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  • 2021/06/10 掲載

コロナで加速する市場消滅、仕事を失ったら…あなたは「キャリアシフト」できるか?

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新型コロナの影響は、市場変化の速度を速める傾向にあり、その結果、市場自体が消滅し、キャリアシフトを余儀なくされてしまうケースも見られる。しかし、長年、特定の業務でスキルを磨いてきた方にとって、市場消滅は今まで培ってきたスキルの陳腐化につながるケースも多い。こうした時代を生き抜くためにも、今まさにキャリア形成の在り方が問われている。
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コロナショックにより危機的状況に追い込まれている業界は多い。とはいえ、他の業界への転職は簡単なことではない…どうすべきか?
(Photo/Getty Images)

コロナにより失われた職場

 コロナにより打撃を受けた業界は数知れないが、その1つに交通業界が挙げられる。JR東日本は2020年度の業績を、売上1兆1,841億円、営業利益は4,785億円の赤字と発表した(2019年度は売上2兆610億円、営業利益2,940億円の黒字)。これはテレワークやステイホームの影響により、人々が移動を控えた結果であるが、交通機関という装置産業が売上低下に弱い構造を浮き彫りにした。

 同様に、ANAは2021年3月期の売上を7,286億円、営業利益を4,647億円の赤字としており、航空業界も厳しい状況の直面していることが分かる(2020年3月期は売上1兆9,742億円、営業利益608億円の黒字)。

 そこで航空業界では、正社員を外部へ出向させるという取り組みに着手している。ANAは客室乗務員らを中心に、地方自治体や小売業など約200社に出向することで、人件費の削減(出向先が給与を支払う)を狙っており、これはコロナが終われば航空需要の回復が見込まれるため、社員をつなぎとめる意図も含まれている。

 これらのようにコロナの終息により、将来、市場の復活が期待される業界は、それまで耐えることになるが、市場消滅により今後も回復が見込まれない業界は、どう対処すれば良いのだろうか。

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ANAは客室乗務員らを中心に、社員を地方自治体や小売業など約200社に出向させ、この状況をしのいでいる。一方、将来回復が見込まれない業界は、この状況にどう対処すべきだろうか?社員を守る方法はあるのだろうか?
(写真:Aviation Wire/アフロ)

キャリアシフトを阻む3つの問題

 市場消滅に向き合った過去の事例から、学べることはないだろうか。

 近年、人気の観光地となっている軍艦島(正式名称は端島)は、元々炭鉱施設であり、最盛期には3交代24時間体制で採掘がされており、5000人を超える人口を擁していた(人口密度は東京の約18倍にも及ぶ)。天然資源が乏しい日本において、石炭産業はエネルギー政策の中心に位置付けられ、戦後も採掘が続けられた。

 しかし時代は変わり、エネルギー政策の構造転換により、軍艦島を含む石炭産業は衰退を迎える。各地で炭鉱は閉山を迎え、昭和37・38年に閉山炭鉱数のピークを迎えた。昭和30年以降、炭鉱は900を超える閉山を迎え、離職者数は20万人を超えたという。

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エネルギー政策の構造転換により、軍艦島を含む、石炭産業は衰退を迎えた。当時、炭鉱で働いていた人々は、炭鉱市場の消滅にどのように向き合ったのだろうか
(Photo/Getty Images)
 

 炭鉱市場の市場消滅は国家政策もあり、40年以上をかけて進んだが、炭鉱で働いた人々は市場消滅にどのように向きあったのだろうか。当時、炭鉱従事者がキャリアへシフトする際に、3つの“難しさ”に直面したという。

 1つ目は、「移動の難しさ」であった。炭鉱従事者は、炭鉱周辺に家族ごと暮らしていたことから、キャリアシフトには家族を含む地域の移動が余儀なくされたのである。

 2つ目は、「スキル移転の難しさ」であった。炭鉱で身に着けたスキルの特殊性から、他産業にてそのスキルを生かすことが難しかったのである。

 そして、最後は、「賃金の高さ」であった。その過酷さもあり、相対的に他産業よりも高賃金であったとされており、ここもキャリアシフトを難しくさせた要因であった。

 これら3つの“難しさ”を前に、若者は職業訓練と共に他産業への“キャリアシフト”を希望し、スキルを積んだシニア層は他炭鉱就職、つまり“転社”を希望したという。

 炭鉱の市場消滅は、国策という意味合いと、その規模の大きさから、炭鉱を担った企業の域を超え、国を挙げて再就職支援、移動手当、職業訓練などの「総合的な対策」が講じられた。

炭鉱市場消滅の際、従事者が直面したキャリアシフトの課題
(1)移動の難しさ:キャリアシフトに家族を含む移動を伴う場合、キャリアシフトに踏み出しにくい。
(2)スキル移転の難しさ:スキルの特殊性から、キャリアシフトに踏み出しにくい。
(3)賃金の高さ:現職が高賃金であるがゆえに、キャリアシフトに踏み出しにくい。

専門人材が直面する「キャリアシフト」のジレンマ

 話を現代に戻すと、エネルギー政策も今度は石油からクリーンエネルギーへと転換期を迎えつつあり、石油に関する事業従事者は市場消滅に向けた対策を講じている。どうも、この世の中では市場創造と消滅を繰り返す「市場交代」の流れがあるようだ。

 似た話は、他業界でも散見される。たとえば、音楽業界ではさまざまなイノベーションが起こり続け、そのたびに市場創造と消滅を重ねてきた。レコードがカセットテープとなり、CDがMDとなり、さらにはデジタル化の流れの中でダウンロード、そしてストリーミング(サブスク)へと進化していった。

 特にデジタル化の流れは、CDやカセットテープを製造・販売していた事業者にとっての市場消滅であり、欧米では先駆けてその影響が顕在化している。近年、注目されるデジタル技術の進展は、この「市場交代」を早めることに作用している。


 こうした「市場交代」が繰り返されると、ビジネスパーソンとしてはたまったものではない。炭鉱の例で挙げた3つの“難しさ”の中でも、ビジネスパーソンにとって最も深刻な悩みとなるのが、2つ目の「スキル移転の難しさ」だろう

 昨今、スキルの専門性が問われるようになったが、時間をかけて高度な専門性を身に着けるほどに、他産業では利用しがたい専門的なスキルを習得していくわけであり、人材の汎用性の低下につながっていくのだ。

 特に、特定の市場で長年過ごしてきた人にとって、今までの経験値のアンラーニング(学習棄却)と新たなスキルを1から習得することのハードルは高い。これが炭鉱市場の事例でも「シニア層ほどに他炭鉱(同一市場での勤務)」を希望した人が多かった要因と言える。

【次ページ】ライオンが考える、キャリア形成の鍵は「副業」?
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