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業界トップを走るリーダー企業の間隙を縫って、成長を遂げる企業は少なくありません。通常、これらのチャレンジャー企業は、リーダー企業から、その戦略やサービスを模倣され、潤沢な設備や要員、高い技術力、豊富な資金力など、リーダー企業の持つ圧倒的な「強み」によって手痛いしっぺ返しをくらうことになります。しかし、一部のチャレンジャー企業は、リーダー企業の「強み」を逆手にとり、「強み」があるがゆえに、真似のしにくい戦略をとっています。すなわち、「強み」を「弱み」に変える戦略によって、チャレンジャー企業はリーダー企業が真似したくても真似できないジレンマ(板挟み)に追い込んでいるのです。本連載では、このような戦略を「ジレンマ戦略」と呼びます。今回は、業界最大手の「リクルートキャリア」を追い込む「ビズリーチ」のジレンマ戦略を解説します。
ビズリーチ vs 業界最大手リクルートキャリア
「ビズリーチ」は、ベンチャー企業のビズリーチ(以下、ビズリーチ社)が2009年に開始した、ハイクラス(高年収者)向け転職スカウトサービスです。
無料が当たり前のほかの転職サービスとは異なり、登録会員から月額利用料を取るという常識破りのサービスにも関わらず、わずか10年で売上高約215億円まで拡大しました。2021年1月時点で、ビズリーチの会員数は約151万人にも上ります。
これに対抗すべく、転職サービスの最大手であるリクルートキャリアは、2014年にハイクラス向け転職スカウトサービス「キャリアカーバー」を開始しました。キャリアカーバーの売上高や会員数は非公開ですが、公開求人数やヘッドハンターの数は、ビズリーチの約半数強にとどまり、大きく水を空けられています。
転職サイトの運営や人材紹介事業で圧倒的な強みを持ち、売上高約1,074億円(2020年3月時点)を誇るリクルートキャリアは、なぜビズリーチ社の独走を許してしまったのでしょうか。
ビズリーチの優れた「ビジネスモデル」
ビズリーチは、ハイクラス層をターゲットとした、インターネットによる転職スカウトサービスです。ビズリーチのサイトに経歴書を登録し、審査に通れば、1万社以上の登録企業および3000名以上の登録ヘッドハンターからスカウトメールが届く仕組みです。無料登録後30日を過ぎると、無料会員はスカウトへの返信や応募が出来ないため、本気で転職活動を行うためには、有料会員となる必要があります。
ビズリーチ社は、前述の方法で得た会員情報をデータベース(DB)化して求人企業に提供しています。これまで求人企業は、転職サイトの募集広告や、人材紹介会社からの紹介に頼って採用活動を行ってきましたが、ビズリーチから提供された人材DBを使えば、求人企業が求職者に直接アプローチを行う、いわゆる「ダイレクト・リクルーティング」が可能になります。
また、ビズリーチの会員は審査で選別されている上に、特に有料会員は転職意欲が高く、求人企業にとっては他社の会員よりも魅力があります。
加えて、求人企業がビズリーチ社に支払う人材DBの利用料や紹介報酬は、大手転職サイトの広告料や人材紹介会社の紹介報酬よりも安めに設定されています。ビズリーチを利用することにより、企業は「自ら、優良な求職者に、ローコストで」採用活動を行うことができるのです。
ビズリーチ社は、これらの強みを求人企業に訴求しつつ、Web会議を活用したオンラインによる効率的な営業活動を行っています。さらに、同社は求人企業だけでなく、同業となるほかの人材紹介会社(ヘッドハンター)にも自社の人材DBを提供し、そこからデータベースの利用料を得ています。
このように、ビズリーチ社の本質はプラットフォームビジネスです。有料化により会員の質を高めることで、求人企業や人材紹介会社が集まり、スカウト数が増え、結果として、さらなる会員増につながる好循環を生み出しています。また、ビズリーチ社は、求人企業のみならず、会員や人材紹介会社からも収入が得られる優れた収益モデルを作り出し、利益を上げています。
【次ページ】大手転職サイトが「ビズリーチ」に追随できない理由、ビズリーチとリクルートキャリアの戦略比較、ビズリーチのジレンマ戦略の総合得点(5点満点)とは?まるごと解説