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日用品や化粧品卸の最大手であるPALTAC(以下、パルタック)。同社の新しい大型物流センター「RDC埼玉」が10月10日に完工した。投資総額230億円、床面積約45,000平方メートル、取り扱いは2万SKU(ストック・キーピング・ユニット:受発注・在庫管理の最小管理単位)以上、11月半ばに本格稼働の予定のこの倉庫にはロボットスタートアップ3社のソリューションが導入されている。中でもピースピッキングに導入されたRightHand Robotics社(以下、ライトハンド・ロボティクス)は今回が日本初上陸。今後、日本を含めたアジア市場進出に向けて活動を本格化するという。設立されたばかりの日本法人の代表・田村 研三郎氏に話を伺った。
「RightPick」はなぜ初見の物体をピッキングできるのか
RightHand Robotics(ライトハンド・ロボティクス)は米国マサチューセッツ州ボストン近郊に本社を置くスタートアップである。倉庫内物流ソリューション、中でも個別商品のピッキング、つまりつかんでケースから別のケースへと移動するいわゆる「バラピッキング」に特化したソリューション「RightPick」を提供している。各種センサーを内蔵したグリッパーと吸引吸着を組み合わせたロボットハンド、その制御技術、そして画像処理ソフトウェアが同社の売りだ。
創業者・メンバーは、高度なロボットマニピュレータの開発を目的とした米国DARPA(国防高等研究計画局)による「Autonomous Robotic Manipulation (ARM) 」program(2011-2013)に参加していたハーバード大学バイオロボティクスラボ、イェール大学のGRAB Lab、マサチューセッツ工科大学(MIT)の出身者で構成されている。当時はイラク戦争を背景としており、「開発ターゲットは道路沿いの地雷をロボットアームで撤去することを目的にしたものだった」と田村研三郎氏は語る。
会社設立は2014年。設立者はYaro Tenzer氏、Leif Jentoft氏の2人。ピッキングのアプリケーションをどこに絞り込むかリサーチした末、倉庫内物流が最もメリットがあるという結論に至り、ロジスティクスに焦点を絞って開発を続けた。
同社のロボットは、3PL(注1)やeコマース用倉庫でのコスト削減と人手不足問題を解決するという。
注1:3rd Party Logistics(サードパーティー・ロジスティクス)。第3者機関に物流の全体/一部を委託すること
「倉庫内では自動倉庫や、ソーター、コンベヤーなどの機械によって、さまざまな部分がすでに自動化されています。唯一自動化できていないところがピッキングです。ケースのピッキングはありますが、バラ(個別商品)のピッキングはソリューションがない。我々はそこに注力しています」(田村氏)
背景はeコマースの増大、それに伴うSKUの増加だ。eコマースでは商品1個、2個単位で出荷しなければならない。そのため倉庫内でも「ケース」単位ではなく、「バラ」を扱う必要が急増している。一方、ピッキング現場は人手不足問題が発生しており、自動化ニーズは高い。だが、多種多様な商品をピッキングするのは至難の業で、いまでも多くの人手が使われている。それを自動化するのが同社の技術である。
ライトハンド・ロボティクスのピースピッキングソリューション「RightPick」の発表・実演は2017年4月に米国シカゴで行われた物流展示会「ProMAT」で行われた。なおこのとき(2017年3月末)、Playground Global社、ドリームインキュベータ、Matrix Partners社が出資を行っている。米国ではすでに各社に導入されているとのことだが、具体数などは非開示。「RDC埼玉」に10台導入された「RightPick2」は2019年4月に
発表されたもので、もちろん日本初導入である。
マスター登録なしで何でもピックできる
「RightPick2」は、重さは2kgまで、長さ30cmくらいのものまでなら何でもつかむことができる。ピースピッキングにおいて同社が重視しているのは「Range(範囲)」、「Rate(速度)」、「Reliability(信頼性)」の3つだ。「この3つを満たせなければ実用的なソリューションにならない」という。
技術的ポイントは2つである。1つ目は、グリッパーと吸着を組み合わせた独自ロボットハンドだ。
「競合他社は吸着だけが多い。軽いものなら吸着でも十分ですが、ものが大きくなったり、かたちが安定してないと難しくなります。たとえば洗剤入りのパウチは吸着だけでは扱えません。広い範囲の商品に対応するなら、どうしてもグリッパーが必要です。また、コンテナから別のコンテナへ移動するときにもハイスピードで運ぶときに吸着だけだと商品が飛んでしまうこともあります。そういう意味でも2つの組み合わせは非常に重要です」(田村氏)
パルタックでのフォトセッションの折も、同社のロボットハンドだけはクローズアップでの撮影は許可されなかった。詳細は非開示だが、多数のセンサーが内蔵されており、柔軟にできている点がポイントだという。
2つ目が、ビジョン/モーション制御ソフトウェアの「RightPic.AI」、そして画像処理に用いられる機械学習技術である。この技術によって、ライトハンド・ロボティクスでは、マスター登録必要なしのピッキングソリューションを実現した。
「日用品、化粧品、薬品は常に新しい商品が出ます。季節商品向けにはステッカーが貼られることもある。マスター登録が必要なシステムでは、ステッカーが貼られるだけで別物扱いになってしまいます。ですので事前にデータベースに商品の寸法、重さ、全角度からの画像などを登録しておく必要がありますが、我々の『RightPick』はその必要がありません。ロボットには学習済みのモデルが実装されていて、それまでの経験を生かしながら初見のものでも取っていくことができます」(田村氏)
学習方法の詳細については非公開だ。その場その場で毎回学習するわけではなく、1週間に一度程度、学習用のデータを送っており、ソフトウェアは2、3カ月に一度更新されるという。
なお、同社は2020年2月に東京ビッグサイトで行われる「
国際物流総合展」でデモ出展を行うとのことだ。そこでは本当に初見の物体でもピックできることを実演する予定だ。「RightPick」では、ロボットハンドでのアプローチは難しいような状況、たとえばコンテナ内の隅に商品が残っていた場合は、指を使ってかき出してからつかむといったこともできるそうだ。ぜひ、実際に試してみたい。
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