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- 2021/06/30 掲載
中国台山の「原子炉破損」が大問題なワケ、それでも原子力発電は必要か?
台山原発は実はフランス製
台山原発の放射能漏れが世界に伝わったのは米紙の報道がきっかけだった。米紙によると、台山原発の開発を担当した仏フラマトムが、同原発において「放射能の脅威が差し迫っている」として米政府に情報提供したという。フラマトムは台山原発に対して問題解決に向けた支援を行っており、フラマトムの親会社である仏電力公社(EDF)も台山原発の合弁会社に助言していることを明らかにした。当初、中国は放射能漏れの事実を明らかにしていなかったが、一連の報道を受けて当局は、燃料棒の破損によって冷却材中の放射性物質の濃度が上昇したことを明らかにした。
現時点においても詳細情報が明らかにされていないので、ある程度、推測するしかないが、発表では6万本ある燃料棒のうち破損したのは5本前後だという。フランス側も、今回の放出は「中国の安全基準を満たしており、事故ではない」と説明している。
炉心内には大量の燃料棒が存在しているので、軽微な破損まで含めれば、トラブルを完全にゼロにすることはできない。どこからを事故とするのかは基準次第なのだが、現時点で公表されている情報が正しいとすれば、比較的軽微なトラブルであり、大事故の可能性は低いだろう。
もし燃料棒が大量に破損している状況であれば、大量の放射性物質が大気放出されているはずであり、日本国内のモニタリングポストでもそれが検知されるはずだ。今のところ国内のモニタリングポストの数値に有意な変動はないので、大事故は起こしていないと考えられる。
今回のトラブルは欧米メディアの指摘が発端となっており、中国当局の説明が後回しになったことから、中国の透明性に対して批判が集まっている。ただ中国は昔から透明性が低い国であり、こうした事態が発生することはあらかじめ予想できたことでもある。
中国に対して情報公開を求めていくのは当然のことだが、今回のトラブルはそれ以上にやっかいな問題を引き起こす可能性がある。その理由は、トラブルを起こした原発は、フランスが開発した最新鋭の「欧州加圧水型炉(EPR)」であり、次世代原発の切り札とされている原子炉だからである。
安全対策でコストが跳ね上がるという問題が発生
EPRは、アレバ(現フラマトム)などが中心となった開発を進めてきた新世代の加圧水型原子炉(PWR)である。基本的な仕組みは従来のPWRと同じだが、安全性を高めるための改良が施されている。EPRは、PWRに特有の蒸気発生器を含む一次冷却系と二次冷却系について、完全に4系統に分離されており冗長性が高い。万が一、炉心溶融(メルトダウン)が発生した場合でも、原子炉下部の巨大な受け皿に流れ込む仕込みになっており、致命的な大事故を防ぐ仕組みになっている。
だが、一連の安全対策によってコストが跳ね上がるという問題が発生しており、欧州では建設スケジュールの遅延が大問題となっていた。また、施工上の問題もいくつか指摘されており、建設作業が滞っている。今回、トラブルを起こした台山原発も同じEPRだが、欧州より着工が後だったにもかかわらず、いち早く2018年に営業運転を開始している。
今回のトラブルの原因がはっきりしないことには何とも言えないが、燃料棒の破損が運転ミスなど人為的なものなのか、炉の特性など根本的な要因なのかによって状況は大きく変わる。仮にこのトラブルがEPRに特有のものだった場合、日本を含む、各国の原子力開発に大きな影響を与えることは必至だ。
現在、国際社会は急ピッチで脱炭素に舵を切っており、日本の国会も、2050年までに脱炭素社会の実現を目指す「改正地球温暖化対策推進法」を全会一致で可決した。菅政権は脱炭素の切り札として洋上風力発電所の大量建設を掲げており、大半の電源を再生可能エネルギーで賄う方針である。一方で、原発については明確な方針が定まっているとは言えず、現時点では中途半端な状況に置かれている。
原発は原理的に二酸化炭素を排出しないので、再生可能エネと同じ効果を得ることができるが、再稼働には大きな逆風が吹いている。福島第一原発の事故をきっかけとした国民感情について政治的に解決できたとしても、コストという極めて大きな問題がのしかかる。
【次ページ】米国は割高な原発から撤退、日本はどうするのか?
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