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  • 2022/12/05 掲載

コグニティブコンピューティングとは?「AIとの違い」をスッキリ解説

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アイ・ビー・エムやマイクロソフトなどのサービスを利用する中で「コグニティブコンピューティング」という言葉を目にしたことはないでしょうか。調べてみると、「知的なプログラム技術」といったように、AI(人工知能)との違いがはっきりしない解説記事ばかり出てきます。そこで本記事では、混同されてしまいがちなAI(人工知能)との違いを整理しつつ、そもそもコグニティブコンピューティングとはどのような技術なのか、どのような目的で活用される技術なのかを解説します。
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コグニティブコンピューティングとは?

コグニティブコンピューティングとは

 コグニティブコンピューティング(CC:Cognitive Computing)という言葉は、いくつかの意味合いで使われることがあります。

 1つ目の定義では、コグニティブコンピューティングとは学術的・方法論な意味合いとして「自律的な推論と知覚によって脳のメカニズムを模倣した計算知能を実装するシステムと方法論」を指します。あくまで技術の中身に焦点を当てた概念として比較的広い意味を持ち、AI(人工知能)やニューラルネットワークなどの技術も広く含んだ言葉として使われることがあります。

 それとは別の定義では、マーケティングツールやITサービスとして「人間の意思決定を支援する人間とのコミュニケーションに特化した知的システム」を指します。技術の用途や目的に合わせた意味合いでの使われ方です。

 2つ目の定義の場合は、本来、「認知」「認識」という意味を持つ「コグニティブ(Cognitive)」を「人間が行う認知的タスク」という意味で捉え、人間の認知的タスクを支援する技術として「コグニティブコンピューティング」という言葉を使っています。

 前者の定義に比べてやや狭い意味を持ち、アイ・ビー・エムやマイクロソフトなどのIT企業では、AIとは区別する形で後者の意味合いで使われていることが多いようです。

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コグニティブコンピューティングの学術的な位置付け

 このように、いくつかの意味合いを持つ言葉として使われるコグニティブコンピューティングですが、なぜ定義がいくつもあり、はっきりとしていないのでしょうか。その理由は、コグニティブコンピューティングの学術的な位置付けを理解すると分かります。

 そもそもコグニティブというのは「認知」「認識」を表す言葉で、人間が物事を知覚し、理解し、判断する脳内の知的活動のことを指し、そうした人間の認知領域のメカニズムについて研究する学問を「認知科学」と呼びます。その認知科学の研究分野の中には心理学や言語学、さらには混同されがちない人工知能研究など、あらゆる分野が含まれているのです。

 この認知科学の中におけるそれぞれの技術の立ち位置を整理すると、下記のように表すことができます。

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「認知科学」における各技術の位置付け(イメージ)
(出典:筆者作成)

 こちらの図で、それぞれの技術の位置付けを大まかに掴めるはずですが、これはあくまでイメージ図です。実際の領域はもう少し複雑であり、特にAIやコグニティブコンピューティングという言葉は技術的に明確に定義されているわけではないので、文脈によって別の意味で使用されるなど、かなり曖昧な部分があります。

 何しろ、AIにおける「知能が何か」という部分について、人間の中でもそもそも定義が決まっていません。知能の中に「認知」というものが多かれ少なかれ含まれていることはたしかですが、「認知」の部分だけで「知能」と呼べるのか、「認知」はあくまで「知能に関わる領域」の1つにすぎないのか、そのあたりも研究が行われている最中です。

 こうした背景があることから、AIやコグニティブコンピューティングの境界線を綺麗に定めることはできません。だからこそ、冒頭で解説した通り、立場や見方によってコグニティブコンピューティングが持つ意味が変わるのです。

コグニティブコンピューティングとAIの違い

 文脈によって微妙に異なる意味を持つ「コグニティブコンピューティング」ですが、それ以上に広い意味で使われ、意味が変遷するのが「AI」です。どちらの技術も人間の知的活動を模倣・再現するためのアプローチを含んでおり、知的なプログラムを実行するソフトウェアやシステムという側面を持っています。

 AIという言葉の方が認知度は高く広く使われていることから、あえて「コグニティブコンピューティング」という言葉が使われる場合には、目的や用途を使い分ける「認知的なタスクの支援技術」という意味が強くなります。

 AIにも支援ツールとしての側面はありますが、AIの場合は人間の手を離れた独立性・自律性の高い技術という側面も強いです。しかし、自律性の高い技術は懸念点も多く、用途や目的が誤解される恐れもあるため、誤解を避ける意味でも「コグニティブコンピューティング」という言葉が使われるのです。

 さらに、AIを厳密に定義した上で、AIは「再現(Simulate)する技術」でコグニティブコンピューティングは「模倣(Mimic)する技術」と区別する場合もあります。この違いは人間と同じ知的活動を目指すAIの「再現」に比べて、似ていれば十分と考える「模倣」という点で大きな違いがあります。

 この考え方は、人間と同じレベルの知能を備えた「強いAI」と、見かけ上は知能があるように振る舞うことができる「弱いAI」の議論に似ています。

 AI領域では、強いAIを含めて技術を考えますが、コグニティブコンピューティングの領域では「弱いAI」のレベルで十分だと考えるわけです。

 こうした解釈からも「独立した知性を持つAI」と「知性により人間を支援するコグニティブコンピューティング」といった、両者のニュアンスの違いが見えてくるのではないでしょうか。その上で、ここからはより具体的なコグニティブコンピューティングの形について考えていきます。


認知的タスクを実行する「コグニティブシステム」

 コグニティブシステムというのは、認知的なタスクを実行するためのシステムのことです。具体的には「知覚情報に対して知的処理を施し、行動に変える」ためのシステムで、このシステムの構成自体は一般的な入出力装置とそれほど大きくは変わりません。もっと言えば、人間の知的活動に似ています。人間も五感で知覚した情報をベースに脳が判断・解釈を行い、それに対して行動を決定するという入出力装置の側面を持っています。

 人間やコグニティブシステムが一般的なコンピュータとは違うのは、扱える知覚情報が構造化されていないデータを含み幅広い点、それに対して認知・認識に関わる高度な知的処理を行うという点にあります。

画像
コグニティブシステムの構成イメージ
(出典:筆者作成)

 また、AIと違うのは個々の技術要素にディープラーニングのような先進的な技術が含まれていなかったとしても、システム全体で非構造化データなどの幅広い情報の処理が行えていればコグニティブシステムと言える点です。

 その一方で、知覚・行動・コミュニケーションのプロセスを伴わない単純なBOTのような場合は逆にコグニティブシステムとは呼びません。それは知覚や情報解釈を伴わないタスクを「認知」と呼べるかどうか微妙だからです。

 AIと呼ぶ場合、そのシステムの中で一定レベルの高度な知的技術の利用が期待されており、コミュニケーションを伴わないBOTであっても知的技術が使われていればAIとして扱われます。しかし、コグニティブシステムではあまりそういうことがありません。

 たとえば、蓄積されたデータベースを元に高度な論文を生成し続けるAIというのは十分にあり得ますが、人間や環境とのインタラクションを伴わない場合、知的なシステムだったとしても、それはコグニティブシステムとは呼ばないということです。

「IBM Watson」はコグニティブシステムか?AIか?

 コグニティブシステムは基本的に人間や環境とのインタラクションを前提としているため、言語・音声・映像といった非言語データをリアルタイムに近いスピードで扱えるのが特徴です。そして、そのデータ処理の手法が厳密な意味で「AI的」である必要はありません。

 たとえば、マニュアルに従って入出力をしているだけのプログラムに「認知能力があるか」と言われると答えに困りますが、それが人間の「認知能力を模倣しているか」と言えば答えはYESです。つまり、AIではなかったとしてもコグニティブシステムではあるということです。

 代表的なコグニティブシステムとして知られるアイ・ビー・エムのWatsonは極めて高度な自然言語処理能力を持ちながらも、初期の段階ではディープラーニングなどの先進技術を使っていませんでした。基本的なルールベースのプログラムと膨大なデータベースに対し、高性能なPOWERプロセッサを使って力技で認知的タスクを解決していました。

 これに対して「厳密な意味でWatsonはAIか」と問われると「AIではない」と回答する人もいたかもしれません。しかし、コグニティブシステムであることはたしかなので、アイ・ビー・エムはWatsonを「AI」とは呼ばずに「コグニティブシステム」と呼んでいました。また、Watsonは人間とのインタラクションを伴うタスクに特化しており、自律的にあらゆるタスクをやってくれるというシステムではありません。そういう意味でもWatsonは典型的なコグニティブシステムだったと言えるでしょう。

 ここからは、そんなコグニティブコンピューティングの市場規模や事例を解説していきます。

【次ページ】コグニティブコンピューティング市場規模
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