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これまでICTと連携していなかった産業が続々とICTを活用し、あらゆる分野で自動化・効率化が進んでいるが、政府機関も例外ではない。近年、多くの政府機関は情報のデジタル化を促進させ、スマートガバメントの実現に向けた政策を展開している。今回はスマートガバメントの現状や特徴を、フロスト&サリバン ジャパン成長戦略シニアマネージャーの伊藤祐氏が解説。テクノロジーや米国・韓国の事例の観点からわかりやすく読み解く。
スマートガバメントとは何か
「スマートガバメント」は「従来型政府」と、その次の段階である「デジタルガバメント」の後に形成される政府の在り方だ。そこで、まずは「従来型政府」と「デジタルガバメント」を説明する。
「従来型政府」とは、トップダウンで政策を決め、市民の声が反映されづらい政府だ。従来型政府は、市民のための最低限の仕組みを整えはするものの、積極的なデジタル化や、政治への市民参加を促すための取り組みはほとんどしない。
とはいえ、「市民からの声を政策に反映している」というアピールを内外にすることは必要なので、政府主導のアンケートや聞き取り調査などによる世論収集が行われることが多い。
一方で、従来型政府の行政実務では、テクノロジーによる自動化やデータ収集などが未発達であるため、非効率でミスが多発し、人件費がかさむ傾向にある。
こうした従来型政府から一歩進んだ形の政府が「デジタルガバメント」だ。
デジタルガバメントは基本的なICTを活用し、行政の電子化や自動化を実施する。テクノロジーを用いて利便性や市民の満足度向上を目指しているところが、従来型政府との大きな違いである。ただし「市民参加」という面では従来型政府との違いはあまりなく、引き続き市民参加を促す努力は必要となる。
これらに対して「スマートガバメント」は、ICTの積極的導入により、利便性を向上させ、コストを削減し、さらに活発な市民参加を促す政府を指す。一部分の効率化を目指すだけではなく、分野や地方行政を横断して情報を集積・分析し、それに基づいてさまざまな施策を打ち出す。その施策の種類は多岐におよぶが、どのような場合でも「市民のため」というモチベーションがそのベースとなっている。これらの対応に関する政府の支出は年々増えており、2020年には全世界で8,000億ドルもの予算が使われるとされている。
スマートガバメントは各ステークホルダーにさまざまな利益をもたらすと期待されている。
たとえば、政府側は行政データや情報をオープンソース化することで、市民の政府に対する信頼度が高められる。また、民間企業・団体とのコミュニケーションを図ることで、市民の共感が得られるような政策の立案や実行が可能になる。 さらに、SNSを含むネット上の情報をより正確に分類・分析することを可能にし、政府は素早く世論の動向が把握できるといった具合だ。
一方、市民側は、情報の透明性やアクセシビリティの向上により、行政の活動を具体的に把握できる。また、市民側の声を行政活動に反映することも可能になる。
企業側も、政府が実施した調査内容を共有することで、自社のリサーチコストが削減できたり、新たなビジネス参入機会を見つけたりできる。さらに、政府が実施するプロジェクトに協力することで、新たな技術革新の進歩も期待できる。
スマートガバメント実現を支える「三種のテクノロジー」
スマートガバメント関連で活用されている代表的なテクノロジーは、他の業界でのデジタルトランスフォーメーションでもよく言及される「ビッグデータ」「クラウド」「AI(人工知能)」である。
これら「三種のテクノロジー」がスマートガバメントに果たす役割は以下の通り。
ビッグデータ:
年々、急増しているオンライン上の情報を収集し、国内外の情報や世論の変化などに素早く対応するために、ビッグデータの収集および分析テクノロジーが活用されている。国内外から集めたさまざまなデータを通して、市町村レベルの活動の改善や、国家全体としての方針策定への活用が試みられている。
クラウド:
データを活用した政策決定や改善が増えるにつれ、オンプレミスでのデータ保存や活用はコストに見合わなくなった。また、柔軟性にも欠けるため、クラウドソリューションを利用する国が増加している。
AI:
人件費を削減しつつ、質の高い行政サービスを展開するために、AIによる行政業務が徐々に実用化されてきている。定型化された作業については無人化を進め、テクノロジーによるコスト減を目指す。
【次ページ】海外から学ぶスマートガバメントの現状
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