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政府はロスジェネともいわれる就職氷河期世代の支援に乗り出しているが、この施策に対してはあちこちから異論が出ている。ロスジェネ支援が迷走している直接的な原因は、雇用に関する明確な方針がないまま、場当たり的に政策を遂行していることだ。だが根本的には、日本社会全体として雇用のあり方について決断できないことが、こうした事態を招いている。
ロスジェネ支援策に垣間見える“ホンネ”
政府は2019年6月に公表した経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる骨太の方針)にロスジェネ支援を盛り込み、本格的な支援に乗り出す方針を明らかにした。
30代半ばから40代半ばの世代は、バブル崩壊の影響を受け、大学や高校の卒業時に正社員として採用されなかった割合が高い。今でも不安定な雇用環境で働いていたり、場合によっては無職というケースもあり、この世代の人たちは「ロスジェネ」などと呼ばれている。
ロスジェネの問題は以前から指摘され続けてきたことだが、このタイミングで政府が支援に乗り出したのは、あまり褒められた理由からではない。年金2000万円問題がその象徴だが、現在、公的年金の財政が急速に悪化しており、近い将来、2割から3割の年金減額が避けられない状況となっている。
現時点においても年間100万円以下しか年金をもらっていない人は4割、150万円以下にまで広げると6割に達するという状況であり、今後、年金が減額された場合、生活保護受給者が急増する懸念がある。生活保護受給者の55%が高齢者世帯となっており、年金の金額が十分ではないことが困窮の原因となっている。
ロスジェネの中には、十分な稼ぎが得られないことから、年金保険料の支払いが十分ではなかったり、納付を行っていないといったケースがあり、こうした人たちが高齢者になった時には、生活保護受給者となる確率が高くなる。
いくら年金を減額しても、税金からの支出である生活保護がその分だけ増加すれば、会計項目が変わるだけで、公的な支出という意味では、大差がなくなってしまう。
これまで放置されてきたロスジェネ対策が急に具現化してきたのは、年金財政が切実になってきたからであり、本当の意味でロスジェネ支援の必要性を考えた結果ではない。
まるでポエム? 政府の施策を示す文書になっていない
理由は何であれ、ロスジェネに対する支援策が出てくるのは評価したいところだが、政府が公表したプランは多くの人を失望させる内容だった。
政府は2019年6月、経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる骨太の方針)にロスジェネ支援を盛り込んだ。しかしながら、具体策を示した資料には「切れ目のない支援」「寄り添い支援」「伴走型支援」「流れづくり」といった情緒的な文言ばかりが並び、肝心の支援策の中身がまったく分からない。
これは政府が出している公文書であり、各種の施策は国民の税金を使って実施される。「寄り添い支援」という言葉があるのなら、これまでの政府の施策の中で「寄り添わない支援」があったのだろうか。
こうした文言を公文書に盛り込むのであれば、寄り添い支援とそうでない支援の区分を明確にする必要があるし、単に情緒や気分でこうした文言を使用しているのであれば、即刻中止すべきだろう。少なくとも先進諸外国の公式な文書において、このような「ポエム」が用いられているケースは、筆者の知る限り見たことがない。
では、ポエムにあふれた今回の施策において、本当のところ具体策として何を実施するつもりなのだろうか。現時点で想定されているのは、建設や運輸など、人手不足が深刻な業界を対象に、資格取得を目的とした訓練コースを作り、ロスジェネ世代を採用した企業には支援金を提供するという施策である。
つまりロスジェネ世代に、免許を取らせ、人手不足にあえぐ建設業界や運送業界で働いてもらおうという算段である。
多くの人が想像できることだが、この施策はうまく回らない可能性が高い。
建設や運送で人手不足が深刻なのは、仕事がきつかったり、給料が安いことが最大の原因である。一方で、高い技能が必要でもあることから、そう簡単に異業種から転職できるというものでもない。
ネットでは当のロスジェネ世代と思われる人たちから「中高年になってから、プロがそろっている建設の世界でゼロからスタートするのかよ」といった嘆きの声が上がっている。
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