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当初予定からの大幅な前倒しや、いわゆる「東京除外」、キャンセル料の取り扱いなど、多くの混乱を招いた「Go To トラベル」。政府肝いりの大型事業ながら、登録済みの宿泊事業者はわずか4割ほどに留まっている。半数以上の宿泊事業者はなぜ、登録申請をしなかったのか。そして、登録した事業者にはどのような影響があったのか。宿泊事業者の声を聞いた。
「GoTo」登録事業者は4割にとどまる
当初の予定を大幅に前倒す形で7月22日にスタートした「Go To トラベル」。事業開始から約1カ月が経つが、観光庁によれば、登録済みの宿泊事業者は約1万6,000にとどまっているという。総務省統計局が発表している「平成28年経済センサス」によると、日本全国のホテル・旅館・民宿などの宿泊事業者の合計は約3万5,000。つまり、40%程度の宿泊事業者しか「Go To トラベル」の登録をしていないのだ。
この状況を受けて、政府は、事業者登録締め切りの先延ばしの検討に入ったようだ。しかし、今回の件で多くの宿泊事業者を取材した筆者個人の意見を率直に言わせてもらえば、締め切り日を多少後ろ倒したところで、登録する事業者が大幅に増えるとは考えられない。その理由は、「Go Toトラベル」に参加しないことを決めた宿泊事業者の多くが、締め切りまでの時間が少ないことを理由に不参加を決めたわけではないからだ。
もちろん、なかには「Go Toトラベル」を歓迎していて、この機会に売上を取り戻そうとする事業者もいる。実際に、すでに恩恵を受けた事業者も少なくない。だがその一方ですでに述べたとおり、約6割の宿泊事業者が登録申請していないという現実もある。
「Go Toトラベル」に参加した事業者、参加しないことを決めた事業者、それぞれの思いを聞いた。
地域経済を考えると参加しないわけにはいかない
「“Go To トラベル”には賛成。この機会に4月、5月に失った売上を取り戻したい」と話すのは、中部地方にある老舗温泉旅館の社長だ。200室ほどの客室があり、最大収容人数は800人弱を数えるこの旅館。大きな施設なだけに、客が入らなかった時のダメージは甚大だ。
「外出自粛期間中の売上はほぼゼロ。それでいて、施設の維持費や最低限の光熱費、人件費など固定費は出ていきます。4月、5月にはほぼいなかったお客さんも、キャンペーンが始まってから例年の4~5割ほどに回復しました」
この旅館は、宿泊施設であると同時に、地域の中核産業という側面も持つ。グループ全体を含めた従業員数は500人を超えるという。
「この温泉街で一番大きな旅館は私たちで、ほかは小規模な旅館や民宿です。私たちには、地域の経済を支えているという自負がありますし、実際に私たちの売上は地域の経済に直結しています」
「Go To トラベル」は宿泊事業者だけをターゲットにしたキャンペーンではないと思う、と話す。
「宿泊客が戻らなければ、地域の交通機関、飲食店、土産物店、納入業者、農家の方などにまで影響が出ます。実際に、いくつかの納入業者は自粛期間中につぶれてしまいました」
社長は「批判が目立ちますが、地方の経済を考えると意味のあるキャンペーンだと思います」と話している。
この社長が話すように、本来はメリットが多いはずなのだが、なぜ多くの宿泊事業者は参加に消極的なのだろうか。次ページでは「Go To トラベル」の参加を見送った宿泊事業者の声を紹介する。
【次ページ】「うちがクラスターを発生させてしまったら……」という不安
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