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毎年1月、ラスベガスで開催される米国家電ショー、CES(International Consumer Electronics Show)は、数年ほど前からテレマティクスや自動運転など、自動車エレクトロニクスショーの様相を呈している。AIや自動運転など、今後の自動車市場のキーとなる技術をCESでお披露目するメーカーも増えており、今やその直後に開催されるデトロイトモーターショーより注目する業界関係者もいるほどだ。本日より都内でオートモーティブワールドが開催されるのに合わせて、改めて2017年のCESを総括してみたい。
CESの転機はマイクロソフトの撤退
2017年のCESは1月5日から8日までの日程で開催された。場所は毎年同じラスベガスコンベンションセンター。2012年までは、マイクロソフトが基調講演を担当し、その年に発表されるWindowsやOfficeツールの新バージョンや戦略をチェックするのがIT業界の年始の恒例行事だった。
マイクロソフトが去った2013年から2014年の基調講演は、パナソニック、サムスンン、ソニー、米ヤフーなどIT系企業のCEOらが担当したが、2015年にはフォードやダイムラーが基調講演に登壇した。2016年はフォルクスワーゲン、2017年はGMのCEOが「パーソナルモビリティを再定義する」と基調講演で語った。
もともとグーグルやアマゾンのようなメガプラットフォーマーは、デバイスやプロダクトに寄ったCESには参加していない。ものづくりをしているアップルは独自の製品ロードマップに基づいたカンファレンスやプライベートイベントにフォーカスしており、CESには力を入れていなかった。そのため、マイクロソフトが撤退したときは、CESの衰退を危惧する声さえあがった。
しかし、マイクロソフトと入れ替わるように注目を集め、出展ブースを広げていったのは自動車メーカーやサプライヤーだ。以前からカーナビメーカーやカーオーディオメーカーは出展していたが、いわゆる家電やスマートフォン、PC、デジタル機器の展示ホールとは別にオートモーティブ部門のホールにまとめられていた。
自動車メーカーは、独自にテレマティクスやADAS(高度安全運転支援システム)、コネクテッドカーの研究開発を進めていたが、主にIVI(In-Vehicle Infotainment)システムにおいて、アップルやグーグルとアライアンスを組む動きが活発化すると、CESで自動車メーカーとIT企業のアライアンスの発表、EVやコネクテッドカーのコンセプトモデルの発表が行われるようになった。
この動きは2014年ごろから活発化するようになり、現在に至る。
日産自動車:独自のパートナー戦略を展開
では、2017年のCESはどうだったのだろうか。特徴的なトピックスを整理してみたい。
今年の基調講演では、日産自動車のカルロス・ゴーンCEOも発表を行っている。主な発表内容は、SAM(シームレス オートノマス モビリティ)という自動運転技術、DeNAとの提携よる自動運転モビリティサービスの実証実験、電気自動車「リーフ」にプロパイロット搭載および航続距離の延長、IVIまたは車載端末にマイクロソフトのAIアシスタント「コルタナ」搭載の示唆だ。
日産の自動運転技術は、2016年に発表したセレナのプロパイロットが有名だが、これはモービルアイ社のAIカメラモジュールに、自社のADASのECUを組み合わせたもので、機能は高速道路における単一車線の自動走行支援だ。
設定速度でレーンキープ、前走車の追従、渋滞の自動停止・自動発進を実現している。これとは別に独自の自動運転の研究開発はカリフォルニア、横浜を拠点に進められている。NASAの技術をベースにしているというSAMは、プロパイロットより進んだレベル4を目指すもので、カリフォルニアでは一般道や高速道路での走行実験を繰り返している。
また日産とDeNAとの提携が、年明けに日本でも報道された。DeNAは2016年にZMPと提携し、ロボットタクシー、無人バスの走行実験を行っていた。自動運転カーはZMPが開発を担当し、DeNAはモビリティサービスのプラットフォームを構築するというスキームでプロジェクトは進んでいた。しかし、CESでの基調講演の発表に合わせて、DeNAはZMPとの提携を解消し、日産とのアライアンスでプロジェクトを続けると発表した。なお、ZMPは昨年、上場に失敗している。提携解消への影響は不明だが、DeNAは理由ついて「ZMPとの方向性の違い」と述べている。
ゴーンCEOは、過去に新車販売にマイナスとなるシェアリングエコノミーに否定的なコメントを発しているが、年頭のインタビューでは「備えが必要だ」と発言している。タクシーやバスはその対象ということだろう。
日産はNV-200というニューヨーク州のイエローキャブに採用されたワゴン型EVを持っている。タクシー業界と自動運転・シェアリングエコノミーの相性は決してよくないが、いくつかのシナリオを念頭に「備え」としてDeNAと提携したものと思われる。
トヨタ:AIアシスタントが特徴のトヨタコンセプトカー
トヨタは、AIを搭載した「Concept-愛i(コンセプトアイ)」の展示が注目を集めた。AIによって自動運転が可能で、音声認識に対応したアシスタントと会話もできる。AIとの対話で車を制御することができるが、車内カメラによりドライバーの表情を読み取り、より自然な会話や運転支援、安全支援が得られるというものだ。
デモでは、テレビドラマ「ナイトライダー」のナイト2000のように車と会話したりなかなかのユーザー体験ができるようだが、現状のAI技術ではデモ機能の実現は若干時間がかかりそうだ。あくまでエキシビジョンのコンセプトモデルとみるべきだろう。
フォード・トヨタ他のSDL陣営が旗揚げ
戦略面での発表は、SDL(スマートデバイスリンク)でフォードとグローバルなコンソーシアム設立があった。業界としてはこちらのほうがインパクトがありそうだ。
SDLはフォードの子会社が開発した、車載用情報端末のための共通プラットフォームだ。AGL(Automotive Grade Linux)をベースとしたオープンソースのシステムだ。
2015年からSDL採用について検討を行っていたトヨタは、昨年11月に「コネクティッドカンパニー」を設立し、カーシェア、保険、ビッグデータプラットフォーム(Toyota Connected:Azureベース)、SDLベースの車載器プラットフォームの採用などを発表している。
CESでの発表は、この延長で正式にフォードとSDLコンソーシアムを結成し、グローバルに車載端末のスタンダードを目指すものとなる。すでに富士重工業、マツダ、スズキ、PSAグループなどが参加している。パナソニック、パイオニアも覚書にサインしたというので、カーエレクトロニクスサプライヤーにも広がろうとしている。
カーナビやIVIについては、グーグルのAndroid AutoやアップルのCarPlayが先行しているが、採用している自動車メーカーは、IVIなどエンターテインメント機能に寄せており、本格的なコネクテッドカーの端末やプラットフォームまでは採用が進んでいない。SDLはトヨタ他がコンソーシアムを作ることで、フォードのローカルプラットフォームから、自動車業界のコネクテッドカープラットフォームになる可能性がある。
アウディ、テスラ、ボッシュ:NVIDIAを採用
他のメーカーやサプライヤー、シリコンベンダーの状況を見てみよう。
アウディはNVIDIAの自動運転用AIプラットフォーム(DRIVE PX 2)を採用するという。発表はNVIDIA側から行われたが、同時にZF、ボッシュが同じプラットフォームを採用することも公表された。DRIVE PX 2は、すでにVOLVO Cars、テスラモーターズなども採用しており、2017年はその勢力がさらに拡大した格好だ。
ボッシュは、以前から自社で半導体チップの設計・製造を行っており、自社製ASICをメインにADASモジュールに組み込んでいた。自動運転のAIとなるとディープラーニングモデルの高速な処理が必要になるため、先行するNVIDIAのGPU技術を取り入れるという戦略なのだろう。
BMW:モービルアイとインテルでコネクテッドカーを開発
BMWはインテル、モービルアイと共同で40台の自動運転車の走行実験を開始すると発表している。
このうちインテルは「Intel GO」というコネクテッドカーによる自動運転プラットフォームを提唱している。Atom、XeonベースのSoCに、インテルのもう一つの強みであるワイヤレステクノロジーによる5G通信モジュールも組込んでいるのが特徴だ。
モービルアイは画像処理と画像認識AIに特化したイスラエルの注目企業だ。もともとは巡航ミサイルのカメラ、画像処理を得意とする企業だが、近年は自動車メーカーとのアライアンスが活発だ。日産セレナのプロパイロットはモービルアイのAIモジュールを使っている。
BMWは、会場のコンセプトカーではマイクロソフトのコルタナを利用したデモも行っていた。
【次ページ】クアルコムはNXP買収で自動運転市場で巻き返しを図る
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