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2021年のノーベル物理学賞に、気象学者で米国人の真鍋淑郎氏が選ばれたことが大きな話題となっている。真鍋氏の受賞はいろいろな意味で、日本という国のあり方について問いかけるものだった。真鍋氏の受賞から日本人は何を学べるだろうか。
気象学の分野が受賞対象となった意味とは
今年のノーベル物理学賞は極めて大きな驚きを持って迎えられた。事前の予想を大きく裏切り、米プリンストン大学上席研究員で気象学者の真鍋淑郎氏が受賞した。これまでノーベル物理学賞は純粋な物理学の分野から選ばれることがほとんどだった。近年は青色発光ダイオードやリチウムイオン電池など物性の基礎理論を確立した研究者にも授与されており、工学的な要素も取り入れられているものの、物理学の範疇に入る研究業績が基本だった。
今回の受賞分野は気象学であり、物理学の分野以外では初めてのことである。気象学といっても真鍋氏の専門分野はコンピューターを使ったシミュレーションであり、計算科学に近い分野とも言えるが、少なくとも以前はノーベル賞の対象になる研究とは認識されていなかった。
新しい分野の業績に対して受賞が決まったのは、真鍋氏の学術業績が極めて高く評価されたからに他ならない。だが、ノーベル賞が特別な存在であることからも分かるように、政治的な意味合いも多分に含まれている。
受賞を発表したノーベル財団の記者会見では「今回の(気象学)の受賞は、世界の指導者に気候変動の深刻さを伝えるメッセージなのか」という質問に対して、選考委員から「いまだにメッセージを受け取っていないリーダーがいるのなら、今回も耳を貸さないでしょう」「気候モデリングが物理理論に基づいた事実であるということが私たちのメッセージです」という明確な説明があった。
選考委員によるこの発言はかなり踏み込んだものであり、事実上の政治的なメッセージであると判断して良い。しかも「いまだにメッセージを受け取っていないリーダーがいるのなら、今回も耳を貸さないでしょう」というかなり厳しい指摘も行っている。メッセージを受け取っていないリーダーが誰なのかは想像するしかないが、私たち日本人にとって耳の痛い話であることは言うまでもない。
日本の社会環境が独創的な研究の邪魔をする
分野が新しかったことに加え、真鍋氏が日系アメリカ人だったことも世間を驚かせた。米国には多くの日系アメリカ人が住んでいるが、ほとんどは二世や三世で親や祖父母が米国に渡った人たちの子孫である。真鍋氏は日本で生まれ、日本の大学を卒業した後に渡米し、わざわざ米国籍を取得している。
米国に渡る日本人研究者は少なくないが、学術分野でそれなりの実績があれば永住権(いわゆるグリーンカード)を比較的容易に取得できるので、研究生活を送る上での不便はほとんどない。それにもかかわらず米国籍まで取得したという現実を考えると、米国に骨を埋めたいという強い思いがあったと推察される。
米国籍を取得した理由について問われた真鍋氏は、日本の社会環境が研究成果にマイナスになるという現実について、冗談を交えながらも鋭く指摘した。
真鍋氏は会見で「日本では人々はいつも他人を邪魔しないようお互いに気遣っています」「日本で『はい』『いいえ』と答える形の質問があるとき、『はい』は必ずしも『はい』を意味しません。『いいえ』の可能性もあります」とし、日本における同調圧力について違和感を示した。
さらに「アメリカでは自分のしたいようにできます。他人がどう感じるかも気にする必要がありません」「アメリカでの生活は素晴らしいです。アメリカでは自分の研究のために好きなこと(中略)ができます」と述べ、米国籍を取得した理由について明確に説明した。
1997年には一度、日本に帰国し研究職に就いているが、結局は米国に戻り、米国での活動を続けている。日本の法律では二重国籍は認められないので、米国籍を取得すれば自動的に日本の国籍は失ってしまう。真鍋氏は日本で生まれ育った日本人であり、国籍の変更にはかなりの決断を要するはずだ。それでも真鍋氏は良好な研究環境を求めて国籍を変えた。
真鍋氏の行動について、研究者というのは独創性が必要な仕事なので特殊だという意見もあるが、そうではない。近年、日本の閉鎖的な社会慣習が学術研究はもとより、新しいビジネスの創出など経済面においてもマイナスになっているとの指摘は多い。こうした指摘に対しては「日本には独自の文化がある」といった反論が寄せられるが筆者はそうは思わない。
日本の文化というのはもっと柔軟なものであり、飛鳥時代から常に外国の良い習慣や技術を取り入れて独自の文化に昇華させてきたという歴史がある。明らかに日本にとってプラスとなる海外の習慣を取り入れないのは、むしろ本来の日本文化に反する行為といって良いだろう。
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