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カーボンニュートラルに向けた世界的な潮流において、自動車のEV(Electric Vehicle:電気自動車)化などの取り組みが加速しています。こうした中、ドイツでは自動車産業の競争力強化やCO2削減などを目的に、自動車のバリューチェーン全体でデータを共有するためのアライアンス「Catena-X(カテナ-X)」が設立されました。大手自動車メーカーや関連する企業が参加可能で、統一されたデータ交換の標準を構築する取り組みが始まっています。今回は、このCatena-Xを取り上げます。
カーボンニュートラル時代、「世界の自動車メーカー」の決断
欧州連合(EU)の欧州委員会は2021年7月に、温暖化ガスの大幅削減に向けた包括案を公表しました。この中でEUはHV(Hybrid Vehicle:ハイブリッド車)を含むガソリン車など内燃機関車の新車販売を2035年に事実上禁止する方針を打ち出しました。
それと合わせて、環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける「国境炭素調整措置(CBAM:Carbon Border Adjustment Mechanism)」を2023年にも暫定導入する計画を発表しています。
それを受け、世界の自動車メーカー各社も取り組みを加速化しています。
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カーボンニュートラル時代、「国内自動車メーカー」の決断
こういった中で、日本でもEV化へのシフトが、大きな局面を迎えています。2020年12月に「2030年代半ばを目途にガソリン車を禁止する方向で日本政府が最終調整」というニュースが流れ、同月に小池東京知事も「2030年にガソリン車を禁止する方針」を打ち出したほか、経済産業省は2020年3月に「モビリティの構造変化と2030年以降に向けた自動車政策の方向性に関する検討会」を開始しています。
2021年12月にはトヨタ自動車が欧州で販売する自動車をゼロエミッション車に限定する準備を2035年までに整える方針を示しており、今後販売するすべての車をEVやFCV(Fuel Cell Vehicle:燃料電池車)に切り替えることを目指すと思われます。
日産自動車も2021年11月に、2030年度までに世界で販売する新車のうち、EVとHVを合わせた電動車の比率を5割に引き上げることと、2026年度までの5年間でEVの新型車の開発などに2兆円を投資することを発表しています。
トヨタ自動車も日産自動車も投資を電動化に集中することで、先行する米テスラなどに対抗する思惑があると考えられます。
Catena-X(カテナ-X)設立の目的
カーボンニュートラルに向けてEV化の動きが加速する中、ドイツのBMWグループとメルセデス・ベンツは2021年3月に、自動車業界において安全な企業間データ交換を目指すアライアンスである、「Catena-X(Catena-X Automotive Network:カテナエックス自動車ネットワーク)」を設立したことを発表しました。
Catena-Xは、ドイツの自動車メーカーだけでなく、そのほかの関連する企業も参加可能な実践志向のネットワークです。自動車産業のサプライチェーンにおける拡張性の高いエコシステムを作り、オープン性・中立性を確保しながら標準化されたデータにアクセスできるようにすることで、自動車のバリューチェーン全体で効率化、最適化、競争力の強化、持続可能なCO2排出量削減などを実現することを目標としています。
Catena-Xの成功にとって中小企業(SME)の積極的な参加が重要であるとの考えの元、SME向けのソリューションを備えたオープンネットワークが構想されており、SMEはわずかなIT投資で参加できるとされます。
また、欧州の自動車業界における既存のバリューチェーンが企業間ネットワークにつながることで、参加企業は、品質管理プロセスや物流プロセスの効率向上、CO2排出量削減、マスターデータ管理の簡素化などが実現されると言います。データをつなぐことによって、自動車のバリューチェーンのデジタルツインを構築し、これに基づいて革新的なビジネスプロセスとサービスを開発することができるとしています。
また、欧州のクラウドデータ基盤である
GAIA-Xの基礎も構築しているInternational Data Spaces(IDS)のデータ主権に関する標準に基づき、プロジェクト実施に向けた重要なインフラ基盤について参加企業がすでに合意していると言います。
Catena-Xの参加企業
Catena-Xには、自動車メーカー、自動車部品メーカー、自動車ディーラーなどの自動車産業だけでなく、アプリケーションベンダーやプラットフォームベンダー、通信・ITベンダー、インフラベンダー、研究開発機関、SMEなどさまざまなプレイヤーが参加しています。
■Catena-Xに参加している主な企業
自動車メーカー |
BMWグループ、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン(VW)…など |
自動車部品メーカー |
ボッシュ、シェフラー、ZF…など |
プラットフォーム、アプリケーション、通信、IT |
ドイツテレコム、SAP、マイクロソフト、BigchainDB、Fetch.ai…など |
化学、素材 |
BASF、ヘンケル…など |
産業用機械 |
シーメンス、DMG森精機…など |
研究機関 |
ARENA2036、ドイツ航空宇宙センター(DLR)、フラウンホーファー研究機構…など |
中堅中小企業(SME) |
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特に、アプリケーションベンダーやプラットフォームベンダー、通信・ITベンダーの参画が目立ちます。この背景には、Catena-Xが自動車産業の効率化だけでなく、カーボンニュートラルなど地球環境に配慮しながら安全なインテリジェントドライブシステムを実現することを目指しており、それには、通信・ITが重要な役割を果たすという思惑があるのではないかと思われます。
Catena-Xは、どんな領域に、どんなメリットをもたらすか?
Catena-Xは、自動車産業のサプライチェーン間でデータを交換・共有するためのプラットフォームを目指しています。情報やデータ交換の仕組みを標準化することで、ドイツの自動車産業の競争力を強化し、企業間協力の効率性を高め、企業間プロセスを加速していこうとしています。
バリューチェーン全体でデータを共有し、業界標準の構築と効率化を目指すCatena-Xが最初に注力するのは、品質管理、ロジスティクス、メンテナンス、サプライチェーン管理、持続可能性の5つの柱です。
自動車産業においては、とりわけ持続可能な環境への取り組みが重要な課題となっています。年々厳格化する世界の環境規制への対応に迫られ、欧米や日本の自動車産業がEV化をはじめ事業構造転換に向けて本格的に動き始めており、地球環境問題に対する取り組みを加速させなければ、自動車産業の存続が困難となるからです。
【次ページ】自動車業界のバリューチェーン全体で「データ共有」が加速するワケ
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