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  • 2021/03/30 掲載

4割弱が高齢者、「高蔵寺ニュータウン」が挑む“本気”の交通改革の詳細

連載:MaaS時代の明日の都市

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今、「ニュータウン」の交通問題が顕在化している。高度経済成長時代に若年層が大量に入居したが、その入居者たちがそろって高齢化し、運転免許返納という時期になったことで、足の確保が問題となっているのだ。日本三大ニュータウンの1つである「高蔵寺ニュータウン」は、まさに課題解決に取り組んでいる最中だ。この交通改革を率いる名古屋大学 未来社会創造機構 モビリティ社会研究所の森川 高行教授の解説を交え、実際に現地を訪れた筆者がその取り組みの詳細を報告する。
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高蔵寺ニュータウンのセンター地区にある駐車場には、住民の「生活の足」である車がずらりと並ぶ。だが、住民の高齢化により運転免許返納者が増えている
(写真:筆者撮影)


深刻さ増す「オールドニュータウン」の交通問題

 「オールドニュータウン」という言葉をご存じだろうか。

 多くの方が知っているであろう「ニュータウン」は、高度経済成長時代の1960年代に開発が始まり、1970年代にかけて全国各地に出現した新しい街の形だ。同じ時期に数多く出現した、日本住宅公団(現在のUR都市機構)が建設した団地や、鉄道会社が開発した田園都市なども、似たような内容を持つ。

 ニュータウンのような住宅地は、当時の若いファミリー層が住みはじめ、そのまま暮らし続けているという例が多い。その結果、近年は高齢化が目立つようになっている。しかも、多くの住民がほぼ同時に居住を始めたために、年齢層の広がりがない。つまり、若い人が高齢者を助けるような状況が生まれにくい。そしてこのように老朽化したニュータウンは、「オールドニュータウン」と呼ばれるようになった。

 現在のニュータウンは、高齢化を筆頭にさまざまな問題を抱えており、その1つに交通問題がある。当時の都市計画のトレンドを反映しているので、自動車交通が主役のまちづくりがなされた。住民も多くが自動車に頼る生活を送るようになった。

 しかし高齢化が進み、一部の住民が運転免許証返納という年齢に達したことで、丘陵地域に造成されたがゆえに上下移動が多いことなど、日々の移動に苦労を伴う都市構造であることに気づきつつある。


高齢化率36.2%の「高蔵寺ニュータウン」

 名古屋市の隣、愛知県春日井市にある高蔵寺ニュータウンもその1つである。高蔵寺ニュータウンは日本住宅公団が初めて手掛けたニュータウンで、今から約50年前に入居が始まった。東京都の多摩ニュータウン、大阪府の千里ニュータウンと合わせて三大ニュータウンと呼ばれる。

 最寄り駅はJR東海(東海旅客鉄道)中央本線、愛知環状鉄道が乗り入れる高蔵寺駅だが、多摩や千里のように駅周辺にニュータウンが広がっているわけではない。駅からニュータウン中心部までは約2kmあり、上り坂が続く。

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高蔵寺駅のバスターミナル
(写真:筆者撮影)

 かつては、名古屋鉄道小牧線小牧駅と桃花台ニュータウンを結ぶ、いわゆる新交通システムの桃花台新交通ピーチライナーが、高蔵寺ニュータウンを経由して高蔵寺駅まで伸びる計画があったようだが、2006年にピーチライナーそのものが利用者低迷で廃止された。

 人口は、2005年10月1日は4万6911人、2020年10月1日は人口4万1119人で、微減という状況。注目したいのは高齢化率で、2005年は15.3%だったのに対し、2020年は36.2%となっている。同じ日の春日井市全体の高齢化率は、2005年が16.2%、2020年が25.8%となっており、2005年では市平均を下回っていたのに対し、2020年は大きく上回っている。

持続可能なまちを目指す「リ・ニュータウン計画」

 こうした状況を受け、春日井市とともにニュータウンの交通改革に取り組んでいるのが、名古屋大学 未来社会創造機構 モビリティ社会研究所の森川 高行教授だ。

 春日井市と森川教授のつながりは、市長の主導で2016年に策定された「高蔵寺リ・ニュータウン計画」がきっかけだった。高蔵寺ニュータウンが将来にわたって持続可能なまちであり続けるために、有識者・市民・関係団体代表者などで構成された検討委員会、住民参加のワークショップや意見交換会を踏まえてまとめたものだ。

 そこには交通に関する項目もいくつか記されているが、市役所の中には専門家がいない。そこで同年、伊藤 太市長が森川教授の研究室を訪問し、高蔵寺リ・ニュータウン計画の交通分野担当を依頼した。

「名古屋大学未来社会創造機構では、2013年度からCOI(センター・オブ・イノベーション)を立ち上げ、高齢者が元気になるモビリティ社会の実現を目指してきました。高蔵寺リ・ニュータウン計画はこのビジョンに当てはまると思い、春日井市に参画メンバーに入っていただき、共同研究契約を結び、2017年度から取り組みを始めました」(森川教授)

【次ページ】坂が多い地形、運転免許返納者の増加……ラストマイル問題をどうするか
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