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コロナ禍は、今まで日本が経験してきた社会問題とは大きく異なっている。また、政府/政治から社会まで新しい問題、構造的問題が複雑に絡み合って生じており、人々は感染の不安をはじめ、不安が不安を呼ぶ状況の中で日々生きている。東京工業大学 准教授の西田 亮介氏が、メディアと政治を中心にコロナ危機において明らかになった社会問題について切り込んだ。
本記事は2021年1月22日開催「第44回都市計画セミナー」(主催:公益社団法人日本都市計画学会)の講演を基に再構成したものです。
コロナ禍が持つ社会問題としての「3つの新規性」
発生が世界に知られて1年が過ぎた今もなお、猛威を振るい続けている新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)。「このコロナ禍には社会問題として3つの新規性がある」。西田 亮介氏は国内外の感染拡大状況を示しながら、そう切り出した。
1つ目は「有事としての新規性」である。日本は幾度となく自然災害に遭い、そのたびに立ち直ることを繰り返してきた。
一般的に、自然災害からの復興は線形に進む。発災当時は悲惨な状況に陥るが、さまざまな資源が投入され、復興政策が展開され、状況は一路復旧に向かっていくものだ。復興政策そのものも、被災経験が豊富な日本は他国と比べると充実していると評されている。
しかし、今回のコロナ禍に関してはまったく線形に進んでいない。第1波より第2波、第2波より第3波とかえって状況はより深刻になっている。人々にいつ終わるかわからない不安、社会経済に多大な影響をもたらしているという観点で、他には見られない社会問題だと西田氏は語る。政府は“大胆な前代未聞の政策”を多数打ち出しているが、よくよく精査すれば公平性や公正性に関して問題が見受けられると同氏は指摘する。
2つ目は「示されない対処方針」だ。新型コロナの対処方針は、新型インフルエンザ特措法の更新によって示すとされた。しかし、実際には長期間更新が停止された状態だった。2021年に入って2度目の緊急事態宣言に合わせて更新されたが、十分周知されていない状況にある。
3つ目は、「リスク/クライシスコミュニケーションの失敗」だと西田氏は指摘する。どのような大局観を持ってこのコロナ禍に対処しているか、現状認識としてどのように問題を捉えているかを、政府が国民に明確に伝えられていなかった。このために政治・行政に対する不信を招いている点が、社会問題としての新規性の最後のポイントだ。
「コロナに起因する不安と、そこから派生したさまざまな不安や不信。専門家はこれらを分けて考えるべきだというかもしれません。しかし、同じ統治機構がいくつもの問題を起こしているときに、生活者がそれらをはっきり区別して判断することは困難です。今の日本は、COVID-19への感染に対する不安に、そこから派生的に生じた不安もあって、不安が不安を呼ぶ状況になっています」(西田氏)
11カ国中「コロナで政府・企業の信頼低下」は日本のみ
日本政府の対応も、初動は比較的よかったのだ。WHOや他国からも評価され、西田氏も
「この段階では『なぜそのようなアプローチを取っているか』が合理的に理解することができた」と認める。
しかし、メディアや社会はそのようには受け取らなかった。
「第1波のときから現在に至るまで、政府の対応に対する生活者の不信感は各種世論調査を見ても高止まりしたままです。一般的に、危機的状況に陥ると政治への求心力が高まる“旗下集結効果”が生じるといわれているのに、今日本で起こっているのは政治不信と分断です」(西田氏)
西田氏は、PR会社のエデルマン・ジャパンの調査結果に触れた。その調査では、調査対象国の11カ国中、日本だけが政府・企業に対する信頼度が低下したという結果が出た。世界的にみても珍しい状況と評されている。西田氏は次のように続ける。
「この背景には、最長政権であった前政権の失墜、選挙戦略、コロナ対策に関連して乱発された政治スキャンダルなどがあり、コロナ危機のさなかにあって“彼らは甘い汁を吸っている”といった被害者意識を生活者の中に形成された。そのことが政治不信、分断につながっていったのではないでしょうか」(西田氏)
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