0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
「デジタルトークン」という概念をご存じだろうか?ブロックチェーンの仕組みを用いて発行される引換券(=トークン)のようなもので、有価証券のような金銭的な価値をはじめ、さまざまなサービスを使用できる権利の機能なども持つ。このデジタルトークンを本気でビジネスに活用するにはどのような視点が必要か? ヒントは、大ヒットした『あつまれ どうぶつの森』(あつ森)にあった。
※本記事は、2020年10月6日に開催されたオンラインイベント「IT TREND 2020(主催:アイ・ティ・アール)」のアナリストセッション「デジタルトークンを活用した顧客開拓」の内容を基に再構成したものです。
デジタルトークンで変化したビジネスモデル
一般的に、デジタルトークンとは、『イーサリアム』のような既存のブロックチェーン基盤を企業や個人が間借りして独自に発行する、デジタル通貨・デジタル権利証のことを指す。
金額に相当する数量や権利の有無などをデータとしてブロックチェーン内に保持し、分散型の商取引を可能にするデジタル基盤として注目され始めている。
アイ・ティ・アール(ITR) シニア・アナリストの中村 孝氏は「デジタルトークンは、有価証券のような金銭的な価値、サービスを使用できる権利などの機能を持つ。これを活用することで、企業はリアルと仮想空間を横断したビジネスを展開できる」とデジタルトークンの可能性を示唆する。
実際、新規事業の資金調達で利用されるほか、不動産や知的財産などでの「デジタル証券」として取引されるなど、活用の幅が広がっている。
デジタルトークンは、主に2種類に大別できる。デジタル化された有価証券を「セキュリティトークン」、権利や資産をデジタル権利証(トークン)として発行するものを「ユーティリティトークン」と呼ぶ。
セキュリティトークンは投資性や金銭的な配当もある。利益を得ることを目的としてセキュリティトークンを取得してやり取りするケースが多い。2020年5月に施行された「改正資金決済法」「改正金融商品取引法」によって、ビットコインなど仮想通貨の正式名称は「暗号資産」に変更され、暗号資産についても金融商品取引法の規制が適用された。有価証券としての性格を持つセキュリティトークンも同様に、電子記録移転権利として正式に区別されることになっている。
一方で、ユーティリティトークンは、先述したように利用権や会員権といった類のものであるため、それ自体には投資性はほとんどなく、金銭的な配当もない。
では、セキュリティトークンと比べて、ユーティリティトークンにはそれほど大きな価値はないのだろうか? 中村氏は「今後注目すべきはユーティリティトークンのほうである」と説く。その理由として「ユーティリティトークンの本質が、商品価値の向上や新たな経済圏確立などに寄与するからだ」と説明する。
デジタルトークンで転売や偽造がなくなる
デジタルトークン、特にユーティリティトークンが今後のデジタル社会にもたらす価値をさらに掘り下げていこう。
まずは「商品価値の向上」の点だ。ユーティリティトークンは、不正防止の手段として活用できる。その際たるものが「偽造防止」である。
たとえば、高級腕時計などはこれまでは本物か偽物かを消費者が見分けられないこともあり、偽造を行う悪質業者が後を絶たなかった。しかしデジタルトークンが普及すれば、腕時計の製造番号と紐づけられた、世界で唯一のユーティリティトークンの発行・取得が可能となる。それにより、腕時計が本物か、偽造品かどうかを誰でも簡単に見破れる。消費者は安心して商品を買えるようになり、悪質業者も誰にも買ってもらえない偽造をあきらめるようになるだろう。
中村氏は「製造者や販売側が得られるメリットは、偽造によって商品価値が下がってしまうリスクを防止できることにある」と解説する。
これまで供給サイドは偽造を防止するために、正規品の販売数を絞り込んで管理を徹底したり、偽造品が発生した際に流通ルートを独自に追及したりしなければならなかった。しかし、「デジタルトークンを基盤として活用すれば、本来は必要のないところで発生していた無駄な手間やコストをなくすことにもつながる。商品の製造・販売コストを低減することにも貢献できる」(中村氏)というのだ。
一方、消費者側のメリットは「転売(換金)を目的とした盗難の抑止」が挙げられる。商品そのものを盗んだとしてもユーティリティトークンまで盗むことはできないため、オークションや中古品市場などに流せなくなる。ユーティリティトークンを持たない商品の転売行為から足がつき、結果として旨味のなくなった窃盗行為に手を出す者は大きく減少すると考えられる。
「デジタルトークンによって、そのモノの正式な所有者が誰なのかを簡単に証明できる社会が実現できる」と中村氏は語る。
【次ページ】『あつ森』内で生まれた、新たな顧客開拓アプローチ
関連タグ