてはさまざまな議論がありますが……。
多根氏■もう少しご自分たちの言葉の重みを自覚していただきたいですね。「失言」ばかりでは他の名言本の著者さんも困るのではないでしょうか(笑)。無位無官の在野の人や学者であれば何を言っても自由です。面白いことをいう人だな、またコロコロ言うことが変わったなと笑われ者になれば済む。でも、政治家であり入閣して役付になった人は、「個人」ではなく「国家」が発言したことになる。もう少し円が下がったほうがいいのではないか、といえば市場が反応してしまう。
剣豪が剣を武器とするように、政治家の言葉は現実に何かに働きかけ、何かを傷つける力があります。その怖さを肝に命じるためにも、ぜひ本書を読んでいただきたい(笑)。自らの言葉の重みを再確認することが、リーダーシップ回復の第1歩ではないでしょうか。
――今後のお仕事のご予定をお教えください。
多根氏■現在は雑誌『オトナアニメ』のスーパーバイザーといいますか、原稿を書きまくっています(笑)。ほか、ゲーム雑誌での執筆や、イベントに出ることもあるかもしれません。あと、ビデオゲームの進化論に関する新書を、今年の早い時期に出版の予定です。
――楽しみにしております、どうもありがとうございました。
●多根清史(たね・きよし)
1967年生まれ。京都大学大学院法学研究科修士課程修了(国際政治学)。アニメやゲームから政治問題まで広範な領域で執筆活動を展開するライター。著書に『ガンダムと日本人』(文春新書)、『プレステ3はなぜ失敗したのか?』(晋遊舎ブラック新書)、『日本を変えた10大ゲーム機』、『ものすごい言葉』(ともにソフトバンク新書)などがある。
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